市場の風を読む

<p>モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。</p>

2026年 米国アウトルック:強気相場の過小評価されたシナリオ

弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、短期的なリスクがあるにもかかわらず、2026年の成長についてコンセンサスから外れる前向きな見方を持ち続ける理由を解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、今週初めに発表した2026年の見通しについて解説します。このエピソードは11月19日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。2026年も、弊社がこの1年間語ってきたストーリーが続きます。1年前を振り返ると、弊社の米国株式見通しは、上期は厳しく、下期は力強い展開になるというものでした。当時、この見方はコンセンサスから外れていました。多くの方は、トランプ大統領が2期目に就任したことで上期は好調となり、その後インフレ再燃で下期は厳しくなると予想していました。コンセンサスとは違う弊社の見解は、新しいトランプ政権下における政策の順序は、まず成長へのマイナス要因となる政策から意図的に着手するという考えに基づいていました。これは、新任のCEOが「キッチンシンク」戦略をとり、最初に悪材料を出し切ってから新たな成長戦略に移行するのに似ています。その転換点は年央頃になると考えていました。2期目のトランプ大統領就任時、米国経済のスラックは1期目の時よりもはるかに小さい状態でした。これが、政策の順序が異なる可能性が高いと考えた主な理由です。2024年末時点では、業績予想修正の幅や他の景気循環指標も減速局面にありました。対照的に、2017年初頭(当時弊社は強気の見方でコンセンサスから外れていました)は、2015~2016年の製造業・コモディティ不況から回復し、業績予想修正の幅や多くの循環指標が再加速し始めていました。今年を振り返ると、この政策の順序は概ね実現しましたが、予想よりも速く、劇的に進行しました。政策面での弊社の見解は、今もコンセンサスから外れているようです。今年実施された政策が今後、最終的に成長加速、特に平均的な銘柄の押し上げにつながるのか、多くの業界関係者が疑問視していますが、弊社はこの政策選択が2026年に向けて成長へのプラス要因になると考えており、「経済を過熱させる」というテーマとも概ね一致しています。さらに、弊社がより前向きな見方をするもう一つの要因があります。4月には、3年前から続いていたローリング・リセッションが終わりました。最終段階は、政府効率化省(DOGEドージ)がもたらした政府部門のリセッション、AI設備投資の伸びや貿易政策に対する期待の変化率の底打ち、そして現在も続いている消費者サービス分野のリセッションでした。要するに、4月に新たな強気相場とローリング回復が始まったと弊社は考えており、これはまだ初期段階で、特に経済の中でも遅れている多くの分野や市場では明確に認識されていません。ここにチャンスがあるのです。新たな景気循環で株価パフォーマンスが広がる際に通常必要となる「利下げ」が、今回は欠けています。通常であれば、このように労働市場が弱まる中でFRBはもっと早く利下げを実施していたはずですが、コロナ禍による不均衡や歪みのため、FRBの政策緩和は通常より遅れています。そしてこれが、初期サイクルの勝者への本格的な資金シフトを妨げてきました。皮肉なことに、政府機関の閉鎖は経済をさらに弱めましたが、雇用統計の発表が見送られたことでFRBの行動も遅れています。もしこのデータ遅延が続いたり、遅れて発表される雇用統計が非政府部門の雇用データに見られる最近の弱さを裏付けない場合、弊社の強気な12か月予想には短期的なリスクとなります。このような労働市場の弱さと「経済を過熱させる」という政府の方針が組み合わさることで、最終的には、FRBは現在の市場予想よりもハト派的な政策をとる可能性が高いと考えています。問題はタイミングだけです。ただし、これは短期的には株式市場のリスク要因であり、多くの銘柄が最近下落しているのもこのためです。要するに、4月にローリング・リセッションと弱気相場が終わり、新たな強気相場が始まったと弊社は考えています。S&P500は4月時点で20%下落し、平均的なS&P銘柄は30%以上下落していました。このシナリオはまだ十分に評価されていません。回復が広がり、経済の多くの分野で取引量や価格が改善する中で営業レバレッジが戻れば、今後1年で利益の大幅なアップサイドが期待できると弊社は見ています。弊社の予想はこのアップサイドを反映しており、これが、市場の一部領域がやや過熱気味であることを認めつつも、多くの銘柄は見かけほど割高ではないと考えるもう一つの理由です。S&P500については、12か月後の目標値を7,800としており、来年の利益成長率は17%、バリュエーションは現在の水準からわずかに縮小すると想定しています。弊社が注目するセクターは金融、工業、ヘルスケアなどです。一般消費材セクターをオーバーウェイトに引き上げ、2021年以来初めてサービスよりもモノを選好しています。もう一つの相対取引として、半導体よりもソフトウェアを選好しています。現時点で両者のパフォーマンス格差とポジショニングが極端になっているからです。最後に、2021年3月以来初めて、小型株を大型株よりも選好しています。初期サイクルで利益が広がり、FRBがより緩和的な姿勢をとることで、弊社が長らく待ち望んでいた環境が整いつつあります。今週初めに発表した詳細なレポートが、多くのレベルで変化しつつある市場環境を乗り越えるうえでお役に立てば幸いです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

11-19
08:34

米国株式市場に待ち受ける安堵とボラティリティー

弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、FRBの政策金利、政府機関の一部閉鎖、関税といった不確実要因がある中でも、株式が底堅さを保つと考えられる理由について、詳しく解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、最近の株式市場に関する懸念と、その変化の兆しについてお話しします。このエピソードは11月10日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 現在、決算シーズンの真っ際中です。表面的には銘柄ごとのばらつきが大きいように見えるかもしれませんが、実際には成長の裾野が広がるポジティブな動きが見られます。具体的には、中央値の銘柄が過去4年間で最も高い利益成長率を記録しており、S&P500構成企業の売上高の予想超過率も過去平均の2倍に達しています。これらは、業績回復が広がり、価格決定力が関税の影響を相殺するほど強まっている明確な兆候です。市場の弱含みを示す他の予兆にも注目しています。この1週間で、業績予想修正の季節的な軟調局面は終わりを迎えたようです。参考までに言うと、この指標は10月21日に6%まで落ち込みましたが、現在は11%に回復しています。特に、ソフトウェア、運輸、エネルギー、自動車、ヘルスケア分野が回復を牽引しています。こうした業績予想修正の回復が見られる一方で、先週の市場全般は他の2つのリスクによって重い展開となりました。1つ目のリスクは、10月のFOMCで示されたFRBのハト派姿勢の後退です。FRBは12月の追加利下げは既定路線ではないと示唆しました。そのため、米国株式市場がこの会合当日にピークを打ったのは偶然ではありません。同時に、投資家は第3四半期の成長データにも注目しています。もし予想以上に強い結果となれば、市場が期待するほどのハト派的な対応がFRBから得られず、株価の高止まりに必要な後押しにならない可能性があります。私はFRBのハト派姿勢の後退が株式市場のリスクであることを強調してきましたが、労働市場にも次第に不調の兆候が広がっているという点は重要です。これは、政府機関の一部閉鎖に直接関係する部分もありますが、民間の雇用データを見ると、政府部門以外でも雇用市場が減速しつつあることは明らかです。このため、市場には「FRBの利下げが遅れる」という緊張感が生まれ、4月以降の回復が失速するリスクが高まっています。労働市場の弱さと、「景気を過熱させる」という政権の方針が重なることで、最終的には市場が現在予想している以上にハト派的な政策をFRBが打ち出す可能性が高いと考えています。しかし、政府の雇用統計でこの傾向が確認されない限り、FRBは株式市場が望むほど速いペースでは動かないでしょう。市場が注目してきたもう1つのリスクは、政府機関の一部閉鎖そのものです。これらの要因が株価に影響を与えている主な経路は2つあると思われます。1つ目は、銀行準備金の最近の減少に見られる流動性の引き締まりです。政府機関の閉鎖により、政府職員や各種プログラムへの支払いが減少しています。閉鎖が間もなく終われば、これらの支払いが再開され、流動性拡大につながります 。政府機関の閉鎖による2つ目の影響は、多くの労働者が一時帰休となり、SNAP(補助的栄養支援プログラム)などの給付が停止されたことで、消費支出が減少したことです。その結果、一般消費材企業の業績予想修正が相次ぎました。幸い、政府機関の閉鎖がまもなく終わり、こうした市場の懸念が和らぐ可能性があります。最後に、関税について、最高裁判所の判断が近いうちに発表されます。先週、関係する銘柄がこの展開にどう反応するかが話題となりました。全体的には、最も影響を受けるとみられる銘柄の株価の反応はごくわずかでした。これはいくつかの要因によるものと考えています。まず、トランプ政権は既存の関税に代わる措置を講じるために他の多くの権限を利用する可能性があるということです。次に、仮に最高裁が関税を覆した場合でも、払い戻しにかなりの時間がかかり、2026年までずれ込む可能性があるということも要因でしょう。では、これらすべてのことは何を意味するのでしょうか。季節的な業績不振と政府機関の閉鎖は終わりを迎えつつあり、最近軟調だった株式市場に一定の安堵感をもたらすはずです。しかし、景気過熱を目指す政府の方針にFRBが完全にコミットするまで、ボラティリティーは続くとみています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

