朗読のアナ 寺島尚正

ラジオアナウンサーは言葉を読み語る表現者。 文化放送から、四十年にわたってリスナーに語りかけている寺島尚正アナウンサーがさまざまな作品を朗読します。 その声が紡ぎ出す物語に耳をすませ、語りから無限に広がる想像力、日本語の奥深さをご堪能ください。

正岡子規 「飯待つ間」

 歌人の正岡子規は、生来食いしん坊の大食漢で、病の床にありながらも食事を待ちかねています。膳が運ばれて来るまでの間、どこかから聞こえてくる声や、身のまわりの様子に注意を払い、心に置き留めていきます。過ぎていくちょっとした時間をスケッチした掌編です。

10-22
08:26

江見水蔭 「壁の目の怪」

 江戸は寛政の頃、上杉鷹山の命を受けた一行が、薬草を探すために山の奥深くの閉ざされた村を訪ねた。藩と繋がりのある村ではあるが、里人にとっては滅多になる余所者の来訪。一行は村一番の長者の家に迎え入れられるが、自分たちを見張るような姿なき視線を感じる。この村には独特の掟があるようだ。

10-16
29:36

水野葉舟 「テレパシー」

 歌人で小説家の水野葉舟は、大正期に心霊や怪談の収集研究に没頭します。柳田国男と深い親交を持ち、代表作の「遠野物語」を怪異譚として高く評価しました。近代化に向かう当時の日本各地で伝承されていた怪談にも詳しく、それらの逸話の一つを取り上げた掌編です。

10-10
08:37

小川未明 「月夜とめがね」

 お婆さんは一人暮らしの長い夜を、繕いものをしながら過ごします。目が弱ってきて針仕事もつらくなってきたようです。月の出た或る夜、そんなお婆さんに変わった客が訪れます。そしてお婆さんは、いつもと違う不思議な夜を過ごすことになります。

10-05
14:59

川田 功 「乗合自動車」

 手練れの掏摸が刑事につけられています。気づいているのかいないのか、混雑した乗り合い自動車(バス)に乗ると、女性客の態度が癪に障り、その立ち居振る舞いに立腹します。そんなさなか目の前に、まさに掏ってくれと言わんばかりのカモが現れました。掏摸は一計を案じ、ひと騒ぎを仕掛けます。

09-29
17:22

津村信夫 「月夜のあとさき」

「戸隠では、蕈と岩魚に手打蕎麦」、これまで何度も戸隠を訪れている津村信夫は、そこで出会った夏の終わりの出来事、秋の宿での食膳、そして山の月と蕎麦打ちの様子を思い出します。山里の森閑とした月夜の晩の風情を感じる短編です。

09-24
08:12

芥川龍之介 「羅生門」

 芥川の代表的作品です。時代は平安時代末期、災いが続いて荒廃した都の朽ち果てた大きな門で、秋の夕刻に、追い詰められた人間の我欲と無情さがあらわになっていきます。今昔物語集の「羅城門登上層見死人盗人語」と「太刀帯陣売魚姫語」をもとに、芥川がひとつの作品にしました。

09-18
23:22

岩本素白 「雨の宿」

 いつの時代も、日本人にとって京都への旅は特別な感傷を抱かせるものではないでしょうか。時代とともに京都の風情も変わりましたが、多くの人々にとっての京都は、この随筆で岩本素白が体験したような詫び寂びの沁みいるような時を過ごす場所のように思えます。随筆の達人が京都に向かい、予定にない初めての宿を訪ねます。

09-10
09:11

山川方夫 「邂逅」

 引っ越しをきっかけに、忘れかけていた幼き日の記憶が蘇ります。その記憶はところどころ曖昧で、なにか大切なことが抜け落ちてしまっている気がします。抜け落ちているなにかが明らかになったときに、より大きな謎のなかに迷い込むことになります。

