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朗読少年

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朗読少年 ミサイル 僕はミサイルです。細くて硬くて冷たいミサイルです。頭にたくさん爆弾を詰めて、お尻に火をつけると雲より高く飛んで目的の場所や建物を破壊します。そこは火の海になりあっという間に生き物のいない暗くて音のない世界になります。僕はとうとうあと1時間で出発するのですが、本当は行きたくありません。できることなら雲を超えてもまだまだ高く飛んで、星に近づいていき消えてなくなりたいなと思います。そして生まれ変わったら今度は風船になりたいです。風に任せてゆらゆら飛んで、子供がたくさん遊んでいる公園なんかにゆっくり降りて行き、そこでずっとゆらゆらしていたいです。
金のなる木
昔々ある山あいの小さな村に、太郎という若い男と次郎と言う男がそれぞれとなりどうしで一人暮らしをしておりました
太郎はすっかり働き者で朝から働き者で朝から晩までせっせと山へ行って芝を刈ったり畑を耕したり
海へ行って魚を釣ったりしておりました
次郎に関してはあまり動き回るのが好きではないらしく朝から晩まで家の中でボーッとしたり、たまに山へ行って虫や小鳥たちをとってきてはぶらっと遊んだりしておりました
そんな太郎と次郎の村に一週間ほどしばらく長い雨が続いて、真っ黒な雲が空を覆っておりましたところ
その黒い黒い雲の上に雷様がドンドコドンドコ太鼓を叩いておりました
雷様がドドーンと太鼓を叩くとピカピカドーン
雷が一つすごく光っているのでした
この雷様は力強くて恐い神さまでしたけども、心は大変優しい人でした
ただちょっと、うっかりもので雷様がなんとかこの雷は人が住んでる家や畑や動物が寝ている木の上に落とさないように
できるだけ海の上や村から遠く離れた山まんかにピカピカドーンピカピカドーンと太鼓を鳴らしながら落としているのでした
ただこのウッカリ者の雷様はある時、ドコドコドーンドンドンドーン
その日の1番大きな音で太鼓を叩いて大きな大きな雷を落としたところ、なんとうっかりして太郎と次郎の屋根の上に落としてしまいました
あれ〜
瞬く間に太郎と次郎隣り合わせの村家二軒があっという間に燃え上がって、家も囲炉裏も何もかも全てが灰になってしまいました
太郎の家も次郎の家も柱と布切一枚残っているだけで何とかその晩の雨をしのいでなんとか寝ることができました
さすがの雷様もありゃー、悪いことをしてしまったもんじゃ
よし、太郎よ次郎よちょっと待っといてくれ
太郎と次郎は家も何もかも持つものがなくなったけどもまぁそのうち何とかなるだろうとその晩はゆっくりいびきをかいて寝ておりました
するとフクロウもこっくりこっくりする夜中の真ん中のそんな時間にまず太郎の枕元に雷様が立って1つ種を寝ている太郎の枕元に置いておきました
そして太郎の一言話ました
太郎やこれは金のなる木の種じゃ、朝起きるとな家の前の畑にこの種を一粒うえてそしてその日から朝昼晩と毎日毎日水をやるのじゃ365日毎日水をやるとな、この種は大きな金のなる木となってお前さんのおうちもくわも籠も畑も
全部この金ですぐ買えるもんだから、必ず忘れずに朝昼晩と水をやるんじゃぞ
そういうと雷様は今度は次郎の枕元に立って同じことを言いました
太郎も次郎も朝起きると枕元に1粒の種があるので
なんじゃろの?あれはほんとのことかいの?