11-10
06:43

最高裁がトランプ政権の関税政策を審査

今週初め、米国最高裁判所は現政権の関税政策に異議を唱える訴訟の審理を行いました。弊社のグローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、この裁判の結果から予想される市場への影響について解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードは、グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、米国最高裁判所で審理された関税政策への異議申し立てと、その市場への影響について解説します。このエピソードは11月6日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。今週、米国最高裁判所は、トランプ政権が実施した関税の大半についてその合法性を審理しました。最高裁が政権に不利な判断を下した場合、今年4~5倍に引き上げられた米国の関税のかなりの部分が撤回される可能性があることから、投資家はその結果に大いに注目しています。このため、今回の口頭弁論と早ければ今月中にも出る可能性がある判決は、明らかに市場のカタリストになると見られます。しかし、経済や市場に影響を与える政策課題の多くと同様に、現実はより複雑です。ここで押さえておくべきポイントを解説します。まず、裁判所がどのような判断を下すかについては、専門家の間でもかなり議論が分かれています。裁判官の構成を考えると意外に思われるかもしれません。9人の裁判官のうち3人はトランプ大統領によって任命され、6人は共和党の大統領によって任命されています。しかし、大統領の権限行使が、行政府にこの権限を付与している法律、すなわち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に矛盾しないと裁判官が認めるかどうかは不透明です。大まかに言えば、この法律は、経済危機や敵対する外国勢力への対応を目的としており、伝統的な同盟国に対する関税には当てはまらないと裁判所が判断する可能性があります。しかし、次に重要な点は、仮にトランプ政権側が敗訴したとしても、米国の関税水準が大きく変わらない可能性があるということです。なぜでしょうか?それは、政権には他にも必要とあらば関税を執行できる権限があり、こちらの方が長く継続できる可能性もあります。例えば、通商法301条は、大統領が貿易相手国の不公正な貿易慣行を認定する広範な裁量権を与えており、この権限をIEEPAの代わりに使うことが可能です。301条の適用には調査報告の提出が必要なため、時間を要すると見られますが、他の一時的な権限で空白を埋めることができます。つまり、米国は現行の関税水準を維持しようと思えば、継続できる公算が大きく、弊社予想における関税は引き続き「変数」よりは「定数」に近い要素となっています。もちろん、弊社予想が外れる可能性も考慮しなければなりません。例えば、政権が敗訴を機に、通商法232条を使って特定製品ごとの関税に注力する方針に転換する可能性もあります。その場合、米国の実効関税率はやや低下し、弊社エコノミストが予想する消費者や輸入企業への圧力が緩和され、リスク資産への支援材料となるでしょう。ただし、政権が一時的に高い関税率を提示する必要があると考えた場合は、より受け入れやすい水準に落ち着くまで、今年の4月のようなボラティリティが生じる可能性もあります。結論として、今年は、関税政策に関するさらなるノイズの中を進む必要があります。このため、ある程度の市場の乱高下や、場合によっては若干の上昇につながる可能性はありますが、概ね現在と同じ水準に戻る可能性が最も大きいと考えます。2026年に向けては、関税水準そのものよりも、企業が関税や設備投資のインセンティブにどう対応するかという議論の方が、市場見通しに重要な影響を与えるでしょう。弊社ではこれらのテーマ全てについても掘り下げて最新情報をお届けしてまいります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

11-06
05:59

強気相場の確信強まる

弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンは、米国の通商政策と米連邦準備制度理事会が折り合うことから、年末に向けて買いの好機が訪れるとみています。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 本日は、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、最近のマクロ経済のイベントと第3四半期決算についてお話しします。このエピソードは11月3日 にニューヨークロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週にはマクロ経済に関係する重要なイベントが2つありました。ひとつはトランプ大統領と習国家主席による米中首脳会談。もうひとつは米連邦準備制度理事会(FRB)の10月の会合です。貿易面では、米国が中国に課す関税を10%引き下げることと、新たに提案されたテクノロジー関連の輸出規制を1年延期することに同意しました。そして中国側は、提案されていたレアアース(希土類)の輸出規制を停止し、大豆の購入を再開するとともにフェンタニルの取り締まりを行うことに同意しました。数週間前に急にエスカレートした対立を受けて起こり得た展開に比べれば、これは大きな好材料ですし、市場もそのように反応しています。FRBの会合については、パウエル議長が12月の利下げは既定路線ではないと示唆したことから、債券市場が見込む12月利下げの可能性が会合前の92%から現在では68%に低下しています。株価も小幅に調整し、相場の広がりは非常に弱いままです。経済成長が持ちこたえてもFRBが小幅な利下げしか行わないのであれば、上昇相場のけん引役は比較的少数の、そしてクオリティの高い銘柄に限られたままになりそうだ、と市場は告げているように私には思われます。向こう半年から1年の見通しについては、遅行指標である労働関連のデータが小幅に悪化する一方で、企業業績は予想以上に好調になり、最終的には株式相場のけん引役が増える舞台が整うだろうと弊社ではみています。ただ、弊社では、市場が近い将来発するシグナルも重視しています。つまり、FRBが状況に先んじて行動する意思を明確にするまでは、小型株/低クオリティ株/景気動向に強く影響されやすい循環株へのローテーションを進めるのは時期尚早です。ひょっとしたら市場にとっては、そのようなFRBの意思と同じくらい、量的引き締め(QT)を12月で終了するという決断が重要だったのかもしれません。ジェイ・パウエル議長は先日、短期金融市場でストレスが高まる恐れがあることを認め、QTの終了を遅らせるのではなく逆に早めることもありうると示唆しました。ここ1ヵ月間、QTが終わるタイミングの予想は「直ちに」から「来年2月」までまちまちでした。パウエル議長は先週の会合でその中間を取ったように見えるため、一部の市場参加者がそれに失望したのかもしれません。この展開を観察し続けるために、私は今後、短期金融市場の動きに目を向けることになるでしょう。具体的には、翌日物のレポ取引が増加していることから、もしその増加が担保付翌日物調達金利(SOFR)とフェデラル・ファンド(FF)金利とのスプレッド拡大とともに続くことになれば、株式市場はさえない展開になりそうだと私はみています。一部の投機色の強い銘柄群では特にそうなりそうです。端的に言えば、この動きが落ち着くまでは、クオリティの比較的高い銘柄群がアウトパフォームし続けそうだと弊社では考えています。一方、今は決算発表シーズンの真っただ中ですが、こちらは売上高の予想以上の上振れが際立つ展開になっています。増加率は今のところ、これまでに見られたペースの2倍を超えています。弊社では、米国の景気はローリング・リカバリーに入っており、企業業績は大方の予想をかなり上回ることになるとみていますが、売上高の上振れはこの見方をさらに補強する可能性があると思われます。結論を申し上げますと、米国では4月にローリング・リセッションが終了して新しいサイクルが始まっており、それとともに株式市場も新たな強気相場に入ったという中心的な見方への確信を、弊社では強めつつあります。これはつまり、2026年には企業業績がより大きな伸びを見せ、かつその動きがほかの銘柄にも広がっていくということです。株式相場のけん引役の交代もあるかもしれません。クオリティが比較的低い小型株にも株価上昇の勢いが広がることは、今のところ、インフレとの戦いを続けているFRBによって妨げられています。ひょっとしたら、足元のローリング・リカバリーが満開になるためには民間経済と平均的な消費者のためにどこまで金利を下げればよいのか、FRBは理解できていないのかもしれません。その点から見るなら、先週のFRBの会合は株式市場にとって短期的に失望を誘うものだったかもしれません。したがって、FRBがよりハト派的な政策を講じるタイミングがもっとはっきりするまでは、クオリティの高い銘柄に重きを置くのがよいでしょう。また年末にかけては、短期金融市場にストレスが加われば株式購入のチャンスが訪れるかもしれませんので、注目したいところです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

11-03
07:33

ステーブルコインが変える日本の金融の未来

日本の金融担当アナリストが、新たなステーブルコイン規制とデジタル決済の革新が、銀行業務、資産運用、そしてグローバルな資金の流れをどのように変革していくのかを解説します。トランスクリプト 「Thoughts on the Market」へようこそ。モルガン・スタンレーMUFG証券で日本の金融セクターの調査を統括している長坂美亜です。本日のテーマは「日本のステーブルコイン革命と、それがグローバル投資家にとってなぜ重要であるか?」についてお話させて頂きます。東京時間で10月31日 午後4時、日本の暗号資産市場の発展はまだ黎明期ですが、初の円建てステーブルコインの登場が目前に迫っており、国内外でのデジタルマネーの流通方法を静かに変革させる可能性を秘めています。ビットコインのようなデジタルマネーをご存じの方も多いでしょう。株式や債券などの伝統的な金融資産と比べて、価格変動が非常に大きいのが特徴です。一方で、ステーブルコインは異なります。円や米ドルなどの資産に連動することで、価値を安定させるよう設計されたデジタル通貨です。2023年6月、日本は資金決済法が改正され、ステーブルコインの法的枠組みが整備されました。日本国内外の市場関係者は、円建てのステーブルコインが、テザーのようなグローバルなデジタル通貨として定着できるかどうかに注目しています。ステーブルコインは、決済をより迅速に、低コストで、24時間365日可能にすることを可能とします。日本のキャッシュレス決済比率は2020年の約30%から2024年には43%に上昇しましたが、他国と比べてまだ成長の余地があります。政府によるフィンテックやデジタル決済の推進も加速しており、ステーブルコインは真のデジタル経済への架け橋となる可能性があります。ビットコインなどの暗号資産とは異なり、ステーブルコインは価格変動を抑えるよう設計されています。民間企業によって管理され、現金、国債、金などの資産によって裏付けられています。業界関係者は、ステーブルコインが現金の信頼性と、インターネットのスピードと柔軟性を兼ね備えたデジタル決済手段になると期待しています。日本の規制は厳格です。ステーブルコインは高品質かつ流動性の高い資産によって100%裏付けされる必要があり、アルゴリズム型ステーブルコインは禁止されています。発行者には透明性と準備金に関する要件が課され、月次監査が標準となっています。これは米国、EU、香港の新しい規制と類似している点です。では、実務レベルではどうなるのでしょうか。金融機関は、即時決済、資産運用、融資などにステーブルコインの活用を模索しています。例えば、通常数日かかる株式や債券の取引決済が、ステーブルコインを使えば数秒で完了する可能性があります。また、Banking-as-a-ServiceやWeb3との統合など、新たなビジネスモデルも可能になりますが、一方で規制コストや低金利が収益性の課題となっています。国際送金の基盤であるSWIFT取引を考えてみましょう。ステーブルコインがSWIFTを置き換えることはありませんが、補完することは可能だと考えられます。従来数日かかっていた送金が、数秒で完了し、手数料も最大80%削減される可能性があります。ただし、発行者への信頼やマネーロンダリング対策の遵守が重要です。投資家の関心が高いもう一つのテーマが、CBDC、つまり中央銀行デジタル通貨です。ステーブルコインとCBDCはいずれもデジタル通貨ですが、CBDCは中央銀行が発行する法定通貨であり、ステーブルコインは民間のイノベーションです。日本は世界第4位の経済規模を持ち、技術革新の分野ではリーダーと見なされていますが、金融変革には慎重な姿勢を取っています。CBDCの準備は進めているものの、発行を決定したわけではありません。仮に発行される場合、CBDCは公共インフラとして、ステーブルコインはイノベーションの担い手として共存することが可能であると考えられます。結論として、日本のステーブルコインの旅は始まったばかりですが、その影響は決済、資産運用、さらにはグローバル金融にまで波及する可能性があります。 ご視聴ありがとうございました。こちらの番組を気に入っていただけましたら、ぜひレビューを残していただき、「Thoughts on the Market」をご友人や同僚にシェアしてください。 

