市場の風を読む

<p>モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。</p>

サイバーセキュリティがポートフォリオを変えつつある

サイバー犯罪が加速する中、サイバーセキュリティは底堅い投資機会として急成長しています。このような市場の変化の原動力となっている重要なトレンドについて弊社サイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はサイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが登壇し、サイバー犯罪に対するデジタル防衛の未来について解説します。このエピソードは9月12日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。朝起きると、サイバー攻撃を受けて預金残高がゼロになっていた、業務運営がフリーズしていた、個人情報が漏洩していたと想像してみてください。サイバーセキュリティは今や一部の特別な人だけの問題ではありません。消費者であり投資家である我々すべてに影響が及びます。デジタル環境がますます複雑化する中で、サイバー犯罪の規模と深刻さは増しています。このことは企業が支出を増やしてもそれ以上の勢いでリスクが増えていることを意味します。投資家にとって、これは警告であり機会でもあります。サイバーセキュリティの市場規模は現在2,700億ドルです。弊社の予想では2028年まで年率12%のペースで拡大する見通しで、成長率はソフトウェアの中でトップクラスです。もうひとつ注目すべき数字があります。弊社がアンケート調査を実施した企業のCIOは、サイバーセキュリティ支出がソフトウェア支出全体を50%上回るペースで伸びると予想しています。これはサイバーセキュリティがIT予算の中で最もディフェンシブな領域であり、厳しい時期でも最も削減されにくいことを示しています。投資家はすでにこれに気づいています。セキュリティソフトウェア株は幅広い市場を上回るパフォーマンスを上げており、過去3年間のリターンはソフトウェア全体の22%を上回る58%で、NASDAQは79%でした。AIの登場によってハッカーの攻撃方法が増え、それらの脅威が進化する方向性も増えるため、セキュリティソフトウェア株がソフトウェア全般をアウトパフォームする状況は今後も続くと思われます。今後は相互に関係し合ったいくつかの非常に大きなテーマがサイバーセキュリティ株の投資機会を高めるものと考えます。中でも最大のテーマのひとつはプラットフォーム化、つまりセキュリティツールと統合プラットフォームの一体化です。大手企業は現在、平均で130もの異なるサイバーセキュリティツールを使用しています。ロボットやドローンのようなコネクテッドデバイスの登場により、統合セキュリティプラットフォームの重要性が今まで以上に増す中で、このようなやり方は分かりにくく複雑になりがちで、防御に重大な欠陥が生じる可能性があります。その他に考慮すべきこととして、セキュリティ投資はIT予算全体の6%を占めていますが、AI投資では全体の1%に過ぎないことが挙げられます。つまり、AIが業務運営で中心的な役割を果たすようになるにつれ、大きな成長余地があるといえます。今日のサイバーセキュリティ戦では、多くのツールを積み重ねたり、最新のバズワードを追うだけでは不十分です。弊社の見立てでは、カオス状態を分かりやすい状態に変えられるサイバーセキュリティ・プロバイダーが最大の勝者の一角を占めるでしょう。これらの企業は売上高とフリーキャッシュフローを増やすだけでなく、断片化した多数の防衛ツールを管理しやすい統合プラットフォームにまとめています。これらの企業は単に大きくなるだけでなく、賢さと迅速性と回復力を高めたいと考えています。そして、雑音を遮断し、システムを切れ目なく稼働させ、新たな脅威の出現に直ちに順応することが重要だと理解しています。サイバーセキュリティの領域では複雑さは害となり、簡単であることが非常に大きな力を持ち始めています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-12
06:02

印中貿易の次の展開は?

アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、変化し続けるインドと中国の貿易関係が、世界のサプライチェーンの見直しや新たな投資機会の発見につながる可能性についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はアジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、現代の最も重要な経済関係の一つであるインドと中国の関係、そして両国関係がこの先どうなるのかについて解説します。このエピソードは9月11日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。インドと中国の貿易ダイナミクスは急速に変化しています。このダイナミクスは両国自身の将来を方向付けているだけではありません。世界のサプライチェーンや投資の流れに影響を及ぼしています。インドの対中貿易は過去10年間で2倍近くに拡大しています。インドにとって中国は最大の貿易赤字国であり、対中貿易赤字は現在1,200億ドルに達しています。一方、中国のインドに対する貿易黒字は、全てのアジア諸国の中でも最大級の規模に膨らんでいます。経済的必要性ゆえにこうした両国の貿易関係はいっそう深まるでしょう。インドは技術的な専門知識や資本財、重要な構成品目の支援が必要です。中国は、新興国で2番目の経済規模と成長率を誇るインドにおける成長機会をうまく活用する必要があります。これらの問題について順番に考察してみましょう。インドは世界のバリューチェーンの一角に入り込む必要があります。そしてそのためには、中国からの直接投資が必要です。まさに中国が米国、欧州、日本、韓国からの直接投資によって技術や専門知識を取得し、経済大国にのし上がったのと同じような構図です。インドにとって、中国の対外直接投資の規制緩和はゲームチェンジャーになり、技術的なノウハウの移転や製造業の競争力強化につながる可能性があります。現在、中国は世界最大の製造業国です。世界のバリューチェーンの40%以上を占めており、これは米国の13%やインドのわずか4%を大幅に上回る規模です。世界の財の貿易は徐々に、半導体や電気自動車、電気自動車用バッテリー、ソーラーパネルなど、バリューチェーンの上流の製品が中心になってきています。そして中国は8つの主要製造業セクターのうち6つのセクターで世界1位の輸出国です。簡潔に言えば、世界のバリューチェーンへの関与を高めたい国はみな、中国との貿易を増やさなければならないでしょう。インドにとってこれは、資本財や自国の産業化に必要とされる重要な構成品目に対する需要が増える中、需要を満たすには中国からの輸入に頼らなければならないことを意味します。実際、こうしたことはすでに起きています。インドの中国および香港からの輸入の半分以上が資本財、すなわち、製造業やインフラ投資に必要な機械設備です。このほか輸入の3分の1を工業製品が占めており、インドが重要な構成品目の供給元として中国に依存していることが分かります。中国の観点からすると、インドは2番目に大きく、最も成長率の高い新興国市場です。米中貿易問題が続く中、中国は輸出市場の多様化を進めており、インドは大きな機会を見込める市場です。中国企業がこの成長機会を捉える一つの方法は、インドに投資して国内市場の需要に応えることです。中国の携帯電話会社はすでにこれを実行しており、これが他のセクターにも広がるかどうかはインドの市場開放次第となるでしょう。要するに、インドは製造業や技術における中国の強みをうまく活用できる一方で、中国は輸出先や投資先としてインドの巨大な市場を利用することができるのです。しかし、気を付けなければならないのは地政学的要因です。経済的必要性から貿易や投資の関係は深まると考えられますが、政治情勢によって進ちょくが遅くなる可能性があります。投資家はこの点を注意深く見守る必要があります。重要な進展についてはわれわれが常に最新の情報をお知らせします。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-11
06:02

金が市場で輝きを保つ理由

金に対する強気見通しと、25年の金相場の上昇が示すインフレ、中央銀行、世界のリスク状況について金属・鉱業コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は金が投資家にとって単なる安全資産にとどまらないことと、金が示す今の世界経済と市場の状況について、弊社金属・鉱業 コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードは9月9日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。金は不確実性の時代の投資先として常に選ばれてきました。ただ、2025年になって金の役割は進化しつつあります。投資家は金をインフレヘッジとしてだけでなく、中央銀行の金融政策から地政学リスクまで含めたあらゆる事柄を測るバロメーターとして捉えています。金相場の変動は、多くの場合、水面下で何か重要なことが起きているサインです。金は年初来で39%、銀は42%とどちらもすでに大幅に上昇しています。この上昇の背景には何があるのでしょうか。いくつかの要因が挙げられます。ひとつは、中央銀行が今年も大量購入を続けていることです。中銀の準備資産に占める金の比率は1996年以来初めて国債を上回りました。これは金の長期的価値に対する強い信認を示します。また、金に連動する上場投資信託(ETF)には8月だけでも50億ドルの資金が流入し、年初来の流入額は2020年を除いて過去最大に達しており、機関投資家の関心の高まりが改めて示されました。多くの主要国で目標値を上回るインフレが続く中、金は収益を生まない資産であるにも関わらず、驚くほど根強い魅力を保っています。そして投資家は中央銀行がまもなく利下げせざるを得ないだろう見ており、そうなれば金相場はさらに上昇する可能性があります。実際、弊社では年末までにさらにおよそ 約5%の上昇を予想し、史上最高値の1オンス3,800ドルに達すると見ています。ただし、考慮すべき重大な点がひとつあります。貴金属、とりわけ金は主にマクロ経済が不透明な時期のヘッジや安全資産とみなされますが、貴金属市場全体を見ると宝飾品がかなりの比率を占めています。金は需要の40%、銀は35%が宝飾品です。そして、宝飾品需要の見通しは現時点では不透明です。実のところ、宝飾品需要はすでに減速の兆しが見えています。第2四半期の金の宝飾品需要は2020年第3四半期以降で最低となりました。金価格が高騰し、消費者が購入を手控えたためです。ただ、それにもかかわらず金は1-4月に上昇した後の水準を保ち、銀は太陽光発電業界の旺盛な需要を受けて上昇し続けました。しかし、金と銀はどちらも最近までさらなる上昇の牽引役が不在でした。ただ、現在はこれが変わりつつあり、金と銀の両方がFRBの利下げから恩恵を受けると見られます。弊社エコノミストはFRBが9月の会合で利下げすると予想しており、利下げは2024年12月以来となります。1990年代を振り返ると、FRBが利下げサイクルを開始して最初の60日間に金は平均6%、銀は平均4%上昇しています。利下げによって収益を生まない資産の競争力が高まるためです。また、弊社の為替ストラテジストはドル安の進行を見込んでおり、したがってドル以外の通貨の保有者にとっては価格圧力が多少和らぐと思われます。インドの金・銀の輸入は7月にすでに改善の兆しが出ています。インドは物品・サービス税改革も予定しており、それによって祭礼・婚礼シーズン前に金銀を購買する余力が増す可能性があります。金はFRBの利下げ後にアウトパフォームする傾向があるため、弊社は引き続き銀よりも金を選好しますが、弊社の見通しは金銀ともに良好です。もちろん、貴金属は無リスクではありません。価格変動があり、もし中央銀行が予想外に利上げすれば、特に金は多少魅力を失う可能性があります。しかし、当面は金も銀も輝きを保つでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-10
06:55

新たな強気相場の始まりか?