半信半疑で太郎も次郎も自分の家の前の畑に種を植えることにしました
働き者の太郎はその日から朝昼晩と水をやっていたけども次郎のほうはなかなかそうはいかずに1週間ほど雷様の言う通りに水をやっていたけどもな
とうとうそれもめんどくさくなって、水をやるのもやめてしもうたんじゃ
しばらくするとな
太郎も次郎の畑にも次郎ちっちゃなちっちゃなひとつの芽が生えてきて半年もすると太郎と次郎の背丈ぐらいある木になったんじゃ
毎日 朝昼晩とな水をやっている太郎に村の子供たちや裏山のちっちゃな動物、たぬきや猪そして熊なんかもやってきて
太郎どん、何やってるんじゃ
太郎さん太郎さんまいみ水をやってるそうじゃなぁ
面白そうなんでワシも手伝わせてくれや
子供達も動物達も手伝ったりする様になったんじゃな
一方次郎は何にもしなかったから木は元気になっていたけども
子供達も山の動物達もなかなか声をかけずにいたもんじゃ
そしてとうとう365日経った日の朝、次郎の家の前には立派な金のなる木が1本
その木にはには大判小判がびっくりするほどなっていたもんでな
それを見て次郎はありゃー、ワシは途中から水をあげてなかったけども雷様はワシにこんけのお金をさずけてくれたんじゃの、そして毎年この日が来ると金がなるんじゃのう
そういってせっせとその木の大判小判を摘んで街へ買い物に出かけました
一方働き者の太郎の家の前の木は、大判小判ではなくてイガイガの栗の実がたくさんなっていたんじゃ
それを見た太郎は
ありゃ?金のなる木と雷様が言っていたが栗がなったんじゃのう
いやま、栗でも十分ありがたい
早速とって手伝ってくれた子供たちと、裏山の動物たちに栗でも焼いて食べてもらおう
そう言って大きな籠で栗を摘み始めました
それを見ていて、おかしいなぁ…とつぶやいたのは雲の上の雷様です
太郎の家にはなんで栗しかならんのじゃ
そうつぶやきながら左手の指と指の間を見てみると、なんとまぁ金のなる木がひと粒手にくっついてるじゃないか
びっくりした雷様は、ありゃこれは1年前に太郎にあげるはずの金のなる木の種じゃ
と言う事はワシは、金のなる木の種と栗の木の種を間違えて太郎に渡したもんじゃな
そうです。あの時雷様は太郎に間違えて金のなる木の種の代わりに栗の木の種を渡してしまいました
しかしまぁ1年も経ってしまったので今更太郎に金のなる木の種を渡すこともできず雷様はそそくさと遠くの山の雲の上行ってしまいました
栗をたくさんとった太郎は子供たちや裏山の動物たちとたくさん栗を食べて楽しんでおりましたが
村の爺様や婆様、そしてお父さんお母さんも「いい栗じゃのう、ワシにもひとつおくれ」と言いながら
毎日毎日太郎の家にやってくるもんですから太郎も大変人気が出てきました
そして爺様や婆様ははあまりにおいしい栗だったのでもらいに来るたんびに畑でとれたイモや米、港でとれた魚など持ってきては太郎にあげて
裏山の動物たちも力仕事なんかがいる時は太郎の手伝いをするもんでした
そうやって人の流れがたくさんあり、毎日毎日作物いっぱいもらうもんだから
太郎の家はゆっくりゆっくり栄えていきました
一方で金のたくさんたくさんなった次郎の家は最初のほうは街の庄屋や若旦那
そしていろんな国から商売人が来て豪華な反物やきらきら光る器なんかを持ってきては次郎に売り付けて
人も賑わっておりましたが、なんとその次の年次郎の金のなる木は真っ黒に枯れてしまいました
ずーっと水もやらなかった次郎の金のなる木は
一度だけ頑張ってお金を実らせたけども
次の年にはとうとう死んでしまったのです
そうすると街の若旦那やいろんな国からの商売人はピターっと来なくなって
次郎は毎日朝から晩までひとりでぼーっとするようになりました
それから毎日次郎は枯れた金のなる木に向かって
来年こそは実ってくれやの
そう言って何年も何年もつぶやいているのでした
となりの太郎の栗の木はと言うと、大きく大きく毎年実はたくさんならせてひっきりなしにやってくる村の人たちが持ってきたいろんなものも家に積み上がってそして山から手伝いに来る動物達のおかげで
畑の作物もいっぱい実って、金は無かったけども仲間もたくさん出来て
ずっと豊かに暮らしました
この話はこれでおしまい
朗読少年 ウミガメの恩返し
昔々あるところに清六という若い男が住んでおりました。