10-31
05:28

投資家はAI関連投資について心配するべきなのか

人工知能関連投資のブームはクレジット市場にとって警戒警報なのかという議論について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者 のアンドリュー・シーツが鋭く斬り込みます。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、巨額にのぼる設備投資と人工知能(AI)の技術は、過大投資とクレジット市場の懸念への注意を促す典型的な警戒警報を発しているのではないかという議論について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者 のアンドリュー・シーツがお話しします。このエピソードは10月23日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。確かなことが二つあります。ひとつは、AI関連投資はおそらくこの世代で最大の投資サイクルの一つになるということ。もうひとつは、クレジット市場には大型の投資サイクルがひどい頭痛をもたらしてきた長い歴史があることです。鉄道から電化、インターネット、シェールオイルに至るまで、巨額の投資がクレジット市場の下落を招いた例は枚挙にいとまがありません。きっかけとなった技術自体が大変な成功を収めていても、です。そこで、本日はこの点を掘り下げるとともに、今回のAI関連設備投資のサイクルは実際にはまだまだ続くと弊社が考える理由をご説明したいと思います。第1に、弊社モルガン・スタンレーは、AI関連設備投資を誰が行うのか、何がパイプラインにまだ残っているのかについて、複数の部署による詳細な共同調査を数多く行ってきました。そして、この点が重要なのですが、弊社が予想している投資のほとんどは、まだしばらく先の話です。投資ブームはまさに始まったばかりなのです。次に、地球上で最大級の規模と利益を誇る企業の一部は、AIを向こう10年間で最も重要な技術だとみなしていると思われます。そのため、一連の支出の見返りが最終的にどうなるかについてはかなりの不確実性があるとしても、投資を開始・継続しようという企業側の意欲はその分強まっていると弊社ではみています。第3に、近年のほかの大型設備投資サイクルの一部であった、1990年代後半のインターネットや、2010年代半ばのシェールオイルなどが思い出されますが、いずれもクレジット市場に困難をもたらしました――それらとは異なり、今日見られるAI投資の大半は、極めて強固なバランスシートとかなり大きな借り入れ余力を有する企業の後ろ盾を得ています。過去の投資サイクルには、そうでなかったものもありました。このバランスシートと借り入れ余力は、今回のAI関連投資が長続きすることに寄与すると思われます。そして最後の理由は、過去の一部の設備投資サイクルでは何がうまくいかなかったのかと考えると、過剰生産能力が最大の問題だったケースが多いということです。鉄道であれ電力であれインターネットであれ、新しい技術はそれまでの生活をがらりと変えてしまいます。そして、がらりと変えてしまうからこそ、投資をして作るものも多くなります。すると、作りすぎてしまう場合も出てきます。その技術に対する需要が姿を現す前に、前倒しで投資を行うからです。すると、投資のリターンが低下したり損失を招いたりする恐れが生じます。高水準のAI関連設備投資や、過去の大型投資サイクルの歴史が不安を引き起こす理由は、弊社にも理解できます。しかし、そうした動きを結び付けるときには、大型投資サイクルの歴史がまだら模様である理由を思い出すことが重要です。それは普通、技術自体がうまくいかなかったからではありません。有望な技術だけに需要に先んじて投資が行われ、その結果として生産能力が過剰になって投資のリターンが低下し、そのギャップを埋める資金力に乏しい事業者が出てきてしまう、ということなのです。今のところ、そのような状況にはなっておりません。データセンターの需要はいまだに旺盛で、投資案件の多くは極めて潤沢な資源を有する企業を後ろ盾に得ています。そのいずれかに変化がないかどうかを観察する必要はあります。ですが今のところ、AI設備投資サイクルはまだまだ続くと弊社ではみています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-23
06:12

強気相場に調整は必要?

S&P500が上昇を続ける中、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、近い将来に株式市場が調整し得る3つの理由について論じます。 このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが登場し、短期的にはおそらく調整するとしても、依然として新しい強気相場の中にある理由について説明します。このエピソードは10月20日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。私は、4月の「解放の日」後の株価急落が、事実上3年間続いた米国経済のローリング・リセッションの底だったと引き続き考えています。この見解については詳しく論じてきましたが、依然としてコンセンサスからは大きく外れています。2022年以降、民間経済のほとんどのセクターはそれぞれ異なるタイミングで個々の景気後退を経験しました。しかし、経済活動の変化率における最終的な底は4月であり、これはほとんどの人にとって予想外だった関税発表のタイミングと一致しました。少なくとも、その規模と範囲においては驚きでした。要するに、「解放の日」は景気サイクルにおける最後の悪材料に対する「降伏の日」であり、その後に底打ちが起こったのです。株式市場もこの見方に同意しているようであり、そのため4月以降、株価は一直線に上昇しています。これは、あらゆる景気サイクルの底打ち後に見られる典型的な動きです。この主張を裏付けるもう一つの証拠は、業績予想のリビジョン・インデックスのV字回復であり、これは弊社が数ヵ月にわたりリサーチやポッドキャストで議論してきたテーマです。弊社が投資家と行ってきた数多くの対話に基づくと、この見解は依然として非常に不人気です。むしろ、多くの投資家は、来年の経済および利益成長が予想よりも低くなるリスクがあると考えており、予想よりも高くなると考える弊社見解とは逆です。私の見解の核心は、コロナ禍以降、ヘリコプターマネーによる危機対応を経て、私たちは確実にインフレ期に入ったということです。政府は過去20年間に生じた巨額の債務と財政赤字問題を解決するため、経済を「高温状態」で運営する必要があります。その結果、投資家は1980年から2020年にかけてインフレが低下していた時期に経験したような10年単位の長期サイクルではなく、より短く熱いサイクルを想定する必要があります。つまり、米国株式市場では2年間の上昇期と1年間の下降期が繰り返されるということです。そして、これは2020年以降、実際に起こっていることです。私たちは現在、4月に始まった新しい上昇サイクルの真っただ中にいます。この新しい体制で理解すべき重要な点は、インフレが加速してもFRBが傍観しているか、あるいは2020-21年、2023年、そして現在のように緩和的であるならば、インフレは株式にとって必ずしも悪い要因ではないということです。インフレ率が高いということは利益成長率が高いということであり、そのため現在の株価収益率は高水準にあります。来年はインフレが加速する可能性が高いため、株式は利益成長率の上昇を織り込みつつあります。つまり、株式はインフレヘッジになります。実際、金と比較して、高クオリティ株は、年初来および2021年以降の貴金属に対する劇的なアンダーパフォーマンスを踏まえると、現時点でより安価なインフレヘッジとなる可能性があります。最終的には、2022年のようにFRBが政策を引き締める必要があるとき、インフレは再び株式にとって問題になりますが、それはまた別の話です。以上を踏まえると、株式市場は現在やや過熱気味であるため、S&P500の10~15%の調整はあり得るし、新しい強気相場のこの段階では通常のことです。近い将来にそのような調整が起こり得る理由は主に3つあります。第一に、米中貿易関係が再び悪化しており、11月1日の期限に向けて、対中関税が解放の日の水準に戻る方向にゆっくりと進んでいます。4月のように最悪のタイミングで売りに巻き込まれたくないと考える投資家は多いですが、このリスクは現実であり、今後数週間で緊張緩和の兆しが見られなければ、株価の重しとなるでしょう。第二に、資金調達市場で最近ストレスの増加が見られます。これはFRBの量的引き締めプログラムにより銀行準備預金が減少していることが原因と考えられます。このストレスが増加すれば、株式市場に波及する可能性があります。第三に、業績予想のリビジョン・インデックスは4月以降の歴史的な上昇を経て、現在反転し始めています。これは業績発表シーズンにかけて続く可能性がありますが、非常に高い水準からの多少の調整は普通のことです。また、関税の影響が棚卸資産を経由して損益計算書に反映され始めるほか、貿易問題が短期的に企業ガイダンスの重しとなる可能性もあります。結論として、4月に始まった新しい強気相場は、異なるセクターの経済と企業業績が異なるタイミングで回復するローリング・リカバリーのごく初期の段階にあると考えています。しかし、新しい強気相場であっても途中で調整が入るのは自然なことであり、現在の状況は4月以降で初めて取引可能な調整リスクがあることを示唆しています。短期的には、調整が訪れた場合に備えてキャッシュを温存し、絶好の買い場に備えることをお勧めします。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-20
08:02

米中問題:次は何が起こり得るか?