09-02
13:30

小山清 「老人と鳩」

 老いて資産もなく、健康にも難がありながら一人で暮らす。そんな身につまされる境遇で生きる老人が、暮しまわりで見かけるものい興味を示し、なにかを生み出すことを考え、人とのわずかなふれあいに心を動かします。さしたることも起こらずに続いていく人生を、それでも生き続ける様子が心に沁みる短編です。

08-30
23:56

壺井栄 「港の少女」

 小豆島の港町を舞台にした短編です。戦争は人の命を奪い、ささやかに暮らす庶民の日常にも影を落とします。戦後の日本の姿は復興とともに語られがちですが、都市部を離れた地方では変わりなく繰り返される日常の中に、戦争に奪われたものの影響がゆっくりと切なくあわわれます。庶民の戦後の姿を映し出した作品です。

08-23
35:55

国木田独歩 「画の悲しみ」

 子どものころ、画が好きで周囲からも画力を認められていたことを思い出す。しかし同じ学校には、自分より優れた画を描く少年がいて、いつの間にか対抗心を持つようになる。二人の交流を回想しながら、その後の人生と運命について思いをはせ、せつない感情が沸き上がる様子が心を打つ。

08-15
20:48

小山清 「老人と鳩」

 老人は失語症を患い独り暮らしをしています。暮らしはつつましく、身の回りの小さな出来事が日々の彩りとなります。ふとしたきっかけではじめたモノづくりと、喫茶店で知り合った少女とのささいな交流が、また新たな変化をもたらします。日常の細部を丁寧に描いた、晩年の小山清の短編です。

08-09
23:56

壺井 栄 「裁縫箱」

 母一人子一人で貧しく暮らしている12歳のヨシノは、母親に誘われ街に出かけ、思いもかけない経験をします。それは母親が近い未来に起こることを知っていたかのような出来事でした。弱き人々の暮らしに根ざした壺井栄らしい作品です。

08-04
28:44

島田清次郎 「若芽」

 若くして亡くなった文士の死を扱った作品ですが、作者の島田清次郎自身が若くしてデビューして脚光を浴びながら、その後の放縦な行動で破滅的な人生を歩むことになり、早逝したことと重ねると作品の意味合いを考えさせられます。

07-28
25:19

奥野他見男 「支那街の一夜 ”馬賊に捕らわれた人の話”」

 日清日露戦争後の中国は、世界が虎視眈々と狙っており、日本にとっても重要な意味をもっていました。そのため現在と同様に企業進出から観光まで多くの日本人が渡って活気をていし、中国の街の様子や文化について、日本国内でも多いに注目されていました。その国を当時の大流行作家が旅して書き残した紀行随筆の一話です。

07-22
15:44

加納作次郎 「少年と海」

 「赤い鳥」に発表された児童文学です。能登の漁村を舞台に、海が荒れる予兆を感じた幼い少年が、これから起きる変化を想像するうちに、目の前で起きていることを見失ってしまいます。再評価されつつある加納作次郎の作品です。

07-16
20:10

蘭郁二郎 「足の裏」

 特殊な性向を持った青年の奇妙な活動を描いた戦前の掌編です。作者は10代で江戸川乱歩に認められ、昭和モダンの時代らしい怪奇幻想の味わいがある探偵小説を発表していた蘭郁二郎です。谷崎とはひと味違うフェティシズムが、若々しい筆致で展開します。

07-11
21:20

伊藤佐千夫 「告げ人」

 楽しい村祭りの前夜に、いわくつきの近親者の訃報がもたらされるところから話は始まります。家族が家父長制で結びついていた時代に、土地の慣習にしたがって暮す旧家が舞台となっています。現代とは違った家族のカタチが浮き彫りになる作品です。

07-06
31:09

正岡子規 「熊手と提灯」

 凛と冷え込んだ初冬の夜道で、賑やかに往来する人々の群れとあでやかな灯りが現れます。寂寞の夜に祭りがもたらした対照的な景色を正岡子規ならではの筆致で描写しています。すでに病に侵されていた子規にとって、この体験は強く印象に残ったようです。

07-02
14:30

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