海沿いの小さな村に一人で住んでいた清六は 村人達に知らない者はいないというほど 魚釣りが上手くて 、清六がすーっと海に竿を垂らすと すぐにアジやメバル、 タイやヒラメそしてタコやイカなんかどんな魚でもすぐにパクっと食いつくのでした 。
清六は毎朝早くから片手に釣竿 そして背中には大きな籠を背負って 海に出かけます。
そして夕方になると背中のかごがいつも魚でいっぱいになるのです。
「清六どーん 今日もたくさん釣れたようじゃの」村人は清六に声をかけると
「今日はの太いアジが釣れたんでな」と清六は大きく太ったアジをポイッと渡して
「清六さんご苦労さんじゃったのう」村のばあ様が声をかけると
「ばぁ様これこれ」と清六はばあさまに小さなカレィを両手に余るほど渡しました 。
海からの帰り道で清六は 村人たちに声をかけられるごとに
ほれ、ほれ、ほれ~と釣れた魚を 渡していくもんですから、家に着く頃には小さな魚が2、3匹しか残っていません。
それでも清六は残った魚を小さな鍋に入れて くつくつと煮立たせてからなんとも嬉しそうに 食べるのでした。
そして その日も朝から清六は海に出かけて行って たくさん魚を釣っていたら
なんといきなり 釣竿がピーンと張ってものすごい力でひきがありました。
あまりにも力強い引きなので清六は海に落っこちそうになったんですが、何とか踏ん張って 強く引っ張ったりたまに力を抜いてみたりしていました。
しかしなかなか魚は顔を出してくれません。
「 こいつは困った、よほどのでっかい魚なんだな。ゆっくり焦らず竿を引いていくとするか」
そう呟いた清六は焦らずゆっくり 少しずつ竿を引いて、そしてやっとこさ釣り上げて陸にあげてみると なんと大人の背丈ほどもあろうかというでっかいでっかいウミガメが釣れたのです。
びっくりして尻もちをついてしまった清六は
「ウミガメの あんたを持って帰ってもわし一人で到底食べきれんから、海へ帰ってくれや 」と優しくつぶやいて 大きな大きなウミガメを海へ帰してやりました。
何とも大きなウミガメのいるもんじゃのぉと独り言を言いながら、その日もいつもと変わらず釣れた魚を村人たちに配って帰りました。
清六は半日大きなウミガメと戯れて 疲れてしまったので、その夜はいつもより早めに 眠ってしまいました。
大きないびきをかきながら眠っていると コンコンコンと誰かが玄関の戸を叩く音で清六は目が覚めてしまいました 。
もう 夜中で真っ暗で 、フクロウもうとうと寝てしまおうかと言うほど、そんな夜更けに
「あれ誰だろうかこんな夜更けに」清六は不思議に思いながら 玄関の戸を開けてみると そこには 黒い服を着た 大きく真っ白の髭を蓄えた おじいさんが立っていたのです。
「 清六さん、今日はウミガメを逃してくれてありがとうございました。ワシはそのウミガメの父親で 海の長老です 」
清六は眠たい眠たい目をこすりながら 半分寝ぼけた頭で 何とも信じられないというふうな顔をしていますと
「逃がしてくれたお礼にこれを差し上げます。 困った時は こいつを思いっきり吹いてください きっと清六さんの役に立つはずです」
海の長老の差し出した手を見ると 手のひらくらいの小さなホラ貝の貝殻でした。
その貝殻をそぉっと清六の手に渡すと 軽く頭をぺこりと下げて 海の長老のおじいさんは その場ですっと消えてしまいました。
夜中に急に起こされた清六はもう眠たくて眠たくて 仕方なかったので 手の中にあった貝殻を枕元に置いといて またすぐにグゴグゴとイビキをかきながら 深い眠りに落ちて行きました 。
それを屋根裏で見ていたのは ネズミの親子です。
この二匹はいびきをかき始めた清六を見て 、枕元に転がっている貝殻をそぉっと持ち上げて、えっちらおっちらと 屋根裏へ持って行ってしまったのです。
やがて朝になって
清六が目をさますと
「しかし 不思議な夢を見たもんじゃ」 と貝殻のなくなっている枕元を見つめて一人呟きました 。
昨夜の出来事が夢だと思ってしまった清六は またいつものように 釣竿を持って大きなかごを背中に担いで海へ出かけて行ったのです。
そして
かれこれ10年の月日が流れ 清六の家には働き者の嫁さんと 生まれて間もない可愛い可愛い赤ちゃんが授かっておりました。
しかし その年の夏、 半年以上も雨が降らず 日照りが続いたもんで作物のすべて枯れてしまい とうとう井戸の水まで枯れ果ててしまったのです。