弊社の米国公共政策ストラテジスト、アリアナ・サルバトーレが、中国によるレアアース輸出規制の発表と、米国の大規模な関税措置の示唆が、世界のサプライチェーン、市場、経済成長にどのような影響を及ぼす可能性があるかを解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、米国公共政策ストラテジストのアリアナ・サルバトーレが、市場や投資家の注目を集めている最新動向、すなわち米中貿易問題の再燃についてお話しします。このエピソードは10月17日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。4月以来、米国と中国は非常に微妙なデタント(緊張緩和)状態にあります。ご存じの通り、トランプ大統領は「解放の日」以降の追加の報復関税を一時停止しました。それ以降、弊社は、この一時停止が長期間維持され、その間に米中が本格的な貿易合意に至ることには常に懐疑的な見方をしてきました。しかし、現在のエスカレーションが二国間関係の実質的な分断につながるということにも同じくらい懐疑的です。では、先週何が起きたのでしょうか。中国はレアアース輸出規制の強化を発表しました。レアアースは、電気自動車から防衛装備、高度な電子機器に至るまで、あらゆる製品の製造に不可欠な資源です。これに対し、トランプ政権は10月10日、中国からの全ての輸入品に11月1日から100%の関税を課すと表明しました。この日付は重要です。ちょうどその頃、トランプ大統領と習近平国家主席が韓国で開催されるAPECサミットで会談する予定だからです。今回のエスカレーションは非常に重大です。なぜなら、中国は世界のレアアース採掘のおよそ70%、加工・精製の90%を担っているからです。米国、日本、韓国、ドイツなど、世界中の多くの国が中国からの輸入に大きく依存しています。したがって、新たな輸出規制が導入されれば、各国は中国と個別に交渉して供給を確保しなければならない可能性があり、アジア、欧州、米国全体でサプライチェーン分断のリスクが高まります。今後の展開について、弊社は現在の米中貿易問題がどう進展するか、4つのシナリオを想定しています。弊社が基本ケースと考える、最も可能性の高いシナリオは、APEC会議に向けて、しばらくの間レトリックのエスカレーションが続き、恐らく期待値がリセットされた後、直近の現状に戻るというものです。なぜなら、米中両国とも、突然のサプライチェーンのデカップリングよりも、現在の均衡状態の維持を望んでいると考えられるからです。この均衡状態とは、実質的には「チップとレアアースの交換」です。つまり、米国は中国からレアアースを受け取り、その見返りとして米国の半導体チップの一部を中国に輸出するという構図です。ただし、この均衡があるからといって必ずしも、関税引き上げや追加の輸出規制といった一時的な貿易障壁の導入が排除されるわけではありません。より広範な流れとしては、今後も競争的な対立が続くでしょう。これは、伝統的な貿易戦術だけでなく、直接の連邦政府支出か、重要産業に関わる企業への政府出資拡大による国内投資をも含む超党派戦略です。例としては、IRA(インフレ抑制法)、CHIPS法、その他の超党派法案などが挙げられます。したがって、短期・中期的には、こうした貿易障壁が継続され、米国が中国からの選択的なデリスキング(リスク低減)を進めるための超党派的な産業政策が推進されるでしょう。弊社の基本シナリオでは、短期的な緊張の高まりはあるものの、最終的には大きな構造変化を伴わない限定的な合意に落ち着くと予想しています。他のシナリオも検討しています。ひとつは、11月1日以降に一時的なエスカレーションが発生するというダウンサイドケースです。双方が提案した政策を一度は完全に実施するものの、経済的なコストが明らかになると現状に戻るという展開です。より深刻なダウンサイドシナリオでは、エスカレーションの長期化を想定しています。このケースでは、両国が長期間にわたり貿易障壁を維持します。結果的に、両国が均衡状態の計算を変える判断を下すため、均衡は崩れるでしょう。そうなると、デカップリングが進み、サプライチェーンに大きな負荷がかかるでしょう。最後のシナリオは、急速なデ・エスカレーションです。激しいレトリックが逆に交渉再開のきっかけとなり、新たな枠組み合意に至る可能性があります。この場合、一部の関税は残るものの、関税水準は当初の提案よりも低く抑えられるでしょう。では、以上のことは何を意味するのでしょうか。基本ケースでは、弊社のエコノミストは、中国の2025年下期のGDP成長率が4.5%割れに減速すると予想していますが、輸出は米国向け以外が堅調に推移することで支えられる見通しです。弊社の株式ストラテジストはこうした状況について、今年初めに始まったローリングリカバリーが続くとの見方から、ボラティリティーが高まることで実際には押し目買いの好機になるとみています。一方、エスカレーションが長期化した場合、中国のデフレが長引き、さらなる政策対応が必要となる可能性があります。同様に、米国でも初期サイクルにあるローリングリカバリーが頓挫するリスクが高まります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-17
08:29

政治がグローバル市場に与える影響

日本とフランスの政治動向が、国債市場にさらなるボラティリティをもたらしています。グローバル・エコノミストのアルニマ・シンハが、投資家が注視すべきリスクについて解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、グローバル・エコノミストのアルニマ・シンハが、世界各国の国債の見通しや選挙について解説します。このエピソードは10月15日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、国債と財政の見通しの悪化についてレポートを出しましたが、まさにぴったりのタイミングで現実がシナリオ通りになりました。日本の選挙とフランスの政治的混乱を受け、長期金利が反応し、財政見通しが政治的な議論の一部となりました。市場は現在おおむね安定しましたが、こうしたボラティリティゆえに、債務と財政の見通しというテーマは引き続き注目されるでしょう。日本では、与党・自由民主党(LDP)が高市早苗氏を新しい党首に選出し、市場にとってはやや意外な結果となりました。高市氏の選出は、1885年に内閣制度が確立されて以来、初の女性首相誕生への道を開くものです。しかし、そうした結果が確定したわけではありません。最近の報道によると、最終決定は数週間後になる見通しです。日本の戦後政治におけるこの画期的な動きは、いくつかの点で日本の政治経済における変化の波をさらに揺るぎないものにしています。市場は、高市氏が日本のリフレトレードをさらに推進し、名目成長の回復を後押しすると見込んでいます。東京市場が再開すると、長期金利は14ベーシスポイント上昇し、日本のイールドカーブは急激にスティープ化しました。これは、財政懸念の高まりと選挙前のフラットニング・ポジションの巻き戻しによるものです。具体的には、インフレ救済措置、経済安全保障やサプライチェーンへの投資拡大、食料安全保障へのさらなる取り組みといった、より積極的な財政政策への期待が高まっているようです。弊社のストラテジストは恩恵を受ける分野として、ハイテク輸出企業や防衛・安全保障関連、インフラ・エネルギー企業などを挙げています。資本がこれらの分野に向かう可能性が高いからです。ただし、明確な立法の成熟度が欠けているため、財政政策の抜本的な転換は難しい可能性があるとエコノミストは警告しています。一方、金融政策への影響は限定的と見ています。高市早苗氏は日銀の植田総裁の慎重な姿勢に強く反対はしていないため、目先の利上げ期待は低下しているようです。しかし、特に円安が進めば、年内の利上げの可能性は消えていないことに注意が必要です。経済的には、弊社の基本シナリオは選挙結果によって裏付けられました。近い将来、日銀が利上げを行うとは予想していませんでした。実際、市場は次回会合での利上げ期待を織り込まなくなっています。フランスでも、弊社が債務持続可能性に関する分析レポートを発行して以降、長期金利が政治情勢の変化に反応しました。ルコルニュ首相は、市場が予想していたよりもはるかに早い時期に辞任し、しかも在任期間はわずか数週間でした。現在の議会では依然として過半数議席を持つ勢力はなく、膠着状態が続いています。数週間から数ヶ月以内に解散総選挙が行われる可能性も消えていません。拡大する財政赤字という動く標的に対し、財政健全化をどう進めるかについて意見が割れており、これが政治的不確実性の根本的原因となっています。フランスの財政健全化の遅れは、長年議論されてきたテーマです。ECBは、混乱につながるOATスプレッドの拡大を阻止するためにTPIという暗黙のバックストップを提供していますが、弊社の欧州エコノミストはTPIが発動される可能性は低いと見ています。フランスの財政持続可能性への懸念がスプレッド拡大の主因であり、これはファンダメンタルズを反映していると考えられるからです。弊社のかなり機械的な債務予測では、市場が最終的に何が持続可能で、何が持続不可能かを決定すると強調しました。ここでお話しした政治的イベントは、注視すべきカタリストです。今のところリスクは抑えられていますが、油断はいつでも高くつく可能性があるという明確なメッセージを伝えたいと思います。債務と財政のファンダメンタルズが悪化する中で、今後もリスクが増えると考えています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-15
07:20