9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、米国経済がローリング・リセッションからローリング・リカバリーに移行しているとの見方を裏付ける内容でした。では、米国株は今後どうなるのか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジスト、マイク・ウィルソンが見通しをお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、先日発表された雇用統計と、米国株にとってのその意味について、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。このエピソードは9月8日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。大いに注目されていた9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、労働市場は弱いという弊社の見立てを裏付ける内容でした。しかし、弊社は何ヵ月も前からこのことを論じており、株式市場にとっては言わば古いニュースです。第1に、ひょっとしたら雇用統計は最も後ろ向きな、つまり過去に目を向けている経済指標かもしれません。第2に、この統計は大幅に改定されることが特に多く、リアルタイムでは最新のデータが当てにならない傾向があります。全米経済研究所(NBER)が景気後退の始まりを宣言するころには、ほとんどの人が景気後退期にあることを意識しなくなっているのが普通であるのはそのためです。また過去の実績からは、非農業部門雇用者数の改定がプロシクリカルであることがうかがえます。景気後退に向かっている局面では下方修正の幅が大きくなりがちで、景気回復が始まれば上方修正の幅が大きくなりがちだという意味です。今回もこのパターンに沿っているように見えます。実際、金曜日の改定は前月のそれより大幅に良い内容であり、労働市場が第2四半期に「底を打った」ことを示唆しています。このことは、私が何年も前からお話ししている、景気と市場に対する弊社の基本的な説を裏書きしてくれます。 具体的に言えば、米国では2022年に「ローリング・リセッション」が始まり、今年4月の「解放の日」に相互関税が発表されたことをもってようやく底を打ったと私は考えています。このローリング・リセッションの初期段階は、新型コロナによるハイテク製品や消費財の需要前倒しの反動が主導する形で進みましたが、やがて他のセクターもそれぞれ異なるタイミングで不況に突入していきました。従来型のリセッションの判定に用いられる指標で典型的な変化が観察されなかったのに、今になってそれらの改定値で変化がより明確になっているのは、それが主な理由です。新型コロナ後に移民の流入が歴史的な大幅増になったことと、今年になってその取り締まりが行われていることも、労働市場の多くの指標をさらにゆがめることになりました。弊社はここ数年、こうした話題を広く取り上げてきましたが、金曜日に発表された弱い雇用統計は、米国経済がローリング・リセッションから「ローリング・リカバリー」に移行しつつあるという弊社の説を裏付ける証拠だと言えます。つまり、景気は新たな循環に入りつつあり、4月に始まった新しい強気相場が今後どこまで続くかについてはFRBの利下げがカギを握ることになるでしょう。弊社の見解で何よりも重要なのは、過去3年間の景気は多くの企業や消費者にとって、GDPや雇用のような総合的な経済統計が示唆するものよりはるかに弱かったということです。景気の強さを測る際には、消費者や企業の景況感調査に加え、企業の利益成長とその広がり方に着目する方がよいと弊社ではみています。ひょっとしたら、景気の良し悪しを判断する最もシンプルな方法は、今の景気は幅広い層に繁栄をもたらしているのかと問うことかもしれません。この物差しに照らして言うなら、答えは「ノー」だと弊社では考えます。ここ3年間はほとんどの企業で利益がマイナス成長になっているからです。ただ、良い知らせがあります。過去2四半期では、この利益成長がようやくプラスに転じているのです。そして同時に、ここ数ヵ月間弊社が強調してきたように、企業の業績見通しのV字回復も広がりを見せています。このことも、ローリング・リセッションが最悪期を脱したこと、おそらく「谷」は4月だったことを裏付けていると思われます。株式市場はいつものようにこれを正確に把握し、底を打ったのです。さて、これから本物の利下げサイクルが始まる公算が大きく、この新たな強気相場が続くためにはそのような利下げが必要だと弊社ではみています。ただ、FRBは遅行指標である労働市場のデータの弱さよりもインフレの方をまだ重視している可能性があり、利下げは株式投資家の願望よりも緩やかなペースで進むことになるかもしれません。また、企業と財務省の両方が資金調達を増やすために流動性資金が少し干上がるかもしれない兆しもあることから、株価が軟調になりやすい季節に相場が一服したり、さらに進んで調整したりしても、私は驚かないでしょう。もしそうなったら、弊社なら押し目買いに入るでしょうし、FRBがさらにハト派的になることや財務省と連携することも見込んで、クオリティで劣る銘柄にも物色の幅を広げることすら検討するかもしれません。結論を申し上げれば、2022年に始まったローリング・リセッションの底打ちをもって、株式市場では新しい強気相場が始まりました。この相場はまだ初期段階にあり、株価の下落には押し目買いで臨むべきです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-08
07:29

FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?

コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが金融緩和を開始した場合にクレジット市場への懸念が生じかねない理由についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBの利下げを受けて、企業が積極的な姿勢を強める可能性について解説します。このエピソードは8月27日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、FRBのジェローム・パウエル議長は、次の会合で利下げを行う見通しであることを強く示唆しました。利下げ判断は市場が予想していたものですが、決して既定路線ではありませんでした。FRBは失業率とインフレ率を低く抑えるという責務を負っています。米国の失業率は低いですが、インフレ率はFRBの目標水準を上回っているだけでなく、最近の傾向では目標とは逆の方向に向かっています。インフレ率を引き下げるには、FRBは利下げではなく利上げを行うのが一般的と言えます。しかし、今回予想されるFRBの政策措置は利上げではありません。雇用市場が近く悪化する可能性がある一方で、こうしたインフレ圧力は一時的なものにすぎない、という重要な確信を抱いているとみられるからです。FRBは通常とは異なる難しい状況に置かれており、現在FRBの周りで起きていることが状況をさらに異例なものにしています。 ご承知の通り、FRBは経済が過熱せず、冷めすぎてもいない、均衡状態を維持しようとしています。そしてこの点に関しては、金利が蛇口の栓のような役割を果たします。しかし、金利の他にも、経済の水の温度に影響を与える要因は複数あります。資金の借り入れがどの程度、容易か? 通貨の価値は上昇しているか、下落しているか? エネルギー価格は高いか、低いか? 株式市場は上昇しているか、下落しているか? しばしば、これらの尺度はまとめて金融情勢と称されます。従って、インフレ率が目標を上回り、しかも上昇している一方で、FRBが金利を引き下げるのは珍しいことですが、経済活動を左右するこれらの金利以外の要因、つまり金融情勢がこれほど緩和的なものである中で、FRBが利下げするのは、恐らく、さらに異例なことと言えるでしょう。株価のバリュエーションは高く、クレジットスプレッドはタイトで、エネルギー価格は低く、為替はドル安の状況にあります。債券利回りは低下しており、米国政府は多額の財政赤字を抱えています。これらは全て、経済を加熱させがちな要因です。流し台にお湯を継ぎ足しているようなものです。金利を引き下げれば、経済の温度はさらに上昇する可能性があります。クレジット市場にとって、これは少々厄介なことです。クレジット市場特有の、2つの理由が挙げられます。クレジット市場は現在、素晴らしい1年のさなかにあります。そして、企業は総じて、かなり保守的な姿勢を維持し、合併案件は少なく、企業の借り入れ額は通常比較対象とされる政府ほど多くない、といったことが好調の一因です。こうした節度は全て、クレジット市場にとって大きなプラス材料となります。しかし、先ほどお話した状況は、企業が節度を緩める原因となりそうです。すでに緩和的な金融情勢を、FRBがさらに緩和することになれば、企業は実際、繁栄を謳歌したいという気持ちを、いつまで抑えることができるでしょうか? 最近、合併が再び増え始めています。また、従来、このように企業の積極姿勢が強まると、株主にとってプラスとなる可能性があります。一方、貸し手にとっては、往々にして厳しさが増します。とは言え、他の追い風要因がこれだけあるにもかかわらず、米国の雇用市場は実際のところ、さらに悪化する見通しであるというFRBの警告が正しい可能性もあります。この見立てが正しければ、これも企業が節度を緩める端緒となりそうです。雇用市場が悪化する中で、FRBが金利を引き下げた際、これまで大半の場合、経済全般へのリスクゆえに、クレジット市場はとりわけ厳しい時期に直面することとなりました。現在は、ほぼデータ次第という状況にあります。FRBの政策判断に加え、来年の新たなFRB人事も、情勢を変化させる可能性があります。しかし、大幅なアウトパフォーマンスの後、クレジット市場は、企業がこの先節度を緩める可能性を示唆する兆候がある中で、他の債券市場に後れを取ることになるかもしれません。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