しかし一向に雨雲の気配もなくて 村にも 食べ物 や飲む水さえもなくなって、とうとう 清六の家の赤ちゃんへ飲ませる 嫁さまの乳さえ出なくなってしまったのです 。
「わしらの可愛い赤ちゃんや」 泣きながら子供を抱えている母親を見つめ 、途方に暮れていた清六の頭に、コツンと片手ほどの貝殻が落ちてきたのです 。
その貝殻を見た清六は
「あんれ? どこかで見た貝殻じゃの」
とつぶやきましたが、 どこで見たのかは思い出せません。
清六はにわかにその貝殻を拾って
「もしかしたら中に水が溜まっているかもしれんの 」そう思って そのホラ貝を赤ちゃんの口も取り寄せてみました 。
するとその赤ちゃんは 貝殻の先をパクッと口にくわえ
「ブーブーブーブー」と言い始めました。
するとなんとしたことでしょう、村じゅうにいや海の向こうにまで響き渡るような
ブゥオー、ブゥオー、ブゥオーという大きな大きな音が そのほら貝から響いたのです 。
すると急に、 あたり一面真っ暗になったかと思うと、ゴロゴロと雷が鳴り始め ザザーっと雨が降り出したのです。
半年以上もお目にかかれなかった大粒の大粒の恵みの雨です。
その雨は三日三晩続いて作物も 井戸の水も溜まって 清六の嫁様や赤ちゃん 、村人たちも元気を取り戻しました。
「そういえばっ!」
ここでやっと清六は そのホラ貝の貝殻を見て 昔逃がした大ガメのことや 、夜中に訪れた白い髭のおじいさんの事を思い出しました。
「なんとまぁ、あれは夢ではなくて本当のことだったんだのぉ」そして元気を取り戻した清六は 、また次の日から海へ出かけ 帰りには たくさん釣れた魚たちを村人たちに くばる 毎日を過ごし始めました。
清六の家には 働き者の嫁様と 可愛い赤ちゃん、 それから屋根裏には10匹に増えたネズミの家族が 暮らしています 。
おしまい
みんなはしいんとなってしまいました。やっと一郎が「先生お早うございます。」と言いましたのでみんなもついて、
「先生お早うございます。」と言っただけでした。
「みなさん。お早う。どなたも元気ですね。では並んで。」先生は呼び子をビルルと吹きました。それはすぐ谷の向こうの山へひびいてまたビルルルと低く戻もどってきました。
すっかりやすみの前のとおりだとみんなが思いながら六年生は一人、五年生は七人、四年生は六人、一二年生は十二人、組ごとに一列に縦にならびました。
二年は八人、一年生は四人前へならえをしてならんだのです。
するとその間あのおかしな子は、何かおかしいのかおもしろいのか奥歯で横っちょに舌をかむようにして、じろじろみんなを見ながら先生のうしろに立っていたのです。すると先生は、高田たかださんこっちへおはいりなさいと言いながら五年生の列のところへ連れて行って、丈たけを嘉助とくらべてから嘉助とそのうしろのきよの間へ立たせました。
みんなはふりかえってじっとそれを見ていました。
先生はまた玄関の前に戻って、
「前へならえ。」と号令をかけました。
みんなはもう一ぺん前へならえをしてすっかり列をつくりましたが、じつはあの変な子がどういうふうにしているのか見たくて、かわるがわるそっちをふりむいたり横目でにらんだりしたのでした。するとその子はちゃんと前へならえでもなんでも知ってるらしく平気で両腕を前へ出して、指さきを嘉助のせなかへやっと届くくらいにしていたものですから、嘉助はなんだかせなかがかゆく、くすぐったいというふうにもじもじしていました。
「直れ。」先生がまた号令をかけました。
「一年から順に前へおい。」そこで一年生はあるき出し、まもなく二年生もあるき出してみんなの前をぐるっと通って、右手の下駄箱げたばこのある入り口にはいって行きました。四年生があるき出すとさっきの子も嘉助のあとへついて大威張りであるいて行きました。前へ行った子もときどきふりかえって見、あとの者もじっと見ていたのです。
まもなくみんなははきものを下駄箱げたばこに入れて教室へはいって、ちょうど外へならんだときのように組ごとに一列に机にすわりました。さっきの子もすまし込んで嘉助のうしろにすわりました。ところがもう大さわぎです。
「わあ、おらの机さ石かけはいってるぞ。」
「わあ、おらの机代わってるぞ。」
「キッコ、キッコ、うな通信簿持って来たが。おら忘れで来たぢゃあ。」
「わあい、さの、木ペン借せ、木ペン借せったら。」
「わあがない。ひとの雑記帳とってって。」
そのとき先生がはいって来ましたのでみんなもさわぎながらとにかく立ちあがり、一郎がいちばんうしろで、