政府閉鎖の影響はいつ市場に及ぶのか

米国の政府閉鎖が長期化し、経済成長率が低下するリスクが強まっています。投資家が今後警戒すべきポイントを、弊社グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスがご紹介します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、米国の政府閉鎖が続いている現状において警戒すべき3つのポイントを、弊社 のグローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスがお話しします。このエピソードは10月8日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。米国連邦政府が閉鎖されて1週間経ちました。しかし、市場を観察しておられる方々は、何もかもが穏やかに見えることに驚いていらっしゃるかもしれません。株価は堅調です。債券利回りもさほど変動しておらず、ボラティリティも低いままです。この状況は、ワシントンが袋小路に入ることを想定して、私と同僚のアリアナが以前議論していたシナリオとおおむね同じです。投資家や市場の反応が不確実性に見舞われる恐れがあること、そしてそれは政府閉鎖の長さ次第であることに、私たちは事前に気づいていました。したがって、ここで大きな疑問が浮上します。この政府閉鎖に関する何かが投資家のマインドを揺さぶって市場を動かし始めることがもしあるとしたら、その何かとはなんだろうか、という疑問です。これは検討に値する疑問です。予測市場では現在、政府閉鎖は少なくともあと1週間続く可能性が最も高いとされています。また過去の政府閉鎖を見る限り、閉鎖は長引けば長引くほど問題になる可能性も高まります。景気の見通しを狂わせるリスクが積み重なり始め、ついには投資家も景気見通しの悪化を織り込み始めなければならなくなるからです。投資家がそのように思い始める可能性があるのはいつなのか――それに気づくために警戒すべきポイントがいくつかあります。第1のポイントは、一時帰休している連邦政府職員への給与支払いが遅れることです。これはあと2、3日もすれば始まります。給与が減れば、当然ながら支出も減ります。複数の研究によれば、影響を受ける職員の支出は政府閉鎖の間2~4%減少しうるそうです。この段階ではGDPに及ぶダメージは大きくありませんが、政府閉鎖の影響が首都ワシントン以外にも及ぶ兆しとなります。第2のポイントは、政府職員削減の可能性があるため「今回は違う」かもしれないことです。トランプ政権は、省庁が恒久的な人員カットに動く可能性があることをほのめかしています。これは過去にはなかったことです。労働組合はすでに、そんなことになったら訴訟を起こすと表明しています。しかし、そのような行動が取られ始めれば、いや、政府職員をめぐる法的な不確実性が高まるだけでも、景気悪化の可能性が高まる恐れがあります。弊社ではもうひとつ、第3のポイントとして、政府閉鎖のせいで経済活動に目に見える混乱が生じることを警戒しています。前回の政府閉鎖は、航空管制官不足のためにニューヨーク発着の航空便が削減されたときに終わりました。今回はすでに、全米で航空便の大幅な遅延が発生しています。さらに大幅な遅延が生じたり航空機の地上待機命令が発せられたりすれば、移動関連の経済活動は明らかに阻害されます。そんな事態になっても、政府機関を再開させる法案の交渉 の進展の兆しがワシントンから感じられなかったら、投資家の懸念は強まる恐れがあります。結論を申し上げますと、市場が平静を保っているのは正しい判断かもしれません。しかしそれは、「今のところは」という条件付きです。政府閉鎖が長期化すればするほど、ご紹介した3つのポイントのいずれかが投資家を刺激し、楽観論の再考を促す可能性も高くなるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-08
05:35

イールドカーブのスティープ化に備える

チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、イールドカーブの変化が保険などの市場、米国債利回り、モーゲージ金利にどのような影響を及ぼしているかについて説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はチーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、イールドカーブの形状がクレジット市場や住宅市場に与えている影響や、カーブの変化によるリスクやそのインプリケーションについて解説します。このエピソードは10月7日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。イールドカーブの形状は金融市場において極めて重要な役割を担っています。クレジットの状況から住宅やモーゲージの動向に至るまで、あらゆるものに影響を与えます。FRBの追加利下げが確実視されていることについて、しばらく前からこのポッドキャストでもお聴きになっていることでしょう。弊社のエコノミストは次回からの3会合、つまり10月、12月、1月の会合でそれぞれ25ベーシスポイントの利下げが行われると予想しています。そして来年にも4月と7月での2回のさらなる利下げを見込んでいます。これはカーブの形状にとって何を意味するのでしょうか。投資家はイールドカーブのスティープ化に備えてポジションを取るべきであるというのが弊社の確固たる見解です。なぜカーブが重要なのでしょうか。カーブは単なるマクロ的なシグナルではありません。価格設定、リスク許容度、セクターフローを方向付ける伝達メカニズムなのです。保険会社を例に取り上げてみましょう。カーブのスティープ化を受け、定額年金商品の需要が急増しており、ひいては社債や証券化クレジット商品などのスプレッド資産への資金流入が加速しています。保険需要はクレジット市場における強力なテクニカル要因の一つとなっています。今年のスティープ化は、短期債利回りの低下によるものです。例えば、米国債の2年物利回りはおよそ60ベーシスポイント低下しており、低下幅は10年物利回りの40ベーシスポイントや30年物利回りのわずか5ベーシスポイントを大幅に上回っています。こうした短期債利回りの動きは金利予想の変化を反映しており、短期資金調達に依存している高レバレッジの発行体にとって助けとなっています。しかし、長期債利回りはなかなか下がらず、オールインの借り入れコストは高止まりしています。これは保険会社、そして定額年金商品の販売にとって好材料ですが、全体的な債券発行を抑える形で作用しており、その影響もあってマクロの不確実性にもかかわらずクレジットスプレッドはタイトなままです。とは言え、全ての市場が恩恵を受けているわけではありません。モーゲージ金利はフェッドファンド金利よりも長期債利回りに追随しますが、2024年9月の緩和サイクル開始以来、実際に25から30ベーシスポイント上昇しています。これは手頃な住宅の購入を考える上で逆風となります。カーブのスティープ化は、融資や将来の住宅供給を支える可能性がありますが、現在の買い手を助けることにはなりません。長期債利回りが低下してカーブがフラット化すれば、より意味のある支援となるでしょうが、これは明らかにわれわれのベースケースではありません。要するに、利下げは重要ですが、カーブの形状の方がもっと重要かもしれません。カーブのスティープ化はクレジットにとって追い風となりますが、住宅にとっては逆風となります。そして、全ての市場が足並みをそろえて動くわけではないことに注意する必要があります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

10-07
05:13

中国のバイオテクノロジー革命

中国のバイオテクノロジー産業の台頭が世界中のヘルスケア、投資、イノベーションの姿をいかに変えているのか、弊社中国ヘルスケア担当アナリストのジャック・リンが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、中国でバイオテクノロジー・ブームが起きていること、そしてそれが中国専門の投資家が注目する情報にとどまらず、すべての人々にかかわる出来事であることを、弊社中国ヘルスケア担当アナリストのジャック・リンがお話しします。このエピソードは10月3日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。お気づきでない方も多いかもしれませんが、次世代のヘルスケアのイノベーションの中には、シリコンバレーやウォール街から遠く離れた土地で開発中のものがあります。ご自身が頼りにする薬、ご家族の将来を決めるかもしれない治療計画、さらには貯蓄を増やしてくれるかもしれない投資機会。これらすべてが、発展著しい中国のバイオテクノロジー・セクターからますます影響を受けるようになっています。このセクターは従来型のジェネリック医薬品製造業者からグローバルなイノベーションのエコシステムへと変貌を遂げつつあるのです。実際、中国のバイオテクノロジー産業は、グローバルなイノベーションのエコシステムにおける有力プレーヤーになりそうです。米国食品医薬品局(FDA)で承認される品目のうち、中国生まれのものが占める割合は今日ではわずか5%ですが、2040年までには全体のおよそ3分の1へと劇的に拡大する可能性があると弊社ではみています。しかもこれは、中国のバイオテクノロジーは重要か否かという問題にとどまりません。世界各地の患者さんが恩恵を享受するかもしれない、世界の消費者や投資家もその衝撃にかかわるかもしれないという話なのです。この変化の原動力は何なのでしょうか。中国発の医薬品イノベーションのグローバル化を推進している要素は主に3つあります。コスト、利用のしやすさ、イノベーションの質という3点です。まず、中国のバイオテクノロジー・セクターは諸外国より低コストであるため、開発をより効率的に行えます。また、規制当局による審査手続きの合理化に伴って臨床試験の質も向上しており、グローバル市場は中国発のイノベーションを利用しやすくなっています。そして、米国のFDAや欧州のEMA(欧州医薬品庁)をはじめとする外国主要機関からの販売承認を地域で開発された医薬品が目指す事例も増えており、中国のバイオテクノロジー・セクターは勢いづいています。これらはすべて、中国がバイオテクノロジーのグローバルな舞台で重要な役目を担おうとしていることを示しています。とは言え、ちょうど今は岐路に立たされているのも事実です。米国と中国の地政学的な緊張が強まっており、イノベーションの流れに潜在的なリスクを突き付けているからです。そうした不確実性にもかかわらず、弊社はこの緊張から「コオペティション」が生まれる、すなわち「コンペティション(競争)」と「コラボレーション(協力)」が混じりあうことになりそうだとみています。グローバルな製薬会社は、イノベーションとレジリエンス(回復力)の両方を追求しなければならないためです。もちろん、この急速な発展は機会と困難の両方をもたらします。医薬品のグローバルなイノベーションの風景が変わる中、世界中のステークホルダーが戦略と協力関係の再考を促されることになります。中国のバイオテクノロジー業界が進歩するにつれ、中国とそれ以外の国々の両方で投資家や政策立案者、医療関係者が行う様々な選択が、未来の治療法を決定することになるでしょう。本当にダイナミックな動きがみられる分野ですので、弊社では今後も、新しい情報を随時お伝えしてまいります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

10-03
05:31

FRBはパーティーを終了させるのか?

