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オーディオブック/ボイスドラマ「さくら~桜色の物語/Cherry blossom Story」

オーディオブック/ボイスドラマ「さくら~桜色の物語/Cherry blossom Story」
Author: Ks
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© Ks
Description
かつて”ラジオドラマ”と呼ばれたコンテンツを何十年も作り続けてきましたが、いま、それがボイスドラマやオーディオブックという形で脚光を浴びています。
その第一弾として「さくら~Sakura」をリリースしたのが、2013年4月。
グラフィックからフィルムの世界まで幅広く活躍する、”世界の”カメラマン、長尾里絵さんによる素敵なphotoとショートストーリーとのコラボレーションでした。桜をモチーフにした20編のショートラブストーリーは、小さな物語の1シーンをさらに切り取ったもの。
今回新たにリリースする「さくら~桜色の物語」には、さらに新進気鋭の声優、桑木栄美里さんに参加していただき、情緒たっぷりに”声”で表現していただきました。
音声はブックの中でも、あるいはハイパーリンクした桑木栄美里さんのサイトでもお楽しみいただけます。
桜の花びらのさざめきとともに、パステルカラーの情景が広がっていきますように。
その第一弾として「さくら~Sakura」をリリースしたのが、2013年4月。
グラフィックからフィルムの世界まで幅広く活躍する、”世界の”カメラマン、長尾里絵さんによる素敵なphotoとショートストーリーとのコラボレーションでした。桜をモチーフにした20編のショートラブストーリーは、小さな物語の1シーンをさらに切り取ったもの。
今回新たにリリースする「さくら~桜色の物語」には、さらに新進気鋭の声優、桑木栄美里さんに参加していただき、情緒たっぷりに”声”で表現していただきました。
音声はブックの中でも、あるいはハイパーリンクした桑木栄美里さんのサイトでもお楽しみいただけます。
桜の花びらのさざめきとともに、パステルカラーの情景が広がっていきますように。
21 Episodes
Reverse
いかがでしたでしょうか?
写真とコラボした20篇のショートストーリー。
わからない言葉は、このあとの巻末の解説をご覧ください。
本を読んでくださった皆さんにも、素敵な出会いが訪れますように。
朗読は、桑木栄美里でした。
(CV:桑木栄美里)
遅咲きって、いい意味かしら。
境内の桜の木に手をあてながら 彼女がつぶやいた。
花雪洞、花疲れ。
喧噪の後に開花する遅咲き桜。
実は、一番好きな花である。
たおやめ。 なんて、儚い桜の中でも 特に儚く感じちゃう。
その名前とは裏腹に、 淡い紅色の八重咲きは、 クライマックスを飾るのに ふさわしい華やかさだ。
だからこそ、手弱女は、 彼女こそが愛でるにふさわしい。
伝えるべきか、迷うところだが。
(CV:桑木栄美里)
一日中葉桜を見ていた。
正確に言うと、
わずかに残った花びらと 緑が織りなす陰影を、 愛でるでもなく眺めていた。
飽きないのは、グラデーションのせいね。
緑とピンクは、それぞれ反対色。
葉桜が美しいのはそのせいだと言う。
デザインでもよく使うわ、この配色。
自然が描く色彩の妙。
過去と未来。
男と女。
すべては色彩の表現に似ている。
反対色ほど、相性が良い。
二人の色彩も、これから ほどよく混じり合っていけばいい。
(CV:桑木栄美里)
名残惜しそうに、残っている桜花。
それを残花というらしい。
いじらしく、 それでいて芯の強さを感じるのは 自分だけではないだろう。
きっとみんな、最後のひとひらには なりたくないんだわ。
哲学的な話になりそうだ。
そういえば、有名な哲学者が 花吹雪、という言葉を 世界一美しい言葉だと言っていた。