「礼。」と言いました。
みんなはおじぎをする間はちょっとしんとなりましたが、それからまたがやがやがやがや言いました。
「しずかに、みなさん。しずかにするのです。」先生が言いました。
「しっ、悦治えつじ、やがましったら、嘉助え、喜きっこう。わあい。」と一郎がいちばんうしろからあまりさわぐものを一人ずつしかりました。
みんなはしんとなりました。
先生が言いました。
「みなさん、長い夏のお休みはおもしろかったですね。みなさんは朝から水泳ぎもできたし、林の中で鷹たかにも負けないくらい高く叫んだり、またにいさんの草刈りについて上うえの野原へ行ったりしたでしょう。けれどももうきのうで休みは終わりました。これからは第二学期で秋です。むかしから秋はいちばんからだもこころもひきしまって、勉強のできる時だといってあるのです。ですから、みなさんもきょうからまたいっしょにしっかり勉強しましょう。それからこのお休みの間にみなさんのお友だちが一人ふえました。それはそこにいる高田さんです。そのかたのおとうさんはこんど会社のご用で上の野原の入り口へおいでになっていられるのです。高田さんはいままでは北海道の学校におられたのですが、きょうからみなさんのお友だちになるのですから、みなさんは学校で勉強のときも、また栗拾くりひろいや魚さかなとりに行くときも、高田さんをさそうようにしなければなりません。わかりましたか。わかった人は手をあげてごらんなさい。」
すぐみんなは手をあげました。その高田とよばれた子も勢いよく手をあげましたので、ちょっと先生はわらいましたが、すぐ、
「わかりましたね、ではよし。」と言いましたので、みんなは火の消えたように一ぺんに手をおろしました。
ところが嘉助がすぐ、
「先生。」といってまた手をあげました。
「はい。」先生は嘉助を指さしました。
「高田さん名はなんて言うべな。」
「高田三郎さぶろうさんです。」
「わあ、うまい、そりゃ、やっぱり又三郎だな。」嘉助はまるで手をたたいて机の中で踊るようにしましたので、大きなほうの子どもらはどっと笑いましたが、下の子どもらは何かこわいというふうにしいんとして三郎のほうを見ていたのです。
汽車
一九二七、二、一二、
プラットフォームは眩ゆくさむく
緑いろした電燈の笠
きららかに飛ぶ氷華の列を
ひとは偏狭に老いようし
汽車近づけば
その窓が Ice-fern で飾られもしよう
車のなかはちひさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル現象
日照はいましづかな冬で
でんしんばしらや建物や鳩
かゞやいて立つ氷の樹
青々けぶる山と雲
髪をみだし
黒いネクタイをつけて
朝の汽車にねむる写真師
……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……
……はい閣下 今日は多量の氷華を産して居りまする……
……それらの樹群はみなよき梨の母体であるか……
……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼の鏡をつるす
はんの木立でございます……
……この町の訓練の成績はどうぢゃ……
……はい閣下 寒冷ながら
水は風より より濃いものと存じます……
けむりは凍えていくつにもちぎれて
松の林に落ちこむし
アカシヤの木の乱立と
女のそのうつくしいプロファイル
もう幾百 目もあやに
風や磁気に交叉する電線と
七四四 病院
一九二六、一一、四、
途中の空気はつめたく明るい水でした
熱があると魚のやうに活溌で
そして大へん新鮮ですな
終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました
市街も橋もじつに光って明瞭で
逢ふ人はみなアイスランドへ移住した
蜂雀といふ風の衣裳をつけて居りました
あんな正確な輪廓は顕微鏡分析ミクロスコープアナリーゼの晶形にも
恐らくなからうかと思ふのであります
おれはやっとのことで十階の床ゆかをふんで汗を拭った。
そこの天井は途方もなく高かった。全體その天井や壁が灰色の陰影だけで出來てゐるのか、つめたい漆喰で固めあげられてゐるのかわからなかった。
(さうだ。この巨きな室にダルゲが居るんだ。今度こそ會へるんだ。)とおれは考へて一寸胸のどこかが熱くなったか熔けたかのやうな氣がした。