多額の財政赤字、資本支出の急増、規制環境の緩和にもかかわらず、FRBは減速する雇用市場を支えるためにさらなる利下げを行う構えのようです。これにより、企業のリスクテイクは90年代以降見たことのない水準に達する可能性があります。 このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、雇用市場が持ちこたえられた場合、2026年に企業活動を加速させる可能性のある要因について解説します。 このエピソードは9月29日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。50年代と60年代にFRB議長を務めたビル・マーティン氏は、「FRBの仕事はパーティーが盛り上がり始めたところでパンチボウルを持ち去ることだ」というジョークを発したことで有名です。この引用は現在の状況に合致しているようです。さまざまなトレンドが、今後12ヵ月でかなり活気に満ちた光景が広がることを示唆しているからです。第一に、米国政府の歳出は歳入を大幅に上回っています。経済全体の規模の およそ 約6.5%に相当する財政赤字は、景気を刺激しています。財政赤字が現在の水準を上回ったのは、世界金融危機、新型コロナウイルス流行、第二次世界大戦の時期だけです。まさにパンチです。次に、企業セクターについてです。このポッドキャストでもお聴きになったことがあるように、モルガン・スタンレーは、AI関連支出が過去最大級の投資の波へと拡大する可能性があると考えています。2010年代のシェールブームや90年代後半の通信インフラ投資の影がかすむほどの規模となるでしょう。重要なことですが、AI関連支出は現時点で急増しているとみています。大手テック企業による投資は今年70%増加し、2024年から2027年までの間に2.5倍増えるとモルガン・スタンレーは推計しています。ただしこの推計には、AI技術を支えるために構築する必要がある莫大な金額の電力インフラさえ含まれていません。従って、さらなる経済のパンチです。最後に、規制緩和の推進です。弊社の銀行担当リサーチチームは、米銀の資本要件が引き下げられることで、バランスシート・キャパシティーがリスク加重ベースで1兆ドル拡大する可能性があると考えています。また、M&Aの規制環境が緩和されれば、M&Aは増え続けるでしょう。ここでも、パンチの追加というわけです。政府と企業の多額の支出、銀行の融資とリスクテイク能力の拡大。ではFRBの次の手は何でしょうか? 厳密にはFRBはパンチを持ち去ろうとはしていません。FRBは5回の追加利下げを行い、政策金利の中央値を2.875%まで引き下げるとわれわれは考えています。FRBの景気支援措置は、これまでに言及した複数の支援要因をよそに雇用市場がすでに減速し始めているという実際の懸念に基づいています。そして、経済の広範囲にわたる減速は、FRBからのこうした支援を完全に正当化するでしょう。しかし、成長が鈍化しない場合、多額の財政赤字、急増する資本支出、規制環境の緩和、さらにはFRBの利下げ、という全ての要因が企業のリスクテイクを一段と加速させるでしょう。90年代以降見たことのない形で加速が進む可能性もあります。こうした好景気は景気の急減速よりも望ましいものですが、独自のリスクを伴います。経済データが持ちこたえた場合、このシナリオについて来年、話をさらに掘り下げたいと思います。 最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-29
05:29

米国の政策の落ち着きを受けて上向く資本市場

貿易、移民、規制をめぐる状況の確実性が高まるなかでIPOとM&Aが増えていることについて、弊社グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが考察します。 このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、米国の政策の変化が2025年の市場をいかに形作っているか、そしてここにきて資本市場の動きが上向いているのはなぜなのか、グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスがお話しします。 このエピソードは9月24日 にニューヨークにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。今年の初め、投資家の見方はある一つの点において一致していました。トランプ大統領が返ってくる、米国の政策はきっと大きく変わるだろう、というのがそれでした。しかし、そうした変化が経済と市場にとって何を意味するのかについては、見方があまり一致していませんでした。そこで弊社のチームは、通商政策、財政政策、移民政策、そして規制政策の変化を投資家が追跡しやすくなるような枠組みを設けました――下された選択の順序と重大さに的を絞った枠組みでした。この視点は今でも役に立っています。しかし、政権発足から250日が経過したことから、そうした変化のインパクト、持続性のある政策シグナル、そしてそれらの相場への折り込まれ方に目を向けるほうが有益ではないかと我々は考えるようになりました。まず、政策の不確実性からみていきましょう。この不確実性はまだ高いものの、今年に入ってからのピークに比べれば低下しています。例えば、ホワイトハウスは主要な貿易相手国とのディールを済ませており、関税率の急激な引き上げは今のところ止まっています。もちろん、貿易相手国が約束を守らなければ状況が変わる可能性もありますが、何らかの影響が顕在化するまでにはしばらく時間がかかるかもしれません。たとえ裁判所が新たな関税に異議を唱えても、政権側にはこれを再度発動する手段があります。また連邦議会が2つに割れていることから、大きな政策の動きのほとんどは議員ではなく行政府から出てきています。政策の変更が減速していることから、ワシントンで新たに生まれた持続性のあるコンセンサスは考察に値します。二大政党はもう何年もの間、貿易障壁を引き下げることと政府を民間の事業に介入させないことについてはたいてい合意できました。ところが、今ではそれが変わったように思われます。産業の形成において政府がより能動的な役割を担うこと、すなわち産業政策が今日の米国の戦略では主要なパーツになっているのです。第1次トランプ政権で始まった関税はバイデン政権でも維持されました 。し、今日では批判する側も、関税をかけることの是非より関税の発動の仕方のほうに焦点を合わせています。この変化は医療、エネルギー、そしてとりわけテクノロジーといった分野で見受けられます。半導体を例にあげましょう。バイデン政権は安全な国内サプライチェーン構築を目指してCHIPS・科学法を制定しましたが、トランプ政権は中国への輸出品にライセンス料を課したり、政府による民間企業の株式取得を増やすことを検討したりしています。では、なぜここにきて資本市場の活動が上向いてきているのでしょうか。理由はいくつかあります。第1に、政策をめぐる不確実性が後退し、企業が重大な決断を比較的下しやすくなっていることが挙げられます。今年は新規株式公開(IPO)や企業の合併・買収(M&A)などの活動が、経済の規模を考えれば異例なほど低調でした。しかし、企業のバランスシートは強固で、多額の現預金を保有しています。そして、個人や事業法人は資金を運用するつもりでいます。おまけに人工知能(AI)やテクノロジーのアップグレードがもたらす新しい投資ニーズも存在します。取引が増える条件は整っているのです。弊社の法人のお客様からも、政策がもたらしうる結果の振れ幅が小さくなったことで、戦略的な計画を推進しやすくなったとうかがったことがあります。そしてその結果、IPOは前年同期比で68%、M&Aも同35%、いずれも増えているのです。低水準からの増加ですので、伸び率は今後縮小するかもしれませんが、プラスの伸びはしばらく続くと弊社ではみています。こうした動きはすべて、市場のほかのトレンドと連動しています。例えばイールド・カーブの傾きは大きいままで、米ドル安も続いています。なぜでしょう?まず、通商政策は引き締めに傾いた状態が続きそうです。財政政策については、大統領と連邦議会が好む方策がすでに選択されており、先行きは確定したように見受けられます。そして米連邦準備制度理事会(FRB)は、経済成長を下支えするためにインフレリスクの拡大を許容する構えのようです。このことは米ドルが下落し続ける恐れがあることを、そしてこれまでよりハト派的なFRBの姿勢を反映して期間の短い債券の利回りが低下する場合でも、期間の長い債券の利回りは変動しにくくなる可能性があることを意味します。いつものように、これらのトレンドが経済全体とどのように影響しあうかを観察していくことが重要です。またそれは、2026年の見通しを考察し始める際にも重要になるでしょう。弊社は今後も分析を続け、その結果をみなさまにお届けしてまいります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-24
07:44

FRBの対応はグローバルクレジットを支えるか

FRBは今回の利下げ発表とその先の追加利下げにより米国景気がわずかに過熱しても構わないと考えているようです。このことが欧州債券市場にとって予想外の支えとなる可能性について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。 このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが登壇し、FRBが景気の過熱をいとわない様子であることと、これが米国外の債券市場を支える可能性について解説します。このエピソードは9月19日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。FRBは今週、金利誘導目標を0.25%引き下げ、追加利下げの実施を示唆しました。は失業率が低く、インフレが高止まりしているにもかかわらず、FRBは利下げして景気を支えようとしています。FRBがこれを正当化するのは、労働市場が今後軟化し始める可能性があるためです。このため、今は景気の支えを増やす方がよいとの考えです。たとえそれによってインフレ率が多少上昇し、多少長く続いたとしてもです。実際、FRBの景気見通しは景気が若干過熱する方がましだとの考えを裏づけています。直近のFRBは以前と比べて今後の経済成長率とインフレ率を高く、失業率を低く見積もっています。しかし、それにもかかわらず、以前よりも速いペースでの利下げを予想しています。労働市場が実際に弱まり始めた場合、そしてそれがすぐに起きた場合、短期的な支えを増やす方向に舵を切ったFRBの判断は実に正しいといえます。しかし、成長が続いた場合は、その背景を考える必要があります。現在、銀行貸出の伸びは加速し、インフレは高止まりし、政府債務は膨らみ、株式のバリュエーションはおよそ約30年ぶりの高水準で、信用スプレッドはおよそ約30年ぶりの低水準です。そして今、FRBは立て続けに利下げしようとしています。そうなれば状況はあっという間に過熱するように思えます。大西洋の向こう側の諸国が必ずしもFRBと同じ戦略をとらないことにも注意すべきです。英国とユーロ圏も労働市場の軟化とインフレ目標の超過に直面しています。しかし、これら諸国の中央銀行はもっと慎重な姿勢をとっており、少なくとも当面は金利を据え置く意向です。FRBがインフレに寛容だと米ドルにとってはマイナスだと思われ、私の同僚は向こう12ヵ月でドルがユーロ、ポンド、円に対して大幅に下落すると予想しています。クレジットについては適度を好む資産であるため、米国景気が過熱しすぎるか、冷え込みすぎるか、2つのシナリオの間に置かれつつあることが問題です。では、このふたつを合わせてみましょう。米国の投資家が単純に欧州債券を買ったならどうでしょうか。欧州市場は過熱しすぎる、あるいは冷え込みすぎるといった大きなリスクにはそれほど傾いていないように思えます。インフレに直面してもより慎重に対応する中央銀行が支える通貨への投資となります。欧州の投資適格債の利回りは3%程度で、弊社の予想ではユーロは来年対ドルでおよそ約7%上昇する見込みであることから、一見眠っているような市場がドル換算で10%近いリターンを生む可能性があります。米国の投資家は為替をヘッジしないようにしてください。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-19
05:06