うすむらさき 山の端染めた さくら花 緑の芽吹きに せかされて いく
ほんの一瞬、彼女の陰までが 消え入りそうに、薄くなった気がした。
(CV:桑木栄美里)
天気予報は正確だ。
午前中の雨はすっかり上がり、 桜の枝葉の間から、陽光が差し始めた。
虹が出たりして。
自然は二人のために、 そこまでサービス旺盛ではないが、 雲間から差し込む光、 いわゆる”天使のはしご”が 空のカーテンを開いていく。
神々しいわ。大袈裟じゃなく。
雲の幕が開くと、 舞台の主役は、やはり、桜の木だった。
(CV:桑木栄美里)
ピアノジャズと春雷のコラボレーション。
遅めの朝食は、いきつけのカフェ。
静かなBGMを、ときおり春雷がかき消す。
すごいタイミング。
BGMと雷鳴の、絶妙なタイミング。
それとも、入店と天候の急変のこと。
秋なら、稲妻は収穫を告げる 実りの光だったのに。
春のいかづちは、桜に引導を渡す 審判の響きになる。
川面に崩れる花筏が 脳裏に浮かんで、消えた。
(CV:桑木栄美里)
傘をささずに、 昨日まで満開の桜並木を歩く。
傘をさしたら、せっかくの 風流が台無しじゃない。
視界が狭くなる。 自然の情景に合わない。
雨の雫が伝わらない。
傘をささない彼女の理由。
今日からは僕の理由。
小糠雨は、いつしか霧雨となり、 二人の行く手を遮っても、 少しだけ早足で歩けばいい。
二の腕に彼女を感じながら。
(CV:桑木栄美里)
まるで、桜色の絨毯ね。
散り落ちた花びらが まるで絨毯のように 地面一面に広がっている。
昨夜までのにぎわいが嘘のように、 静かな公園の朝。
桜の香り、雨の匂い、ってわけ。
彼女の好きなもの。 僕の心にも増えていく。
桜の香りはとても弱く、 それでいて、とても印象的だ。
上気してほんのり桜色になった 彼女の頬のように。
(CV:桑木栄美里)
雨がカーテン越しにリズムを刻む。 桜の季節に終止符を打つのは、 決まって雨の音。 雨には百の表現があるが、 さしずめ、窓の外は、小糠雨(こぬかあめ)。
しとしとと、でも、確実に 花びらを流していく。
春雨ね。
嫌いじゃない。
少しだけ湿度が上がった窓ガラスに 花びらをはりつける。 それは、まるで桜の涙雨。 静かに別れを告げながら、 大地を濡らしていく。
(CV:桑木栄美里)
カウンターに並んだ盃が2つ。 小さなグラスに注がれたのは、 花の名前の吟醸酒。 窓の外には、桜の古木。 零れ桜を瞳に映しながら、 乾杯を・・・
あ、待って。
忘れもの。
ポケットから取り出した花びらを グラスに浮かべる。
フルーティな大吟醸の香りと、 薄紫の花の露が、
彼女の頬を ほんのり桜色に染めていった。
(CV:桑木栄美里)
三百六十五分の七。
桜の花を愛でられるのは、七日間。 六歌仙の一人、平安美女が詠んだように、花の盛りはいたずらに儚い。
花一時人一盛り、なんて言うのよね。
なんて、惨い言葉なのかしら。
女性にとって。
盛りだけが美しいわけじゃない。
秋は夕暮れて
冬はつとめて
どの季節にも、
最も美しいときは存在する。
それを言葉に出して、
伝えられないもどかしさ。
(CV:桑木栄美里)
“陽が暮れて、夜の帳が降りるまで。
写真家にとっては、
これが一番難しい時間だという。
空のブルーと、夕陽のオレンジ。
そして境界線のグラデーション。
花篝が灯る直前の桜がいちばん好き。
春宵一刻値千金
花有清香月有陰
少し歩けば
遅めの桜でにぎわう公園がある。
ぼんやりと明るいのは
灯火だけではなく、
淡い薄紅色の花びらのせい。
花あかりに誘われて
出かけてみるのも一興だろう。”
(CV:桑木栄美里)
東風吹かば、ってたしか、梅よね。
匂ひおこせよ、梅の花。
東風は、梅にも、桜にも、
雲雀にも吹くという。
意外と荒ぶるのが春風だ。
油断して、薄着で歩いたりすると、
とたんに花冷えに包まれる。
花冷えも、春風の悪戯かしら。
確かにそんな予感がする。