08-27
06:42

FRBの方向転換に株価はどう反応するか

先週のジャクソンホール会議におけるFRBのパウエル議長の発言が、9月にも利下げが実施される可能性を残す内容だったことから、市場の専門家は活発に意見を交わしています。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、米国株式に対する引き続き強気な見通しについて説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、FRBが発信した政策に関する新たなシグナルと、それが株価にとって意味するものについて解説します。このエピソードは8月25日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。数ヵ月前から市場は、FRBが秋に、よりハト派的な姿勢に転じると予想するようになりました。より具体的には、FRBが9月に再び利下げを開始する公算が大きいことを、債券市場が織り込み始めました。関税、国際紛争およびバリュエーションに関する懸念が残っているにもかかわらず、株式市場は、こうした債券市場のシグナルを手がかりに、夏の大半の期間において、上昇しました。過去に比べて堅調な業績予想修正に弊社は注目しており、さらに、依然として時期は不透明だとしても、FRBの次の一手は利下げになるとの見解を念頭に、我々は同じ期間、強気スタンスを維持してきました。FRBが毎年ジャクソンホールで開催する経済シンポジウムが、先日、開催されました。FRBは通常、目先の政策意図や、戦略的な政策の枠組みにおけるより広範な判断について説明します。今回の重要なポイントは以下の2点です。第1に、前回パウエル議長が公に話した時に比べて、FRBが9月に利下げする見込みは強まったように見えます。この変化が起こる1週間前には、市場が既に理解しているものがインフレ指標によって確認されるまで、パウエル議長がよりタカ派的な姿勢を維持するのか、市場は決めかねていました。明らかにパウエル議長はハト派寄りに傾きました。そして、金曜午前中のパウエル議長の講演を前に市場はやや神経質に推移していたため、株価は取引終了までに大幅に上昇しました。第2に、FRBは、今後はインフレ率の目標を平均で2%とはしないことも示唆しました。今後は、常時2%が目標になります。これは、2021-22年にFRBが行ったように、平均で目標を達成するために、目標を上回る水準や下回る水準を容認しないことを意味します。同時に、現在予想されているよりも力強く景気が回復するか、またはインフレが再加速した場合は、FRBがよりタカ派的な姿勢をとることも示唆しています。筆者の視点からは、これは今後数週間の株価にとって強気な要因で、現在、市場は9月の利下げを完全に分織り込むことができます。ただし、S&P 500が以前から我々が維持している目標の6500ポイントに近付くに伴い、9月と10月は考慮に値するリスクがいくつかあります。第1は、経済成長の上振れまたは予想より高いインフレのいずれかを理由に、FRBが利下げを行わないと判断するリスクです。その場合、現在、高い確率で利下げが実施されることが織り込まれているため、株価に若干の調整が入ると見られます。第2のリスクは、FRBは利下げを行うものの、債券市場が、これまでインフレに対して全く無防備だったと判断し、中長期債の利回りが急上昇するリスクです。10年物米国債利回りが急上昇すると、米国債とFRBが再び主導権を取り戻すまで、株価に、より大幅な調整が入ると見られます。ここで重要なメッセージをお伝えしたいと思います。大規模な弱気相場は4月に終わり、新たな強気相場が始まりました。新たな強気相場が4ヵ月しか続かないことは稀で、少なくとも1年から2年は続くと見られます。したがって、この秋に押し目があれば、中長期投資にとっては買いの好機となるでしょう。こうした弊社見解への確信をさらに後押ししているのは、業績予想の大幅な上方修正が続いていることです。FRBは判断を下す際に経済指標を利用しています。そうしたデータは総じて回顧的 なものです。株式投資家が着目する企業データとガイダンスは、将来を考慮したものです。この事実だけでも、株価とFRBの判断の間の大きな相違を説明することができます。FRBの判断は遅れがちで、株式市場が過去に起こったことではなく、今後何が起こるかを既に理解した後になる傾向があります。結論として、企業と株式市場が発信しているメッセージを踏まえ、我々は今後12ヵ月間に対しては、強気スタンスを維持します。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-25
06:44

クレジットスプレッドが縮小している時期に気を付けること

クレジットスプレッドが20年以上見られなかった水準にまで縮小しています。企業セクターが健全であることを示唆する現象ですが、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、投資家が今後気を付けて見ていく要因が2つあると指摘しています。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、クレジットスプレッドが20数年ぶりの水準に縮小していることをどう解釈すべきなのか、この状況に変化をもたらし得るものは何かという2点について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。このエピソードは8月22日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。投資家が企業にお金を貸すときに得る利回りは、政府にお金を貸すときの利回りよりも高くなります。この差のことをクレジットスプレッドと言います。そのような差が利回りに生じるのは、リスクが異なると認識されているからです。そして債券投資家は、この差は本来どうあるべきなのかを考え、議論し、取引することに長い時間を費やします。クレジットスプレッドは、当該企業の格付けが引き下げられると拡大します。またその拡大の幅は、満期までの期間が長い債券の方が、短い債券よりも大きくなるのが普通です。投資家がクレジットに投資するのは、国債利回りに上乗せされているクレジットスプレッドの一部をあわよくば手に入れたい、それも、追加リスクをさほど負わずにそうしたいと考えるからです。ところが今日(こんにち)の市場では、このクレジットスプレッドが非常に小さく――相場用語で言えば「タイト」に――なっています。米国では、投資適格の社債を購入しても、年限の同じ米国債よりおよそ約4分の3%、つまり75ベーシスポイント高い利回りしか受け取れないのが実情です。欧州でも、最も安全と言われるドイツ国債と欧州企業の社債との利回りの差は同じくらい小さくなっています。クレジットスプレッドがここまで小さくなるのは、米国では1998年以来、欧州では2007年以来のことです 。では、果たして何が起きたらこの状況は変わると考えられるでしょうか。投資のバリュエーションについて考える1つの方法は、――そして、スプレッドは間違いなくバリュエーションの指標の1つだと言えますが――長期間にわたり持続した前例がひとつも見当たらないくらい極端な水準か否か、という観点があげられます。ただクレジットの場合、この議論は厄介です。スプレッドが今の水準よりの低かった時期は何度かありました。米国では1990年代の半ば、欧州では2000年代の半ばにそれぞれ観察されており、いずれも何年か続いていたのです。それにもっと昔、それこそ1950年代まで振り返ってみると、米国のクレジットスプレッドはさらに低かったようなのです。スプレッドはリスク・プレミアムの指標でもありますが、リスク・プレミアムについて考えるもう一つの方法は、自分が取った超過リスクに見合っているか自問することです。この場合も、スプレッドが非常に小さいため厄介です。社債に投資してもわずか4分の3%つまり75ベーシスポイントの超過リターンしか得られないというのは、時折相場に目を通すだけの人にとっても、このポッドキャストを聞いてくださっている経験豊富な社債投資のプロの方にとっても、何だかスズメの涙のように思われます。しかし弊社が過去のデータを分析したところ、投資適格の社債にそれなりに長い期間投資したときの超過損失、すなわち同じ時期の国債投資による損失を上回る損失は、実はさきほど述べた、4分の3%のおよそ半分であることが分かりました。そしてこの関係は、比較的長い期間続いているのです。それに、スプレッドが過去の基準に照らして非常に小さい時期でも、極端なバリュエーションがすぐに修正されるとは限りません。何らかの力が働いて相場に衝撃が及ばなければならないケースが多いのです。今日(こんにち)のクレジット市場は投資家の旺盛な需要、全般に良好な利回り、そして政府よりも良好な借り入れ見通しという3点に恵まれていることから、弊社としては、この状況に変化をもたらすかもしれない次の2つの要因に注目していこうと考えています。1つ目は経済成長の鈍化です。成長率が今よりも低下すれば、企業向け貸付のリスクプレミアムの上昇が必要だという主張が強まるでしょう。米国がリセッション(景気後退)にある時期には、クレジットスプレッドは程度の差こそあれ、常に現在の水準を大幅に上回っていました。過去1世紀のデータを見てもそうなのです。したがって、リセッション入りの恐れが強まるときには、クレジットがそれを察知するはずだと思われます。 2つ目は政府の財政見通しです。現在の見通しは企業のそれよりも悪く、クレジットスプレッドが通常よりタイトになることを裏付ける状況になっています。また先日成立した米国の予算案は、法人税の減税を民間セクターに拡大する一方で長期国債の発行増加を見込んでいたため、財政見通しを一段と悪化させるだけでした。しかし本当のリスクは、企業がこうした追い風に乗じて慎重さを忘れ、投資やほかの企業の買収のために借り入れを再び増やし始めることでしょう。弊社では、この種のアニマル・スピリットをまだ観察していません。しかし、経済成長が続けば、普通であればそうした動きが出てくるのは時間の問題だというのが歴史の教えるところです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-22
07:38

強弱材料入り混じるデータを受け、FRBは次にどう動くか

7月の雇用統計とCPIが強弱材料が混在する内容だったことを踏まえ、市場はすでにFRBの利下げを織り込み済みです。グローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、利下げに向けたハードルが上がったという弊社の基本ケースを維持する理由について解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はグローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、7月のCPI発表後のFRBの政策路線や、他の中央銀行に与えるより広範囲な影響について弊社の見解をお話します。このエピソードは8月20日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。弊社の基本ケースは、FRBが年内、政策金利を据え置くというもので、先週発表されたCPIはこの見解を変えるものではありませんでした。以前指摘したように、関税措置の実施の遅れに伴い、平均の関税率はなおも上昇しているため、物価への累積的な影響はさらに遅れる可能性があります。CPI統計では、アパレルと自動車を除き、関税の影響を受けやすい財の価格は7月も上昇しました。予想外だったのはサービス部門で、今年の大半においてデフレ傾向だった航空運賃やホテル料金が上昇したことが主因となり、サービス価格の上昇が再び加速しました。関税の影響で夏の間にインフレが加速するという弊社の見解に反する要点の中には、サービス部門のディスインフレが相殺する可能性があるとの見方もありました。しかし、今回の発表で明らかになったように、その可能性はなさそうです。サービスインフレは今後も減速すると予想していますが、2025年前半に見られたサービス部門のディスインフレは、基調の弱さや値動きの激しさによって誇張されていたと考えており、コアCPIとコアPCEの上昇率はいずれもまだ去年 昨年とほぼ同じ水準で推移しています。 このため、夏の間に関税の影響で財のインフレがさらに加速することで、インフレ率はFRBの目標を大幅に上回る水準にとどまるでしょう。7月の雇用統計とCPIの発表を受け、9月の金利据え置きに向けたバードルが上がったのは明らかです。では、弊社の基本シナリオに対するリスクは何でしょうか。 9月の会合までの間にデータに対するFRBの金融政策反応関数がどう展開するか、というポイントに立ち返ります。8月の雇用統計が重要となるでしょう。雇用者数の伸びが前月比で加速し、失業率が4.2%から4.3%前後になるなど、雇用統計が堅調な内容であれば、FRBは5月と6月の雇用統計の弱さについて、相互関税導入が発表された「解放の日」以降の不確実性が減速の原因であり、基本的な傾向を表すものではないとしておそらく目をつぶるでしょう。しかし、雇用ペースが大幅に鈍化すれば、FRBは労働市場は予想していたよりもはるかに弱いと判断し、緩和を再開する可能性があります。リスク管理の観点から利下げを行う可能性もあります。ただ現時点では、JOLTSと呼ばれる求人労働異動調査や新規失業保険申請件数などの、他の雇用市場指標では雇用の大幅減速は示されていません。インフレ率が目標をはるかに上回る水準で推移していても、FRBは7月の雇用統計を、労働市場へのダウンサイドリスクを示す明らかな兆候と捉え、緩和サイクルを開始する可能性があります。FRB関係者らのメッセージはこれまでのところまちまちで、雇用統計を警鐘と受け止める関係者もいれば、失業率はなおも低いとしてそれほど懸念を示さない関係者もいます。米国外では、各国中銀の政策軌道は引き続きFRBの道筋や、刻々と変わる米国の成長見通しに密接に結びついています。先般の雇用市場データは、ECBと日銀についての弊社シナリオにダウンサイドリスクをもたらしました。欧州では、ユーロ高が続き、米国のリセッションリスクが高まれば、弊社の欧州担当エコノミストは、9月の緩和路線を予想する基本ケースに対するリスクが減少すると考えるでしょう。日本では、日銀が慎重姿勢を崩していません。米国のデータがより堅調なものになれば、バランスは年内の利上げに傾く可能性があります。ただ、10月の利上げのハードルは依然として非常に高いため、12月以降と考えるのが妥当でしょう。とは言え、米国経済が弊社の予想通りに減速すれば、日銀の追加利上げの可能性は低下し、日銀は2026年末まで政策を据え置くという弊社の基本ケースの裏付けがさらに強まるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-20
07:06