サイバーセキュリティがポートフォリオを変えつつある

サイバー犯罪が加速する中、サイバーセキュリティは底堅い投資機会として急成長しています。このような市場の変化の原動力となっている重要なトレンドについて弊社サイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はサイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが登壇し、サイバー犯罪に対するデジタル防衛の未来について解説します。このエピソードは9月12日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。朝起きると、サイバー攻撃を受けて預金残高がゼロになっていた、業務運営がフリーズしていた、個人情報が漏洩していたと想像してみてください。サイバーセキュリティは今や一部の特別な人だけの問題ではありません。消費者であり投資家である我々すべてに影響が及びます。デジタル環境がますます複雑化する中で、サイバー犯罪の規模と深刻さは増しています。このことは企業が支出を増やしてもそれ以上の勢いでリスクが増えていることを意味します。投資家にとって、これは警告であり機会でもあります。サイバーセキュリティの市場規模は現在2,700億ドルです。弊社の予想では2028年まで年率12%のペースで拡大する見通しで、成長率はソフトウェアの中でトップクラスです。もうひとつ注目すべき数字があります。弊社がアンケート調査を実施した企業のCIOは、サイバーセキュリティ支出がソフトウェア支出全体を50%上回るペースで伸びると予想しています。これはサイバーセキュリティがIT予算の中で最もディフェンシブな領域であり、厳しい時期でも最も削減されにくいことを示しています。投資家はすでにこれに気づいています。セキュリティソフトウェア株は幅広い市場を上回るパフォーマンスを上げており、過去3年間のリターンはソフトウェア全体の22%を上回る58%で、NASDAQは79%でした。AIの登場によってハッカーの攻撃方法が増え、それらの脅威が進化する方向性も増えるため、セキュリティソフトウェア株がソフトウェア全般をアウトパフォームする状況は今後も続くと思われます。今後は相互に関係し合ったいくつかの非常に大きなテーマがサイバーセキュリティ株の投資機会を高めるものと考えます。中でも最大のテーマのひとつはプラットフォーム化、つまりセキュリティツールと統合プラットフォームの一体化です。大手企業は現在、平均で130もの異なるサイバーセキュリティツールを使用しています。ロボットやドローンのようなコネクテッドデバイスの登場により、統合セキュリティプラットフォームの重要性が今まで以上に増す中で、このようなやり方は分かりにくく複雑になりがちで、防御に重大な欠陥が生じる可能性があります。その他に考慮すべきこととして、セキュリティ投資はIT予算全体の6%を占めていますが、AI投資では全体の1%に過ぎないことが挙げられます。つまり、AIが業務運営で中心的な役割を果たすようになるにつれ、大きな成長余地があるといえます。今日のサイバーセキュリティ戦では、多くのツールを積み重ねたり、最新のバズワードを追うだけでは不十分です。弊社の見立てでは、カオス状態を分かりやすい状態に変えられるサイバーセキュリティ・プロバイダーが最大の勝者の一角を占めるでしょう。これらの企業は売上高とフリーキャッシュフローを増やすだけでなく、断片化した多数の防衛ツールを管理しやすい統合プラットフォームにまとめています。これらの企業は単に大きくなるだけでなく、賢さと迅速性と回復力を高めたいと考えています。そして、雑音を遮断し、システムを切れ目なく稼働させ、新たな脅威の出現に直ちに順応することが重要だと理解しています。サイバーセキュリティの領域では複雑さは害となり、簡単であることが非常に大きな力を持ち始めています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-12
06:02

印中貿易の次の展開は?

アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、変化し続けるインドと中国の貿易関係が、世界のサプライチェーンの見直しや新たな投資機会の発見につながる可能性についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はアジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、現代の最も重要な経済関係の一つであるインドと中国の関係、そして両国関係がこの先どうなるのかについて解説します。このエピソードは9月11日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。インドと中国の貿易ダイナミクスは急速に変化しています。このダイナミクスは両国自身の将来を方向付けているだけではありません。世界のサプライチェーンや投資の流れに影響を及ぼしています。インドの対中貿易は過去10年間で2倍近くに拡大しています。インドにとって中国は最大の貿易赤字国であり、対中貿易赤字は現在1,200億ドルに達しています。一方、中国のインドに対する貿易黒字は、全てのアジア諸国の中でも最大級の規模に膨らんでいます。経済的必要性ゆえにこうした両国の貿易関係はいっそう深まるでしょう。インドは技術的な専門知識や資本財、重要な構成品目の支援が必要です。中国は、新興国で2番目の経済規模と成長率を誇るインドにおける成長機会をうまく活用する必要があります。これらの問題について順番に考察してみましょう。インドは世界のバリューチェーンの一角に入り込む必要があります。そしてそのためには、中国からの直接投資が必要です。まさに中国が米国、欧州、日本、韓国からの直接投資によって技術や専門知識を取得し、経済大国にのし上がったのと同じような構図です。インドにとって、中国の対外直接投資の規制緩和はゲームチェンジャーになり、技術的なノウハウの移転や製造業の競争力強化につながる可能性があります。現在、中国は世界最大の製造業国です。世界のバリューチェーンの40%以上を占めており、これは米国の13%やインドのわずか4%を大幅に上回る規模です。世界の財の貿易は徐々に、半導体や電気自動車、電気自動車用バッテリー、ソーラーパネルなど、バリューチェーンの上流の製品が中心になってきています。そして中国は8つの主要製造業セクターのうち6つのセクターで世界1位の輸出国です。簡潔に言えば、世界のバリューチェーンへの関与を高めたい国はみな、中国との貿易を増やさなければならないでしょう。インドにとってこれは、資本財や自国の産業化に必要とされる重要な構成品目に対する需要が増える中、需要を満たすには中国からの輸入に頼らなければならないことを意味します。実際、こうしたことはすでに起きています。インドの中国および香港からの輸入の半分以上が資本財、すなわち、製造業やインフラ投資に必要な機械設備です。このほか輸入の3分の1を工業製品が占めており、インドが重要な構成品目の供給元として中国に依存していることが分かります。中国の観点からすると、インドは2番目に大きく、最も成長率の高い新興国市場です。米中貿易問題が続く中、中国は輸出市場の多様化を進めており、インドは大きな機会を見込める市場です。中国企業がこの成長機会を捉える一つの方法は、インドに投資して国内市場の需要に応えることです。中国の携帯電話会社はすでにこれを実行しており、これが他のセクターにも広がるかどうかはインドの市場開放次第となるでしょう。要するに、インドは製造業や技術における中国の強みをうまく活用できる一方で、中国は輸出先や投資先としてインドの巨大な市場を利用することができるのです。しかし、気を付けなければならないのは地政学的要因です。経済的必要性から貿易や投資の関係は深まると考えられますが、政治情勢によって進ちょくが遅くなる可能性があります。投資家はこの点を注意深く見守る必要があります。重要な進展についてはわれわれが常に最新の情報をお知らせします。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-11
06:02

金が市場で輝きを保つ理由

金に対する強気見通しと、25年の金相場の上昇が示すインフレ、中央銀行、世界のリスク状況について金属・鉱業コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は金が投資家にとって単なる安全資産にとどまらないことと、金が示す今の世界経済と市場の状況について、弊社金属・鉱業 コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードは9月9日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。金は不確実性の時代の投資先として常に選ばれてきました。ただ、2025年になって金の役割は進化しつつあります。投資家は金をインフレヘッジとしてだけでなく、中央銀行の金融政策から地政学リスクまで含めたあらゆる事柄を測るバロメーターとして捉えています。金相場の変動は、多くの場合、水面下で何か重要なことが起きているサインです。金は年初来で39%、銀は42%とどちらもすでに大幅に上昇しています。この上昇の背景には何があるのでしょうか。いくつかの要因が挙げられます。ひとつは、中央銀行が今年も大量購入を続けていることです。中銀の準備資産に占める金の比率は1996年以来初めて国債を上回りました。これは金の長期的価値に対する強い信認を示します。また、金に連動する上場投資信託(ETF)には8月だけでも50億ドルの資金が流入し、年初来の流入額は2020年を除いて過去最大に達しており、機関投資家の関心の高まりが改めて示されました。多くの主要国で目標値を上回るインフレが続く中、金は収益を生まない資産であるにも関わらず、驚くほど根強い魅力を保っています。そして投資家は中央銀行がまもなく利下げせざるを得ないだろう見ており、そうなれば金相場はさらに上昇する可能性があります。実際、弊社では年末までにさらにおよそ 約5%の上昇を予想し、史上最高値の1オンス3,800ドルに達すると見ています。ただし、考慮すべき重大な点がひとつあります。貴金属、とりわけ金は主にマクロ経済が不透明な時期のヘッジや安全資産とみなされますが、貴金属市場全体を見ると宝飾品がかなりの比率を占めています。金は需要の40%、銀は35%が宝飾品です。そして、宝飾品需要の見通しは現時点では不透明です。実のところ、宝飾品需要はすでに減速の兆しが見えています。第2四半期の金の宝飾品需要は2020年第3四半期以降で最低となりました。金価格が高騰し、消費者が購入を手控えたためです。ただ、それにもかかわらず金は1-4月に上昇した後の水準を保ち、銀は太陽光発電業界の旺盛な需要を受けて上昇し続けました。しかし、金と銀はどちらも最近までさらなる上昇の牽引役が不在でした。ただ、現在はこれが変わりつつあり、金と銀の両方がFRBの利下げから恩恵を受けると見られます。弊社エコノミストはFRBが9月の会合で利下げすると予想しており、利下げは2024年12月以来となります。1990年代を振り返ると、FRBが利下げサイクルを開始して最初の60日間に金は平均6%、銀は平均4%上昇しています。利下げによって収益を生まない資産の競争力が高まるためです。また、弊社の為替ストラテジストはドル安の進行を見込んでおり、したがってドル以外の通貨の保有者にとっては価格圧力が多少和らぐと思われます。インドの金・銀の輸入は7月にすでに改善の兆しが出ています。インドは物品・サービス税改革も予定しており、それによって祭礼・婚礼シーズン前に金銀を購買する余力が増す可能性があります。金はFRBの利下げ後にアウトパフォームする傾向があるため、弊社は引き続き銀よりも金を選好しますが、弊社の見通しは金銀ともに良好です。もちろん、貴金属は無リスクではありません。価格変動があり、もし中央銀行が予想外に利上げすれば、特に金は多少魅力を失う可能性があります。しかし、当面は金も銀も輝きを保つでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-10
06:55

新たな強気相場の始まりか?