高さ二丈ばかりの大きな扉が半分開いてゐた。おれはするりとはいって行った。
室の中はガランとしてつめたく、せいの低いダルゲが手を額にかざしてそこの巨きな窓から西のそらをじっと眺めてゐた。
ダルゲは灰色で腰には硝子の蓑を厚くまとってゐた。そしてじっと動かなかった。
窓の向ふにはくしゃくしゃに縮れた雲が痛々しく白く光ってゐた。
ダルゲが俄かにつめたいすきとほった聲で高く歌ひ出した。
西ぞらの
ちぢれ羊から
おれの崇敬は照り返され
(天の海と窓の日覆ひ。)
おれの崇敬は照り返され。
おれは空の向ふにある氷河の棒をおもってゐた。
ダルゲは又じっと額に手をかざしたまま動かなかった。
おれは堪こらへかねて一足そっちへ進んで叫んだ。
「白堊系の砂岩の斜層理について。」
ダルゲは振り向いて冷やかにわらった。
いちょうの実
宮沢賢治
そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼はがねです。
そして星ほしがいっぱいです。けれども東ひがしの空そらはもうやさしいききょうの花はなびらのようにあやしい底光そこびかりをはじめました。
その明あけ方がたの空そらの下した、ひるの鳥とりでもゆかない高たかいところをするどい霜しものかけらが風かぜに流ながされてサラサラサラサラ南みなみのほうへとんでゆきました。
じつにそのかすかな音おとが丘おかの上うえの一本ぽんいちょうの木きに聞きこえるくらいすみきった明あけ方がたです。
いちょうの実みはみんないちどに目めをさましました。そしてドキッとしたのです。きょうこそはたしかに旅たびだちの日ひでした。みんなも前まえからそう思おもっていましたし、きのうの夕方ゆうがたやってきた二わのカラスもそういいました。
「ぼくなんか落おちるとちゅうで目めがまわらないだろうか。」一つの実みがいいました。
「よく目めをつぶっていけばいいさ。」も一つが答こたえました。
「そうだ。わすれていた。ぼく水すいとうに水みずをつめておくんだった。」
「ぼくはね、水すいとうのほかにはっか水すいを用意よういしたよ。すこしやろうか。旅たびへ出でてあんまり心持こころもちのわるいときはちょっと飲のむといいっておっかさんがいったぜ。」
「なぜおっかさんはぼくへはくれないんだろう。」
「だから、ぼくあげるよ。おっかさんをわるく思おもっちゃすまないよ。」
そうです。このいちょうの木きはおかあさんでした。
ことしは千人にんの黄金色きんいろの子こどもが生うまれたのです。
そしてきょうこそ子こどもらがみんないっしょに旅たびにたつのです。おかあさんはそれをあんまり悲かなしんでおうぎ形がたの黄金きんの髪かみの毛けをきのうまでにみんな落おとしてしまいました。
「ね、あたしどんなとこへいくのかしら。」ひとりのいちょうの女おんなの子こが空そらを見みあげてつぶやくようにいいました。
「あたしだってわからないわ、どこへもいきたくないわね。」もひとりがいいました。
「あたしどんなめにあってもいいから、おっかさんとこにいたいわ。」
「だっていけないんですって。風かぜが毎日まいにちそういったわ。」
「いやだわね。」
「そしてあたしたちもみんなばらばらにわかれてしまうんでしょう。」
「ええ、そうよ。もうあたしなんにもいらないわ。」
「あたしもよ。今いままでいろいろわがままばっかしいってゆるしてくださいね。」
「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。ゆるしてちょうだい。」
東ひがしの空そらのききょうの花はなびらはもういつかしぼんだように力ちからなくなり、朝あさの白光しろびかりがあらわれはじめました。星ほしが一つずつきえてゆきます。
木きのいちばんいちばん高たかいところにいたふたりのいちょうの男おとこの子こがいいました。
「そら、もう明あかるくなったぞ。うれしいなあ。ぼくはきっと黄金色きんいろのお星ほしさまになるんだよ。」
「ぼくもなるよ。きっとここから落おちればすぐ北風きたかぜが空そらへつれてってくれるだろうね。」
「ぼくは北風きたかぜじゃないと思おもうんだよ。北風きたかぜはしんせつじゃないんだよ。ぼくはきっとからすさんだろうと思おもうね。」
「そうだ。きっとからすさんだ。からすさんはえらいんだよ。ここから遠とおくてまるで見みえなくなるまでひと息いきに飛とんでゆくんだからね。たのんだら、ぼくらふたりぐらいきっといっぺんに青あおぞらまでつれていってくれるぜ。」