FRBの経路に関する意見の相違

市場はFRBによる9月の利下げを見込んでいますが、弊社の意見は異なります。弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが弊社の見方を解説し、企業クレジットの3つのシナリオを示します。 このエピソードを英語で聴く。Transcript:トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、来月のFRBの対応に関する弊社と市場の見方に大きな違いがあることと、それを踏まえた企業クレジットに対する弊社の見方を弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。 このエピソードは8月14日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。この動画を録画している時点で、市場は およそ約97%の確率でFRBが次回の会合で利下げに踏み切ると見ています。しかし、弊社エコノミストは金利据え置きの可能性が高いと考えています。非常に重要な議論についての見解が大きく分かれています。しかし、根本的に意見が異なるように見えるかもしれませんが、実は前提条件はかなり分かりやすいといえます。FRBは物価の安定と雇用の最大化という、いわゆる2大責務を負っています。失業率は低いものの、インフレ率は、ここが肝心ですが、低いとは言えません。景気を大幅に悪化させずに、インフレ率を確実に低下させるためには、ある程度長い期間、金利をある程度高く保つことが合理的だと弊社は考えています。このため弊社はFRBが9月会合で金利を据え置くと予測しています。確かに、市場は今週発表された直近のインフレ率に反応して上昇しましたが、FRBにはかなり重要な問題が残されています。米国のコアインフレ率はFRBの目標を上回っています。すでに1年以上、この水準近辺で推移しています。今週の直近データに基づくと、実際は再び上昇し始めており、関税の影響が徐々に現れて、この先数回はこの基調が続く可能性があると弊社は考えています。そのため、クレジットに関しては3つのシナリオが考えられます。良いシナリオがひとつ、厄介なシナリオが2つです。良いシナリオとは弊社のインフレ予想が単に高すぎる場合です。景気が持ちこたえてもインフレが弊社の予想より早く緩和します。そのため、FRBは弊社の予想よりも早期に速いペースで利下げが可能になります。このシナリオは現在のスプレッドが薄い状況でもクレジットにとって好ましく、トータルリターンが上昇する確率が高いでしょう。2番目のシナリオでは、インフレ率は弊社の短期予想通りに上昇しますが、FRBはどのみち利下げします。それは良いシナリオではないのか、クレジット市場は金利低下を歓迎しないのか、と思うかもしれません。でも、他の条件がすべて同じならば、利下げは景気を刺激するためインフレ率は上昇する傾向があります。したがって、インフレ率がFRBの目標を依然として上回っている場合、成長が加速して景気が過熱し、物価が上昇する確率が高まります。この種の組み合わせは株式市場には歓迎されるかもしれません。このような景気拡大期には活況となるためです。しかし、同じ環境がクレジットにとっては非常に厳しいものとなりがちです。そして、FRBが利下げしてインフレが低下しなければ、FRBは向こう1、2年の利下げ回数を全体として減らさざるを得ないかもしれません。さらに悪ければ、利下げから利上げへと逆転を迫られる可能性もあり、変動の大きい経路はクレジット市場には歓迎されないでしょう。3番目のシナリオは、成長率、インフレ率、FRBに関する弊社の予想がすべて正しい場合です。現時点では来月の利下げが広く予想されていますが、FRBは来月の利下げを見送ります。これはクレジット市場にとって中期的に悪くないシナリオだと思われますが、非常に大きなサプライズとなるでしょう。ただ、市場の予想と比べて、信じられない程ではありません。市場は当面、高い確率で夏枯れ相場に戻ると思われます。ただ、夏の終わりの弊社の予想は他とはかなり異ることを意識しています。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-14
06:02

AIはスポーツのデジタル革命をどう牽引しているか

モルガン・スタンレー・リサーチは人口動態、オーナーシップ、ディストリビューションにおける変化が、世界のスポーツ業界に大変革をもたらす技術導入をいかに促進し得るかを考察する。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は中南米テクノロジー・メディア・通信担当アナリストのセサル・メディーナが、何がグローバルスポーツのデジタル革命を牽引しているか、そして投資家やファンにとってそれが何を意味するのかについてお話します。このエピソードは8月11日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。最近は家でスポーツイベントを観戦すると言えば、通常、4K対応の大型HDRディスプレイで大きな試合をストリーミング視聴することを意味します。プレミアムイベントなら、恐らく8K放送を視聴することもあるでしょう。セカンダリー・デバイスのアプリやソーシャル・メディアからリアルタイム・スタッツにアクセスする場合もあるでしょう。友人とグループチャットを楽しむこともできます。しかし、パーソナライズされたリアルタイム・スタッツにアクセスできる試合を想像してみてください。イマーシブな代替カメラアングルや、プレーヤーの目線から試合を体験できる機能など、全てがAIによって可能になったとしましょう。これらの革新的技術はすでにテストされており、一部の競技で導入されています。グローバルスポーツの年間売上高は5,000億ドルに上ります。これだけの売り上げがあるにもかかわらず、ごく最近までスポーツ業界はデジタル技術の導入に及び腰で、映画業界や音楽業界に後れを取っていました。現在、それが変わりつつあります。しかも急速に、です。では、何がこの変化を推進しているのでしょうか。3つの強い力がこのデジタルギャップを埋めつつあります。1つ目は、よりイマーシブでパーソナライズされた体験を求める、テクノロジーに精通した若い視聴者です。2つ目は、デジタルプラットフォームを導入した、新しいディストリビューションモデルです。そして3つ目は、資本を投じ、近代化を促す組織的な投資です。これらの全てのことはファンや投資家、エンタテインメントの将来にとって何を意味するのかとお尋ねになりたいことでしょう。まず、ファンについて考えてみましょう。現在のスポーツファンはただ観ているだけではなく、交流、ベッティング、ゲーム、共有などを楽しんでいます。そして、先導しているのが若年層のファンです。若者はオンラインに費やす時間が他の年齢層よりも長く、非常にパーソナライズしたコンテンツを期待しています。チームよりも個々の選手に強い関心を抱いており、ソーシャルメディアやファンタジースポーツ、インタラクティブ・プラットフォームを通じてスポーツに興じています。35歳未満のファンは、体験がデジタルファーストであれば、スポーツに支出する可能性が他の年齢層よりもはるかに高いことが調査で明らかになっています。一部の競技では、インタラクティブ機能の導入後、視聴率が40%上昇しました。AIを使ってコンテンツをパーソナライズし、エンゲージメントや売上高を増やしている競技もあります。デジタル・トランスフォーメーションは試合観戦だけに関わるものではなく、エコシステム全体の再構築に関わることです。ライブイベントの場合、スマート・べニューでは、天候や相手チーム、需要に基づいてチケット料金を調整するためにAIを利用しています。入場やチケット購入のスピードを速めるために顔認証を使っている場合もあります。ストリーミング・プラットフォームは放映をよりインタラクティブなものにするとともに、予測技術によって無許可放送を撃退します。エンゲージメントについては、ファンタジースポーツ、eスポーツ、ベッティングが急増しています。AI搭載プラットフォームは、ファンがよりスマートなピックを行うのに役立っており、ひいては支出拡大につながっています。結局のところ、これらの技術革新はグローバルスポーツの売上高を25%余り、金額にして1,300億ドル以上増加させる可能性があります。 収益化の点で先頭を走るのは北米ですが、新興市場も急速に追いついています。例えば、インド、ブラジル、中東では、スポーツフランチャイズが金額で二桁成長を遂げており、従来のメディアを上回る勢いを見せることもあります。重要なポイントですが、これらの地域の多くは人口に占める若年層の割合が高く、デジタルの導入もより急速に増えています。これが本格的な成長の秘訣です。一方、ニッチ・スポーツや女性リーグも世界の関心を集めており、メインストリーム・エンタテインメントの定義は拡大しています。もちろん、こうしたスポーツ業界の変化は現実の障害に直面しています。つまり、技術的な専門知識、予算の制約、コーチや選手からの文化的な抵抗です。しかし、インセンティブは明確です。プライベートエクイティーや政府系ファンドからスポーツに投じられる資本が増えるにつれ、デジタル・トランスフォーメーションは戦略的な最優先事項になりつつあります。では、最大の要点は何でしょうか。グローバルスポーツはもはや競技場で起きていることだけに関わるものではありません。ファンが電話や自宅、将来のスタジアムでこれをどう体験するかに関わるものです。従って、投資家であれ、ファンであれ、あるいは単に素晴らしいアンダードッグストーリーを愛する人であれ、これは観る価値のある試合なのです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-11
07:35