9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、米国経済がローリング・リセッションからローリング・リカバリーに移行しているとの見方を裏付ける内容でした。では、米国株は今後どうなるのか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジスト、マイク・ウィルソンが見通しをお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、先日発表された雇用統計と、米国株にとってのその意味について、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。このエピソードは9月8日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。大いに注目されていた9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、労働市場は弱いという弊社の見立てを裏付ける内容でした。しかし、弊社は何ヵ月も前からこのことを論じており、株式市場にとっては言わば古いニュースです。第1に、ひょっとしたら雇用統計は最も後ろ向きな、つまり過去に目を向けている経済指標かもしれません。第2に、この統計は大幅に改定されることが特に多く、リアルタイムでは最新のデータが当てにならない傾向があります。全米経済研究所(NBER)が景気後退の始まりを宣言するころには、ほとんどの人が景気後退期にあることを意識しなくなっているのが普通であるのはそのためです。また過去の実績からは、非農業部門雇用者数の改定がプロシクリカルであることがうかがえます。景気後退に向かっている局面では下方修正の幅が大きくなりがちで、景気回復が始まれば上方修正の幅が大きくなりがちだという意味です。今回もこのパターンに沿っているように見えます。実際、金曜日の改定は前月のそれより大幅に良い内容であり、労働市場が第2四半期に「底を打った」ことを示唆しています。このことは、私が何年も前からお話ししている、景気と市場に対する弊社の基本的な説を裏書きしてくれます。 具体的に言えば、米国では2022年に「ローリング・リセッション」が始まり、今年4月の「解放の日」に相互関税が発表されたことをもってようやく底を打ったと私は考えています。このローリング・リセッションの初期段階は、新型コロナによるハイテク製品や消費財の需要前倒しの反動が主導する形で進みましたが、やがて他のセクターもそれぞれ異なるタイミングで不況に突入していきました。従来型のリセッションの判定に用いられる指標で典型的な変化が観察されなかったのに、今になってそれらの改定値で変化がより明確になっているのは、それが主な理由です。新型コロナ後に移民の流入が歴史的な大幅増になったことと、今年になってその取り締まりが行われていることも、労働市場の多くの指標をさらにゆがめることになりました。弊社はここ数年、こうした話題を広く取り上げてきましたが、金曜日に発表された弱い雇用統計は、米国経済がローリング・リセッションから「ローリング・リカバリー」に移行しつつあるという弊社の説を裏付ける証拠だと言えます。つまり、景気は新たな循環に入りつつあり、4月に始まった新しい強気相場が今後どこまで続くかについてはFRBの利下げがカギを握ることになるでしょう。弊社の見解で何よりも重要なのは、過去3年間の景気は多くの企業や消費者にとって、GDPや雇用のような総合的な経済統計が示唆するものよりはるかに弱かったということです。景気の強さを測る際には、消費者や企業の景況感調査に加え、企業の利益成長とその広がり方に着目する方がよいと弊社ではみています。ひょっとしたら、景気の良し悪しを判断する最もシンプルな方法は、今の景気は幅広い層に繁栄をもたらしているのかと問うことかもしれません。この物差しに照らして言うなら、答えは「ノー」だと弊社では考えます。ここ3年間はほとんどの企業で利益がマイナス成長になっているからです。ただ、良い知らせがあります。過去2四半期では、この利益成長がようやくプラスに転じているのです。そして同時に、ここ数ヵ月間弊社が強調してきたように、企業の業績見通しのV字回復も広がりを見せています。このことも、ローリング・リセッションが最悪期を脱したこと、おそらく「谷」は4月だったことを裏付けていると思われます。株式市場はいつものようにこれを正確に把握し、底を打ったのです。さて、これから本物の利下げサイクルが始まる公算が大きく、この新たな強気相場が続くためにはそのような利下げが必要だと弊社ではみています。ただ、FRBは遅行指標である労働市場のデータの弱さよりもインフレの方をまだ重視している可能性があり、利下げは株式投資家の願望よりも緩やかなペースで進むことになるかもしれません。また、企業と財務省の両方が資金調達を増やすために流動性資金が少し干上がるかもしれない兆しもあることから、株価が軟調になりやすい季節に相場が一服したり、さらに進んで調整したりしても、私は驚かないでしょう。もしそうなったら、弊社なら押し目買いに入るでしょうし、FRBがさらにハト派的になることや財務省と連携することも見込んで、クオリティで劣る銘柄にも物色の幅を広げることすら検討するかもしれません。結論を申し上げれば、2022年に始まったローリング・リセッションの底打ちをもって、株式市場では新しい強気相場が始まりました。この相場はまだ初期段階にあり、株価の下落には押し目買いで臨むべきです。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

09-08
07:29

FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?

コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが金融緩和を開始した場合にクレジット市場への懸念が生じかねない理由についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBの利下げを受けて、企業が積極的な姿勢を強める可能性について解説します。このエピソードは8月27日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、FRBのジェローム・パウエル議長は、次の会合で利下げを行う見通しであることを強く示唆しました。利下げ判断は市場が予想していたものですが、決して既定路線ではありませんでした。FRBは失業率とインフレ率を低く抑えるという責務を負っています。米国の失業率は低いですが、インフレ率はFRBの目標水準を上回っているだけでなく、最近の傾向では目標とは逆の方向に向かっています。インフレ率を引き下げるには、FRBは利下げではなく利上げを行うのが一般的と言えます。しかし、今回予想されるFRBの政策措置は利上げではありません。雇用市場が近く悪化する可能性がある一方で、こうしたインフレ圧力は一時的なものにすぎない、という重要な確信を抱いているとみられるからです。FRBは通常とは異なる難しい状況に置かれており、現在FRBの周りで起きていることが状況をさらに異例なものにしています。 ご承知の通り、FRBは経済が過熱せず、冷めすぎてもいない、均衡状態を維持しようとしています。そしてこの点に関しては、金利が蛇口の栓のような役割を果たします。しかし、金利の他にも、経済の水の温度に影響を与える要因は複数あります。資金の借り入れがどの程度、容易か? 通貨の価値は上昇しているか、下落しているか? エネルギー価格は高いか、低いか? 株式市場は上昇しているか、下落しているか? しばしば、これらの尺度はまとめて金融情勢と称されます。従って、インフレ率が目標を上回り、しかも上昇している一方で、FRBが金利を引き下げるのは珍しいことですが、経済活動を左右するこれらの金利以外の要因、つまり金融情勢がこれほど緩和的なものである中で、FRBが利下げするのは、恐らく、さらに異例なことと言えるでしょう。株価のバリュエーションは高く、クレジットスプレッドはタイトで、エネルギー価格は低く、為替はドル安の状況にあります。債券利回りは低下しており、米国政府は多額の財政赤字を抱えています。これらは全て、経済を加熱させがちな要因です。流し台にお湯を継ぎ足しているようなものです。金利を引き下げれば、経済の温度はさらに上昇する可能性があります。クレジット市場にとって、これは少々厄介なことです。クレジット市場特有の、2つの理由が挙げられます。クレジット市場は現在、素晴らしい1年のさなかにあります。そして、企業は総じて、かなり保守的な姿勢を維持し、合併案件は少なく、企業の借り入れ額は通常比較対象とされる政府ほど多くない、といったことが好調の一因です。こうした節度は全て、クレジット市場にとって大きなプラス材料となります。しかし、先ほどお話した状況は、企業が節度を緩める原因となりそうです。すでに緩和的な金融情勢を、FRBがさらに緩和することになれば、企業は実際、繁栄を謳歌したいという気持ちを、いつまで抑えることができるでしょうか? 最近、合併が再び増え始めています。また、従来、このように企業の積極姿勢が強まると、株主にとってプラスとなる可能性があります。一方、貸し手にとっては、往々にして厳しさが増します。とは言え、他の追い風要因がこれだけあるにもかかわらず、米国の雇用市場は実際のところ、さらに悪化する見通しであるというFRBの警告が正しい可能性もあります。この見立てが正しければ、これも企業が節度を緩める端緒となりそうです。雇用市場が悪化する中で、FRBが金利を引き下げた際、これまで大半の場合、経済全般へのリスクゆえに、クレジット市場はとりわけ厳しい時期に直面することとなりました。現在は、ほぼデータ次第という状況にあります。FRBの政策判断に加え、来年の新たなFRB人事も、情勢を変化させる可能性があります。しかし、大幅なアウトパフォーマンスの後、クレジット市場は、企業がこの先節度を緩める可能性を示唆する兆候がある中で、他の債券市場に後れを取ることになるかもしれません。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

08-27
06:42

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