東風を避けて、身を寄せ合いながら、
少しずつ二人の距離が近くなっていく。
(CV:桑木栄美里)
お花見って好きじゃないの、本当は。
春はあけぼの
桜は散りぎわ
宴会ではなく、桜の下を散策する。
気のおけない誰かと。
桜色のスプリングコートで歩けば、
花びらが彼女にまとわりついて、
ピンクの霞をまとっているようだ。
でも、桜には好かれているみたい。
それは彼女の花衣。
風景を桜色に染めていく、
淡い、淡い、ときめきの色。
(CV:桑木栄美里)
桜を詠んだ和歌って、
なんだかせつない恋歌が多いわね。
確かに。
春霞、山桜、もろともに、去年の春、
そして、花の色は。
恋に身を焦がれる平安美人たちの情念が、桜に宿っているようだ。
桜狩って、
和歌を詠まなきゃいけないのよ。
花時になると、桜の下に毛氈を敷き、
風流に和歌の詠み比べをする。
あの時代に生まれても
きっと優雅に世の中を
泳いでいける人なんだろう。
そんな想像がよぎるほど、
彼女との距離を
近く感じはじめていた。
(CV:桑木栄美里)
その川は、大河のようにゆっくり進む。
水面に散った花びらが
吹き寄せられて大きな塊となる、花筏。
ゆったりして見えるのは、
いくつもの筏だけで、
水の中は流れているのかも知れない。
桜は散っても、春は終わらないんだ。
独り言のようにつぶやく。
肩を並べて歩く桜並木は、落花盛ん。
下流に向って歩けば、花筏をいくつも追い越していく。
人のざわめきやせせらぎの音が一瞬ミュートされ、春の女神のささやきが聞こえてくる。
まるで、時の流れみたい。
いつの間にか、時の流れまで
追い越してしまったようだ。
(CV:桑木栄美里)
花の風が浮き橋を渡ってきた。
川面に散った花びらが
橋のように敷きつめられている。
ざわざわと、春の終りを告げるように、
花の風は水面を波立てる。
堤防から川面近くまで降りてみた。
ゆるやかな流れに、
水のぬくもりを感じると
花びらの下を魚影がゆらぐ。
また、お会いしましたね。
背後から不意に声をかけられ、
思わず言葉を失った。
陽光を背負ったその姿は、
春の女神と言っても不思議ではない。
佐保姫降臨。
時間はストップモーションのように
いつまでもゆっくり流れていた。
(CV:桑木栄美里)
風に舞う、花の雪。
雪のように散る花をこう呼ぶ。
満開になって散る桜ではなく。
儚げで、雪の結晶のように質量を感じない。
いきつけのカフェからほど近い桜並木。
桜通り、とはよく名付けたものだ。
(CV:桑木栄美里)
ええそう、桜通りからまっすぐに・・
花人でにぎわうこの季節。
雑踏の中を、聞き覚えのある声が、
風に運ばれてきたような気がした。
うつむき加減に歩いていた背筋をぴんと伸ばし、声のあたりに顔を向ける。
ざわめきをかき消すように、しんしんと、花の雪が降りしきる。
櫻はもともと白い花だったのだろうか。
透明な水面に一滴の紅を垂らし、ゆっくりとまじわっていく。
その一瞬を表現したような、純粋で、妖艶で、微妙な色合い。
神秘的とさえ言えるその美しさの中に人々は、不安を抱くのかも知れない。
草木染めで櫻を使うとき、花が咲いたあとの枝を使うと布は茶色に染まる。
花が散ったあとでは、ますます茶が濃くなっていく。
デカダンスの美意識を思いながら
散文詩を読み終え、
櫻の栞を新しい頁の中に戻した。
花びらの紅が、白い頁に移るかも知れない。
(CV:桑木栄美里)
本を開くたび、彼女を思い出す。
彼女が落とした小さな花びら。
どうしても捨てられずに、栞にした。
手荒に頁を繰ると簡単に破れてしまいそうな、淡い桜色。
また、いつか。
花の風が吹く頃までには。
・・きっと逢える。
別れ際、言葉の続きを、良いディテールに変えてしまったのは、
春光のせいだったろうか。
本の物語は、プロローグから本編へと移りゆく。
はじまりは一枚の花びら。
そんな気取ったLove Storyがあってもいい。
(CV:桑木栄美里)