スタグフレーションの気配

これまでのところ、市場はボラティリティがあるにもかかわらず、底堅さを示しています。しかし、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、今後数ヵ月で経済指標に変化が生じ、利回りにも影響が及ぶかもしれないとみています。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、今後2ヵ月間が今年に入ってからの半年余りとはかなり異なる、それこそスタグフレーションのように感じられる厄介な時期になるかもしれないことについて、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。このエピソードは8月7日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。2025年に入ってからの関税をめぐる大騒ぎにもかかわらず、金融市場は底堅さを示しています。株価は上昇し、債券利回りは低下しています。クレジット・スプレッドはおおむね20年ぶりのタイトな水準になっており、先月には市場のボラティリティも急低下しました。実際、市場は関税というテストに直面し、今年2月からはその話で持ち切りでしたがその難局を切り抜けたとの見方に対する安心感は強まってきているようです。今年はこれまでのところ、経済成長は全般に持ちこたえており、インフレ率も全般に低下しており、企業業績も全般に好調です。ただ、これはぬか喜びかもしれないと弊社は考えています。関税の厄介な影響? そうですね、経済指標にはもう出始めているかもしれませんし、今後数ヵ月間でさらに出てくるでしょう。関税がもたらすとされるリスクについて考えるときには、必ず2つの面が検討されます。ひとつは物価の上昇であり、もうひとつは経済活動の鈍化です。企業をめぐる不確実性が高まり、経済成長率が低下するのです。先週の経済指標を振り返ってみましょう。まず、FRBが好むインフレ指標、いわゆるコアPCEインフレ率は、物価が再び上昇していること、それもこれまでよりペースが速くなっていることを示していました。米国労働市場の健康状態を教えてくれる重要な雇用統計では、雇用の伸びの鈍化が見られました。そして、現実世界のサプライ・チェーンの真っただ中にいる方々が回答しているために市場でフォローされている米サプライマネジメント協会(ISM)の重要な調査では、新規受注の減少と、企業が支払うコストの増加が示されました。要するに、物価の上昇と成長の減速です。まとめてスタグフレーションと呼ばれることの多い、好ましからざる現象です。ひょっとしたら、この週だけが悪かったのかもしれません。しかし、やはり気になります。というのは、このようなデータがもっと出てくるだろうと弊社モルガン・スタンレーのエコノミストたちが思っているほぼそのタイミングでの出来事だからです。弊社エコノミストは、今年下半期の米国の経済成長率は上半期よりも大幅に低下すると予測しています。具体的には、次の3ヵ月間に前月比の物価上昇率が急上昇する一方、経済活動も鈍る公算が大きいとみています。そのようなデータは、今年に入ってから目にしてきたものとは異なるパターンになるでしょう。つまり、これらの予想が正しければ、市場はすでにテストに合格したということにはなりません。先生が教室でテストの問題を配っている段階にすぎないことになってしまうのです。このため、クレジット市場は今後数ヵ月間、落ち着かない相場展開になり、スプレッドがいくらか拡大する可能性があると弊社ではみています。クレジットには投資対象としての利点がまだ数多く備わっています。利回りは魅力的で、企業業績も全般に好調です。しかし、経済成長の鈍化とインフレ率の上昇という組み合わせは、新しい現象です。しかもそれが、クレジットにとっていくぶん厳しい時期になることの多い、8月と9月という2ヵ月間に現れることになります。そのため弊社は、好調な相場も一服することになるだろうとみています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

08-07
05:48

株式市場がFRBの先を行く理由

経済指標は過去を見つめ、株式市場は将来に目を向ける。そしてそのために、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の上げ下げで後れを取る――どうしてそうなるのでしょうか。しかも、これは金融政策の特徴であって欠陥ではないとされるのはなぜなのでしょうか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがご説明します。 このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、なぜ株式の売買のされ方と経済指標とが直感に反した動きになるのか、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。 このエピソードは8月4日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。株式市場は4月の安値以降、押し目買いを入れられる局面すら見せずに一本調子で上昇しています。私自身は5月の初めから強気を貫いていますが、これは主に、EPS予想のリビジョン・インデックスが4月半ばからV字回復を遂げ始めたことによります。このリビジョン・インデックスの反転は、関税をめぐる弱気が最高潮に達したことの反動、人工知能(AI)関連設備投資の底入れ、そして米ドル安を受けて変動する関数になっています。先日成立した「1つの大きく美しい法案」による税負担の軽減も企業のキャッシュフローを改善する好材料であり、設備投資やM&A(企業の合併・買収)を増やす公算が大きいでしょう。いつものことながら株式は、前向きな心理と、しばらく時間がたってから発表される経済指標を先取りしつつ売買されます。これが今日のお話の主なポイントです。先週発表された雇用統計は芳しくない内容で、短期的には、不安を覚える投資家もいるかもしれません。しかし結局のところ、これもまた株価にとっての新たな好材料のひとつにすぎないと弊社ではみております。仮に雇用がさらに悪化するとしても、それはFRBの利下げを早め、その幅を大きくするだけでしょう。これには債券市場も同意してくれているらしく、今ではFRBが9月に利下げに踏み切る可能性が90%あるとの見方が相場に織り込まれつつあります。また2年物米国債利回りも、今ではフェデラル・ファンド (FF)金利を80ベーシスポイント下回っています。このスプレッド自体は、去年 昨年夏に記録した200ベーシスポイントに比べればシビアなものではありません。しかし、来月発表の雇用統計が再び失望を誘う内容になれば、さらに拡大するでしょう。芳しくない経済指標がさらなる株価下落につながる場合もありますが、雇用統計は弊社がフォローしている経済指標のなかで最も過去に重きを置いたデータだと言えます。そして、FRBの利下げが後手に回るケースが多い理由もここにあります。また、インフレ指標は2番目に過去に重きを置いたデータだと言えますが、こちらはFRBの利上げも後手に回ることが多い理由となります。私に言わせれば、これは金融政策の特徴です。欠陥ではありません。最後に、これは私見ですが、トランプ大統領がパウエル議長に公の場で利下げを求めていることよりも、債券市場の影響力のほうが重要です。株式市場もこの力を理解しています。そしてこのことは、株式市場も景気循環の様々な局面でFRBの先を行く理由となっています。弊社がMid-Year Outlook で指摘したように、4月の株式市場で見られた安値は、マイルドな景気後退を事実上織り込んだ非常に耐久性のある安値でした。この見方を完全に理解するには、株価が今年4月までの12ヵ月間調整していたこと、そして株価の下落率の平均が30%近かったことを認識しなければなりません。そしてそれ以上に重要なのは、株価が底を付けたのは、EPS予想のリビジョン・インデックスが大きな谷を描き出したまさにその時だったということです。端的に言えば、「解放の日」は1年前に始まった重要な弱気相場の終わりを告げた日だったのです。株式市場は悪いニュースで底を打ちます。そして「解放の日」は、数多く連なってきた悪いニュースの最後のピースでした。それによってEPS予想のリビジョン・インデックスが底を打ち、弊社はそこに焦点を当ててきたのです。話をまとめましょう。経済指標は過去に重きを置き、EPS予想のリビジョン・インデックスと株式市場は将来に目を向けます。株価は4月、私たちがいま目にしている冴えない経済指標を織り込んで、重要な底値を付けました。そしてそれは、過去3年間の、セクターごとに時間差で業績後退を示すローリング・リセッションの底であり、セクターごとに時間差で回復するローリング・リカバリーと新たな強気相場の始まりでもあったのです。本当にそうなのだろうか――腑に落ちない方には、リセッションのさなかに株式市場が底を打ってから12ヵ月間は失業が増えるのが典型的なパターンであることを認識していただくのが重要だと思われます。成長リスクがひとたび織り込まれれば、それは究極的には利益率と株価の追い風になります。営業レバレッジがプラスになり、FRBも大幅利下げに踏み切るからです。今朝の株価の反発を見ても、株式市場はこの見方に同意してくれているように思われます。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

08-04
07:10

押し目買いの好機か?

AIの採用、ドル安および「ビッグ・ビューティフル・ビル」は、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンの米国株に対する確信を強める要因の一部となっています。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場を楽観視する理由を御説明いたします。このエピソードは7月29日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。過去数週間で筆者は、来年央までのS&P 500の目標値を7200ポイントと見る強気ケースのシナリオに一段と傾いています。この見解は総じて予想されていたよりも底堅い企業収益とキャッシュフローの想定に基づいています。そのドライバーは無数にあり、ポジティブな営業レバレッジ、AIの採用、ドル安、「ビッグ・ビューティフル・ビル」による現金ベースの税負担軽減、および多くの業種における有利な前年比の利益成長率や、潜在需要が含まれています。多くの向きはまだ成長の逆風として関税に注目していますが、弊社アナリストは、対象となる国の範囲や米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の除外が続いている点を考慮し、S&P 500業種グループが関税コストから受ける影響は、かなり抑えられていると見ています。その一方で、日本や欧州など最大の貿易相手国との間では、米国に有利と見られる条件で協定が結ばれています。価格決定力を欠くことから、株式市場における関税リスクが最も大きい分野は消費財であり、これを理由に弊社は消費財のアンダーウェイトを継続しています。しかし、投資家にとって関税に関する最大のポイントは、政策の不確実性の変化率は4月の初めにピークをつけたということです。これは、弊社が注目している最も重要なファンダメンタルズである企業の業績ガイダンスが4月に底を打った最大の原因で、業績予想修正トレンドが大幅な上昇に転じたことがこれを裏付けています。もちろん、短期的な状況にリスクがないわけではありません。これらには、依然高水準にある長期金利、関税関連のインフレおよび利益率低下の可能性などがあります。その結果、例年低調な第3四半期中に調整が入る可能性がありますが、下落は小幅で、買いが入る見込みです。これまでに挙げた成長の追い風の他に、多くの企業にとって前年と比較した成長率が有利になる点も指摘しておく価値があるでしょう。かなり以前から筆者は、3年前から米国でローリング・リセッションが進行していると見る、コンセンサスとは全く異なる見解をとっています。これは、その期間のかなりの部分で、PMI景気指数、消費者信頼感および民間労働市場といった、経済のソフトデータの多くがリセッションの領域で推移して来た事実とも適合します。これは、政府の支出が堅調なGDP成長の維持を助けて来た一方、政府の大規模な支出はFRBによる過度な引き締めの継続につながり、民間部門の大半と多くの消費者の活動が抑制されていると見る、以前からの筆者の見解とも符合します。その間に、過去数年間で民間部門の賃金の伸びは着実に減速してきました。そしてテクノロジー、金融および企業サービスの雇用者数の伸びは最近までマイナスになっていました。反対に、同じ期間に政府および教育/医療サービスの雇用者は、はるかに堅調な伸びになっています。民間部門のこの種の賃金の伸びと、低調な雇用者数の伸びは、サイクル初期の環境の典型です。これが、サイクル初期の環境で営業レバレッジが好転し、利益率が拡大する主な原因です。この過小評価されている動向が弊社の企業収益モデルに反映されつつあり、AIの採用がこの現象を加速させる見込みです。要約すると、賃金の伸び減速が長く続いた後、より無駄のないコスト構造が、プラスの営業レバレッジを牽引するという、サイクル初期の環境に一段と近付いている模様です。結論としては、今年4月の「解放の日」前後に見られた投げ売りのような株価と業績予想の下方修正は、2022年に始まったローリング・リセッションの終わりを告げるものでした。悪材料を受けて市場は底を打ち、企業収益のローリング・リセッションから、業種ごとに順次回復する環境に移行しつつあります。EPSのローリング・リセッションのために有利になる前年比の利益成長、そして来年第1四半期までにFRBが利下げを再開する確率が高い、という利益とキャッシュフローのポジティブなドライバーの組み合わせがこの移行を可能にするでしょう。業績予想修正トレンドの好転から、このプロセスが既に始まっていることが確認でき、向こう12ヵ月間、平均的な株式のリターンは堅調になる公算が大きいと見られます。簡単に言えば、例年、低調な傾向がある四半期に押し目があれば、拾えということになります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。  

07-29
06:59

シンガポール、4兆ドルの大変身

世界トップクラスの富める国であるシンガポールが、技術革新と市場への影響力を梃子にその地位を高め続ける軌道に乗ろうとしています。今回はその様子について、弊社ASEANリサーチ担当責任者のニック・ロードがお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はシンガポールの60回目の独立記念日について、そしてこの国が過去最大の変化を遂げそうな10年間に突入しようとしていることについて、弊社ASEANリサーチ担当責任者のニック・ロードがお話しします。このエピソードは7月28日 にシンガポールにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。シンガポールは8月9日に重要な建国記念日を迎えますが、今年のこの日は単なる記念日ではありません。この国の家計資産がわずか5年で2倍近くに増えるかもしれないという、富の創造の新時代が幕を開ける日でもあるのです。そう、この都市国家の家計純資産は現在2兆3000億ドルですが、2030年までにはこれが4兆ドルに増えると弊社では予想しています。では、次の時代に向かうその原動力は何なのでしょうか。シンガボールはグローバル資本の避難場所のひとつという位置づけから、イノベーションと影響力の戦略的なエンジンへと進化を遂げようとしています。その原動力は主に3つあります。1つ目は、グローバルなハブとしての役割の増大。2つ目は新しいテクノロジーのいち早く積極的な導入。そして3つ目は、最後だから重要ではないというわけではありませんが、株式市場の再活性化を目指す一連の大胆な改革です。現在は、これらの3本柱がまとまって、すそ野の広い富の創造をお膳立てしているところです――投資家もそれに気づきつつあります。シンガポールの人口は600万人にすぎません。しかし、人口1人当たりで見ればすでに世界で4番目に裕福な国になっています。しかも、話はそこでは終わりません。シンガポールの家計純資産は、2030年までに現在の平均160万ドルから同250万ドルという目を見張る水準に上昇すると弊社では予想しています。運用資産残高(AUM)は4兆ドルから7兆ドルに跳ね上がる公算が大きいでしょう。そしてMSCIシンガポール指数は年10%のペースで上昇し、今後5年間で2倍になる可能性もあるでしょう。シンガポール企業の自己資本利益率(ROE)も上昇しそうです。生産性の向上、市場改革、そして株主リターンの上昇などにより、12%から14%に改善すると思われます。しかし、ここでシンガポールの成長ストーリーの1本目の柱、すなわちハブのなかのハブになろうという目標に戻って考えてみたいと思います。シンガポールはすでに金融、貿易、運輸の分野で主要なプレーヤーです。つまり、この強みにもっと賭けようとしているのです。コモディティの分野では、シンガポールが世界のエネルギーや金属の取引の20%を取り扱っていることが分かっており、将来的には、液化天然ガス(LNG)やカーボン排出権の取引のハブになる可能性もあります。また金融サービスの分野では、シンガポールはクロスボーダー資産取引を記帳・決済できる世界第3位の国際金融センターであり、同じく世界第3位のFX取引ハブでもあります。国内総生産(GDP)に[1] およそ 約4%寄与している観光業も、パズルの重要なピースです。この国は世界レベルのインフラ、イベント、アトラクションに投資し続けており、訪問客が――そして彼らのお金が――途切れることなく入ってくるようにしています。成長の2本目の柱に当たるテクノロジーについては、シンガポールはすべてを賭けようとしています。マレーシアや日本とともに、アジア地域のデータやAIのハブになりつつあります。今後10年間でアジアのデータセンターや生成AIには1000億ドルが投資されると見込まれますが、その最上の部分はこれら3ヵ国に引き寄せられると思われます。なお、シンガポールはすでに世界の十指に入るAI市場であり、1000社を超えるスタートアップ企業、80の研究施設、150の研究開発(R&D)チームがひしめき合っています。アジアにおける自律走行車のリーダーでもあり、現時点では13車種が公道で試験走行を行う認可を得ています。シンガポールのチャンギ国際空港ではすでにロボットが働いています。最後に、シンガポールではかつて、経済は好調なのに株式市場には活気がない、少数の大銀行と不動産会社が牛耳っているからいけないのだ、と指摘される時期がしばらく続いたことがありました。しかしこの状況も急速に変わってきており、シンガポールの成長ストーリーを支える第3の柱になりつつあります。例えば今年、シンガポール政府は市場に新たな息吹を吹き込むべく、全面的な改革を断行しました。税制優遇策の導入、規制の合理化、そして特に中小型株の流動性向上を目指したシンガポール金融管理局(MAS)による40億ドルの資本注入などがその主なところです。また、上場企業は今後、株主エンゲージメントをもっと高めるように、そしてビジネスプランやバリュー・プロポジションをもっと明確に株主に伝えるように促されるだろうと弊社ではみています。その狙いは、シンガポール企業の株価純資産倍率(PBR)を1.7倍から2.3倍に、すなわち台湾やオーストラリアなど比較的高い評価を受けている市場並みの水準に押し上げることにあります。さて、こうしたことは投資家にとって何を意味するのでしょうか。それは、シンガポールが単に過去の偉業を祝っているだけでなく、未来を建設しているということです。賢明な政策、大胆なイノベーション、そして明快なビジョンを通じて、世界で最も活力のある市場に、そして投資に向いた市場のひとつに自らを位置づけようとしているのです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

07-28
08:15

3兆ドルのAI投資資金需要に応えるのは誰か

人工知能(AI)の競争に参加するときには、大規模な物理インフラの整備が欠かせません。そこでクレジット市場が重要な役割を担う可能性があるのはなぜなのか、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがご説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、3兆ドルと予想されるAI投資の原資がどのように調達される可能性があるかについて、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。このエピソードは7月25日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 人々がすでに考慮に入れて行動しているか否かにかかわらず、AIは日常生活に急速に入り込みつつあります。たとえば、家の外に出る前に天気をチェックする。交通渋滞の情報もリアルタイムで反映させながら目的地までの道案内をスマートフォンに任せる。結婚式のスピーチをギリギリになってあわてて書く。薬を飲む時間や、スマホの電源を切る時間が来たと教えてくれるアプリを使う・・・といった具合です。こうしたことができるようにするには、半導体チップからデータセンター、さらにはそれらを動かす電力関連の設備に至るまで、大掛かりな物理インフラが必要になります。ところが、これまでに登場したAIがどれほど大きなものに見えるとしても、私たちはまだその姿を本当の意味では目にしていません。弊社では、世界のデータセンターの処理能力が今後5年間で6倍になるとみています。それにかかる費用は莫大な額になるでしょう。データセンターとそのハードウェアだけで、その額は2028年末までに3兆ドルに達するとみられています。この資金は、果たしてどのように調達されるのでしょうか。実は、Morgan Stanley Researchリサーチの多くのチームがまさにこの問いに答えようと試み、深く掘り下げたリポートを先週発行しました。最初に注目したのは時価総額の大きなテクノロジー会社、いわゆるハイパースケーラーでした。ハイパースケーラーは巨大な企業であり、黒字も計上しています。そのため、データセンター整備に投資する資金の半分はキャッシュフローから捻出するだろうと弊社ではみています。ですがその場合、残りの半分は外部から調達することになります。そのため弊社では、金額の大きさを踏まえればクレジット市場――すなわち社債、証券化商品、および資産担保融資の市場――が大きな役割を担うだろうとみています。まず、私自身にとって最も思い入れがある資産クラスである社債については、この投資のために2000億ドルが追加発行されると弊社では推計しています。テクノロジー会社は現在、キャッシュフローとの比率で見るなら、他のセクターに比べて借り入れが少ない状況にあります。現在の債券市場に占めるシェアも小さいことから、借り入れを増やしたいのであれば比較的有利な局面から始められると言えるでしょう。テクノロジー・セクターはS&P500種株価指数では30%以上を占めていますが、投資適格社債指数に占める割合は10%にすぎません。実際、重要な問いは、この比較的有利な出発点を踏まえれば、社債を発行して借り入れを増やさないのはなぜなのかということではないでしょうか。弊社では、その理由の一部はキャパにあるとみています。今日、非金融法人の社債発行残高は、最も多額な企業で800億ドルから900億ドルです。これらの大手テクノロジー企業の残高もこれと同程度ですので、社債市場で最も大きなシェアを握る債券発行体に事実上一夜にして変身させてほしいと投資家に要請するのは、やはり難しいでしょう。企業財務も関係していると思われます。AIの成長はまだ初期段階であり、リスクが最も大きなときです。したがってテクノロジー企業の多くは、こうしたリスクをすべて自社のバランスシートで取ることよりも、コストは若干上乗せされるが柔軟性が大幅に高まるパートナーシップのほうを好むのではないかと弊社はみています。これからたびたび耳にするだろうと思われるパートナーシップのひとつに、資産担保融資(ABF)があります。この分野は大きく成長しており、最終的には、必要な資金のうちざっと8000億ドルがABFで調達される可能性もあると弊社ではみています。このAI展開への投資に伴う利害は極めて大きい。多くの大手テクノロジー企業がこのAI技術開発競争を「避けられないもの」とみていると言っても、過言ではありません。この競争に勝つことはおろか、参加するだけでも巨額の費用負担が発生する恐れがあります。一方で、AI事業をめぐるこうした話には明るい側面もあります。それは、生産的な設備投資が大きく伸びようとしている初期段階に私たちがいることであり、クレジット市場はそのような投資の資金調達を担い続けてきたということです。多額の支出がなされるときにはよく起きうることですが、施設が必要以上に建設されてしまうリスクがあります。テクノジーが変化するとか、電力不足のような平凡な問題のために採算性が変わってしまうこともあり得ます。AIは今後数年にわたって、投資の世界で何かと話題にされるテーマになるでしょう。クレジットはそうした議論の方向を左右する主たるベクトルではないかもしれませんが、重要な役割を担うことは間違いありません。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

07-25
07:35

アジアの46兆ドルについて

アジアの対外投資ポジションと為替動向に影響を及ぼす3つの重要な判断について、弊社アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は株式投資の現場で関心が高まっている、アジアの投資家が現在直面する3つの重要な判断について、弊社アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが解説します。このエピソードは7月22日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。まずは、全体像を見てみましょう。 アジアの対外投資ポジションはこの13年間で倍増し46兆ドルに達しました。このうちのかなりの部分が米国資産への投資です。しかし、昨今のドル安を受け、アジアの投資家の間では3つの重要な疑問が生じています。米国資産を減らして分散すべきか、アジアの貯蓄の増加分のうち、どの程度を米国に配分すべきか、米国資産の為替ヘッジを積極化すべきか、という疑問です。まず、投資の分散を取り上げます。投資家は米国の双子の赤字を踏まえて、米国のマクロ経済見通しに対する懸念を表明しています。また、弊社の米国経済チームは引き続き成長の鈍化を予想しており、目先の財政刺激策は予想以上だったものの、関税と移民規制の強化による影響を打ち消すには不十分だと見ています。このように米国の成長率と金利が他国の水準に近づき、安全資産としての米ドルの位置づけが議論され続けた結果、ドルの価値は低下しています。そして、弊社のマクロ・ストラテジストの予想では、ドルは来年2Qまでにさらに8-9%安くなる見通しです。では、データ上はどうでしょうか。投資先の分散はすでに始まっているでしょうか。透明性が高くて入手し易いアジアの証券ポートフォリオを見てみましょう。アジアの対外投資の合計46兆ドルのうち、証券ポートフォリオは21兆ドルを占めます。そのうち、2025年1Q時点で8兆6,000億ドルが米国資産です。興味深いことに、中国が保有する米国資産は2013年にすでにピークを迎えていますが、中国以外のアジア諸国が保有する米国資産は増加し続けています。中国を除くアジアが保有する米国資産は今年1Qに過去最高の7兆2,000億ドルに達し、その大半が株式です。つまり全体としては、アジアの投資家は現時点では資産を分散していません。しかし、貯蓄の増加分からの配分は減っています。アジアの経常黒字額は大きく、1Qは1兆1,000億ドルでした。これが今後やや減少したとしても、構造的な黒字によってアジアの対外投資ポジションは拡大し続けるでしょう。ただし、米国への追加配分は減少し始めています。アジアの証券ポートフォリオに占める米国資産の割合は2024年4Qに41.5%とピークに達した後、今年1Qには減少し始めました。実際に、弊社のグローバル・クロスアセット・ストラテジストのセリーナ・タンによると、アジアの投資家は2Qに米国株式の純購入額を減らしています。最後に、ヘッジについてお話します。アジアの投資家は対米国の投資ポジションの為替ヘッジを増やし始めており、弊社の見るところ、昨今のアジア通貨高はヘッジ需要の増加もひとつの原因だと思われます。全体的な傾向の代用指標としてよく用いられる台湾人寿保険を見てみましょう。同社のヘッジ比率は1Qにはまだ低下していましたが、2Qには上昇し始めています。これは2Qの急激な台湾ドル高と並行しています。同時に、米国資産の保有が多いその他の諸国でも、ドルがピークに達して以降、通貨高となっています。これはヘッジ需要の増加が外国為替市場に影響を及ぼしていることを示す明確な証拠だと考えます。全体的に見て、アジアの46兆ドルの投資ポジションが為替市場に及ぼす影響は非常に大きいと言えます。投資先を米国から分散するかどうか、資産配分を減らすか、そのままか、どの程度ヘッジするかという投資家の判断がこの先の為替動向に影響してくるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

07-22
06:28

FRBを「影の議長」が取り仕切ることはあり得るのか

ジェローム・パウエル FRB議長の任期が来年終了することを踏まえ、弊社グローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンターがいわゆる「影のFRB議長」が政策にもたらし得るインパクトについてお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、ウォール街やワシントンで様々な憶測を呼んでいる「影のFRB議長」なるものについて、弊社グローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンターがお話しします。このエピソードは7月21日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。まず、基本的な事実関係から見ていきましょう。ジェローム・パウエルFRB議長の任期が来年5月で終了します。経済やマーケットの記事を載せている新聞はいずれも、トランプ大統領がパウエル議長の金融政策に批判的であることを報じています。こうしたことから、数々の疑問が浮上しています。パウエル議長の後任は果たして誰なのか。それはいつ頃判明するのか。そして、これが最も重要かもしれませんが、そうした動きの意味するところを投資家はどう考えるべきなのか、といった疑問です。トランプ大統領は明快なメッセージを発信しています。大統領は、FRBにもっと積極的に金利を下げてほしいと思っています。しかし、来年6月に新しい議長が誕生することははっきりしているように見えるものの、相場には、来年末になっても政策金利は3%をわずかに上回ることが織り込まれているようです。現在のFF金利の誘導目標である4.25%~4.50%に比べれば低いものの、積極的に引き下げられているとは言えません。実際、弊社の基本シナリオでは、政策金利は今日の相場に織り込まれている水準よりも、小幅ながらさらに低い値を想定しています。なぜこのような断絶が生じるのでしょうか。1つ目の理由は、後継候補として複数の人物の名前がメディアで取りざたされたり、財務長官が次の議長の選考過程はすでに始まっていると述べたりしているものの、パウエル氏の後継者がだれになるのか本当のところは分かっていないことにあります。もっとも、ニュースによれば夏の終わりごろまでに判明するとされています。もうひとつのキーポイントは、私個人の考えではありますが、パウエル氏の議長としての任期が終わりを迎えてもFRBの反応関数――すなわち、新しい経済指標の発表にFRBがどう反応するかということ――が一夜にして変わることはおそらくないと思われることです。政策を立案するのは連邦公開市場委員会(FOMC)であり、その立案は共同作業で行われます。その共同作業の力学には、政策の急転換に歯止めをかける傾向があります。従ってパウエル氏が退いた後も、この集団内の力学により、しばらくの間は政策が極めて安定的に運営される可能性もあるのです。とは言え、何らかの変化は間違いなく生じます。まず、来年1月にFRB理事のイスが1つ空きます。空席であれば、そこにパウエル氏の後任を据えることは容易です――それも、議長の正式な交代を待たずに行えるのです。言い換えれば、いわゆる影の議長がFOMCのテーブルにつき、内側から政策に影響を及ぼすことになるかもしれないのです。もしそうなった場合、市場に影響は及ぶのでしょうか。及ぶ可能性はあるでしょう。その後継者がとりわけ声高な人物で、金融政策に対して著しく異なるスタンスを示す場合は、特にそうなります。しかしその場合でも、これまで政策運営を安定させてきたと思われるFOMC内の力学がはたらき、突然の方針変更を抑制するかもしれません。FOMC内部の話し合いだけでも、そうなるかもしれません。重要なことに、過去の歴史をひも解きますと、政治任用された人物でも就任後は過去の関係を断ち切り、FRBの2つの使命、すなわち持続可能な雇用の最大化と物価の安定に注力するケースが多く見受けられます。とは言え、ほとんどの話には思わぬ展開が待ち受けているものです。実は、パウエル氏のFRB理事としての任期はFRB議長としての任期と同じタイミングで終わるわけではありません。規則上は、ちょうどマイケル・バー氏が金融監督担当副議長を辞任した後もFRBに残っているように、パウエル氏も議長退任後にFRB理事として残ることができるのです。パウエル氏はこの件について何も発言しておりませんので、今のところは、これは思考実験にすぎません。しかし、思考実験ならもうひとつ可能です。規則上は、FOMCはFRB理事会とは別個の機関です。慣例では、FRB議長がFOMCによってFOMC委員長に選ばれるのですが、法律でそう決まっているわけではありません。理屈の上では、FOMCがFRB議長以外の人物を委員長に選ぶことも可能なのです。そんな事態になり得るのでしょうか。私自身は、そうなることは考えにくいとみています。私の経験に照らせば、FRBは正当性と継続性を重んじてきた機関です。ただ、ルールが常に、文言通り厳密に適用されるわけではないことも、頭に置いておく必要があります。それに、とにもかくにも、FRB議長の存在は常に重要なのです。金融政策がFOMCでの投票によって決まるとはいえ、FRB議長は会議の雰囲気や議論の枠組みを作る役であり、議論を落としどころに導くことも少なくありません。それに、やがて新しい人物がFRBに加わるようになれば、新しい議長の影響力は増す一方になるでしょう。地区連邦準備銀行総裁の選定にさえFRBは拒否権を発動できることができますので、FRB議長はFOMC全体に間接的な影響力を及ぼすことになります。では、こうしたことから何が言えるでしょうか。今のところ、この「影のFRB議長」の議論は、その本題ではなく「ニュアンス」をめぐる話です。今から来年5月までの間にFRBの反応関数が変化することはない、と弊社ではみています。しかしそれ以降については、生じうる結果の範囲がどんどん拡大し始めます。その時までは、弊社によるFRBに関する予想は、政治よりもむしろ景気予測のほうが大きなリスクになるでしょう。そしてこの景気予測については、弊社はいつものように非常に控えめなスタンスを維持しています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

07-21
09:00

関税による経済指標の悪化が迫る

米国の関税によるインフレ率と企業業績への影響はこれまでのところ限定的です。しかし、それが変わるかもしれない理由とその時期について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ, 本日は、関税が至るところで目立ちはじめているにもかかわらず経済指標に反映されない理由と、今四半期にはこの状況が変わると弊社が考える理由を、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。このエピソードは7月16日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。投資家は少なくとも2月から関税に関するニュースを目にしています。7月中旬に至っても市場では上昇が続いており、予想されていた関税の影響がそろそろ現れるのではとの疑念が当然生じています。「えっ、また関税の話?」と顔をしかめている方もおられるでしょう。ただ、このテーマは市場にとって引き続き重要だと思われます。何よりも、影響が目前に迫っているテーマだと弊社は考えています。予想されていた関税の影響が経済指標と企業業績に現れ始めるのはこの第3四半期だというのが弊社の見立てです。まず初めに、関税の影響はまさに今現れ始めています。今週発表されたインフレ率を見ると、関税に敏感なセクターの影響により米国のコアインフレ率が再び上昇し始めています。ちょうど始まった2Qの決算発表は総じて好調だろうと弊社は見ており、さらに予想を小幅に上回る可能性もありますが、今後数ヵ月の業績をまとめた3Q決算は関税の影響を受ける可能性が高まるでしょう。そして、ここでも消費財と小売りセクターが特に大きな影響を受けると思われます。では、なぜ関税の影響が今まではそれほど問題にならず、なぜ間もなくそれが変わるのでしょうか。一つ目の理由は、関税率が急激に上昇しているためです。関税の発動は一時停止または延期されたにもかかわらず、税率は短期間で上昇しており、現時点で過去最高の9%に達しています。そして、ここ数週間の米国政府の発表に従うと、税率は事実上この2倍、現在の9%から15-20%近辺に上昇する可能性があります。関税の影響が現れ始めている2つ目の理由は、関税の徴収が増えているためです。米国税関が6月に徴収した関税は260億ドルを超えました。これを年換算するとGDPのおよそ 約1%に相当する非常に大きな金額です。徴収額は3ヵ月前にはこれほど大きくはありませんでした。3番目に、関税の一時停止や延期があったため、それによる影響の遅れもあります。また、輸送中の貨物は追加関税の対象とならず、欧州やアジアからの大量の貨物が輸送中だったと思われることから、これも影響が遅れた原因となります。しかし、このように遅れていた影響が実際に現れ始めていることは、徴収した関税の増加と関税率の上昇が示すとおりです。 4番目の理由として、企業が関税を予測し影響を緩和しようとしたことが挙げられます。企業は関税の発動前に大量の在庫を発注しました。しかし、3Qまでにはその大量の在庫を売り切っており、恩恵はなくなると考えられます。つまり、関税前に積み増した在庫は、3Q決算までにはすべて捌(さば)けている可能性が高いのです。そして現在発注している新たなストックは、売上原価が上がっています。 つまり、関税が経済指標と企業業績に及ぼす影響の大部分はこれからやって来ると考えるのが妥当で、特に今四半期、つまり25年3Qに影響が現れると弊社は見ています。その時期は6-7月というよりも、おそらく8-9月だと見ており、市場はコアインフレ率の連続的な上昇を受けてこの問題に一層注意を払うだろうと思われます。このため、クレジットについては高クオリティを重視し、特に8-9月はこの傾向を強めるべきだと考えます。小売セクターのクレジットについては特に慎重に見ており、小売セクターは3Qにこれらのリスク要因が集中し、大きなリスクにさらされると予想しています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

07-16
06:13

株式市場はどのようにして関税の嵐を切り抜けているのか

関税を巡る不透明感が続く中、株価は安定的に推移しています。最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、政策の先送り、底堅い企業収益およびフォワードガイダンスが株式市場に与えている影響についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場が引き続き極めて底堅く推移している理由についてお話します。このエピソードは7月14日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。新たな関税が発表されたにもかかわらず、なぜ株式市場は底堅く推移しているのでしょうか?まず第1に、USMCA準拠のメキシコからの輸入品のように、課税の先送りや除外がまだ実施されていることから、S&P 500構成業種が輸入価格から受ける影響が小さいためです。第2に、今般発表されたいくつかの貿易相手国に対するより高い関税率は、今後交渉が進展するため、最終的な税率にはならないと一般に考えられています。筆者は引き続き、こうした関税は最終的に輸入品に対する10%の消費税のような形に落ち着き、財務省に大きな税収をもたらすと見ています。そして第3に、多くの企業は関税が課される前に在庫を備蓄しており、商品の価格上昇がまだ売上原価に反映されていません。さらに、関税に対する市場の懸念は4月のはじめにピークに達し、市場は測定可能なデータに期待し、注目しました。このため、EPS予想のリビジョン・インデックスの劇的なV字回復が、ファンダメンタルズの追い風として、4月以降、貿易とマクロ経済の不透明感が続くなかでの株価上昇を正当化しています。これは株価予測で弊社が最もよく利用する指標の1つで、4月半ばにマイナス25%で底をつけました。現在はプラス3%となっています。S&P 500との比較で、リビジョン・インデックスが最も大幅なプラスになっている業種は、金融、鉱工業およびソフトウェアです。こうした動向を理由に弊社はこの3つの業種を引き続き推奨しています。もう1つ、株価の下支えに寄与しているより最近の展開は、「One Big Beautiful Bill」法案が可決されたことです。この法案は、景気テコ入れとしての財政支出を増額するものでも、法定税率を引き下げるものでもありませんが、研究開発費と資本財の両方に多額の支出を行なっている企業の現金収益に対する税率を引き下げる内容になっています。 弊社グローバル税制担当チームは、現金収益に対する税率が現在の20%から、2022年に失効した「減税および雇用法」の恩恵を受ける前の13%前後に向けて低下する可能性があると考えています。この恩恵が、米国企業の低調な設備投資サイクルの活性化につながることも見込まれます。そうなれば、GDPの成長と、このカテゴリーへの支出に該当する設備を提供する企業の増収の両方を促進する可能性があります。一方、外国稼得無形資産所得は、国外の市場で所得を得ている米国企業に恩恵を与える優遇税制です。企業が知的財産を米国より税率が低い国に移転せずに米国内に維持することを奨励するように設計されています。この控除は2026年に縮小される予定でした。そうなれば、実効税率はおよそ 約3%上昇します。「One Big Beautiful Bill」法案によってそのリスクはなくなりました。最後に、海外事業を展開するオンライン企業に対するデジタルサービス税が、引き下げられる可能性があります。先月下旬、カナダが、米国との互恵的な包括的貿易協定を見込んで、米国企業に対するデジタルサービス税を廃止する方針を発表しました。これは、オンライン企業にとって予想外の恩恵で、欧州をはじめとする他の諸国が米国との貿易交渉でカナダに追随する可能性があるとの見方もあります。結論としては、関税を巡る不確実性が大きい状況に変わりはありませんが、向こう1年の企業の利益成長を後押しするドライバーは他にも多々あり、政策による逆風を完全に帳消しにする可能性があります。これは、最近の株価上昇には正当な理由があり、一部で懸念されているほど、投資家は悠長に構えているわけではないと見られます。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

07-14
06:18

米国の消費者は関税の懸念を克服したのか

米国の消費者は単に出費を控えているのではなく、お金の使い方と貯め方を変えている――弊社の米国テーマ別リサーチ・株式ストラテジストのミシェル・ウィーバーがデータを掘り下げてお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。米国テーマ別リサーチ・株式ストラテジストのミシェル・ウィーバー, 本日は弊社米国テーマ別リサーチ・株式ストラテジストのミシェル・ウィーバーが、米国民によるお金の使い方と貯め方、そして将来の見方に生じている変化についてお話しします。 このエピソードは7月7日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。インフレの緩和、変化している政治、さらには関税をめぐる絶え間ないノイズなど、種々雑多な情報を市場が消化するにつれ、米国の消費者はものの見方を微調整しています。主要な経済指標の表面をめくれば、米国民がマクロ経済の困難に単に反応するだけでなく適応しようとしており、そこで複雑なストーリーが展開されていることが見えてきます。まず、大まかなところから見ていきましょう。弊社が行った最新の消費者調査のデータによれば、関税をめぐる不確実性が残っているなかでも、それも特に相互関税停止措置の期限が迫っているこのタイミングにおいても、消費者心理は安定してきています。調査回答者のほとんどは最大の懸念材料にインフレを挙げていますが、幸いなことにその割合は縮小傾向にあります。インフレが主たる懸念材料だという回答は当月も全体の半分以上を占めましたが、前月比でも前年同月比でも若干減少しています。消費者が継続的な物価上昇の衝撃に備えるのではなく、インフレ期待を調整している可能性を示唆しているという意味で、微妙ではあるもののこの現象は重要です。ただこれと同時に、政治を懸念する声も強まっています。今では消費者の40%以上が、米国の政治環境を主要な不安材料のひとつに挙げており、その割合が前月より若干大きくなりました。また意外なことではありませんが、地政学的な紛争への懸念も前月より大幅に強くなりました。次に、このデータを所得階層別に分けてみます。すると、興味深いトレンドが浮かび上がってきます。インフレはすべての階層で最大の懸念材料になっていますが、15万ドル超の階層だけは例外で、政治が最も懸念されています。また、所得の低い世帯が家賃の支払いや債務返済を気にしている一方で、所得の高い世帯はそれよりも自分たちの投資のほうを気にしています。関税に対する関心も高いのですが、こちらは安定しています。消費者のおよそ 約40%は非常に強い不安を、25%はある程度の不安をそれぞれ感じています。しかしこのデータを少し掘り下げると、実は政治的分断がここに現れていることが分かります。リベラル派の63%が関税を非常に懸念していると答える一方で、保守派ではその値がわずか23%にとどまっているのです。しかし、こうした数々の懸念にもかかわらず、全体的に見れば支出を切り詰めようとしている人は少なめです。関税を理由に支出を減らすという回答者は全体のおよそ3分の1にとどまっており、今年の前半に比べればかなり少なくなっています。また、およそ4分の1は支出を増やす計画だとしており、ざっと3分の1は支出の計画を変更するつもりは全くないと答えていました。この底堅さは、本日冒頭でお話しした注目すべき消費者行動のトレンドを示しています。消費者は単に反応しているのではありません。適応しているのです。弊社の調査によれば、米国経済全体で見た消費者信頼感は、前月より若干低下したとはいえ安定しています。しかし消費者から世帯に目を移すと、見通しは明るくなります。家計の改善を見込む世帯がかなり多い一方で、悪化を見込む世帯は少なく、差し引きプラスとなるのです。貯蓄もある程度の底堅さを示しています。平均的な消費者は数ヵ月分の生活費に相当する貯蓄をしており、去年 昨年より若干増えています。支出に対する姿勢も安定しており、消費者の3分の1近くが来月は支出を増やすつもりだとしている一方、減らすつもりだとしている消費者はそれよりも少なくなっています。そして高額商品・サービスについては、米国の消費者の過半数が自動車や家電製品、バカンスなどの大きな買い物を今後3ヵ月以内に計画しています。バカンスと言えば、夏の旅行シーズンがやってきました。私自身も近々出かける予定があり、楽しみにしています。消費者のおよそ60%は今後半年以内に旅行をする計画で、友人や家族に会いに行くとの理由が最も多くなっています。では、投資家のみなさんにとって最も重要なポイントは何でしょうか。それは、インフレ、政治、関税などの懸念があるにもかかわらず、米国の消費者が目を見張るほどの底堅さを示していることです。微妙なところもありますが、全体的には、不確実性に直面しながらも安定していると言えるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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