「たのんでみようか。はやく来くるといいな。」
そのすこし下したでもうふたりがいいました。
「ぼくはいちばんはじめにあんずの王様おうさまのお城しろをたずねるよ。そしておひめ様さまをさらっていったばけものを退治たいじするんだ。そんなばけものがきっとどこかにあるね。」
「うん。あるだろう。けれどもあぶないじゃないか。ばけものは大おおきいんだよ。ぼくたちなんか、鼻はなでふきとばされちまうよ。」
「ぼくね、いいもの持もっているんだよ。だからだいじょうぶさ。見みせようか。そら、ね。」
「これおっかさんの髪かみでこさえた網あみじゃないの。」
「そうだよ。おっかさんがくだすったんだよ。なにかおそろしいことのあったときはこのなかにかくれるんだって。ぼくね、この網あみをふところにいれてばけものに行いってね。もしもし。こんにちは、ぼくをのめますかのめないでしょう。とこういうんだよ。ばけものはおこってすぐのむだろう。ぼくはそのときばけものの胃いぶくろのなかでこの網あみをだしてね、すっかりかぶっちまうんだ。それからおなかじゅうをめっちゃめちゃにこわしちまうんだよ。そら、ばけものはチブスになって死しぬだろう。そこでぼくはでてきてあんずのおひめ様さまをつれてお城しろに帰かえるんだ。そしておひめ様さまをもらうんだよ。」
「ほんとうにいいね。そんならそのときぼくはお客様きゃくさまになっていってもいいだろう。」
「いいともさ。ぼく、国くにを半分はんぶんわけてあげるよ。それからおっかさんへは毎日まいにちおかしやなんかたくさんあげるんだ。」
星ほしがすっかりきえました。東ひがしの空そらは白しろくもえているようです。木きがにわかにざわざわしました。もう出発しゅっぱつに間まもないのです。
「ぼく、くつが小ちいさいや。めんどうくさい。はだしでいこう。」
「そんならぼくのとかえよう。ぼくのはすこし大おおきいんだよ。」
「かえよう。あ、ちょうどいいぜ。ありがとう。」
「わたしこまってしまうわ、おっかさんにもらった新あたらしい外套がいとうが見みえないんですもの。」
「はやくおさがしなさいよ。どのえだにおいたの。」
「わすれてしまったわ。」
「こまったわね。これからひじょうに寒さむいんでしょう。どうしても見みつけないといけなくってよ。」
「そら、ね。いいぱんだろう。ほしぶどうがちょっと顔かおをだしてるだろう。はやくかばんへ入いれたまえ。もうお日ひさまがおでましになるよ。」
「ありがとう。じゃもらうよ。ありがとう。いっしょにいこうね。」
「こまったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」
「わたしとふたりでいきましょうよ。わたしのをときどきかしてあげるわ。こごえたらいっしょに死しにましょうよ。」
東ひがしの空そらが白しろくもえ、ユラリユラリとゆれはじめました。おっかさんの木きはまるで死しんだようになってじっと立たっています。
とつぜん光ひかりのたばが黄金きんの矢やのように一度どにとんできました。子こどもらはまるでとびあがるくらいかがやきました。
北きたから氷こおりのようにつめたいすきとおった風かぜがゴーッとふいてきました。
「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」子こどもらはみんな一度どに雨あめのようにえだからとびおりました。
北風きたかぜがわらって、
「ことしもこれでまずさよならさよならっていうわけだ。」といいながらつめたいガラスのマントをひらめかしてむこうへいってしまいました。
お日様ひさまはもえる宝石ほうせきのように東ひがしの空そらにかかり、あらんかぎりのかがやきを悲かなしむ母親ははおやの木きと旅たびにでた子こどもらとに投なげておやりなさいました。
それから六日目の晩でした。金星音楽団の人たちは町の公会堂のホールの裏にある控室ひかえしつへみんなぱっと顔をほてらしてめいめい楽器をもって、ぞろぞろホールの舞台ぶたいから引きあげて来ました。首尾よく第六交響曲を仕上げたのです。ホールでは拍手はくしゅの音がまだ嵐あらしのように鳴って居おります。楽長はポケットへ手をつっ込んで拍手なんかどうでもいいというようにのそのそみんなの間を歩きまわっていましたが、じつはどうして嬉うれしさでいっぱいなのでした。みんなはたばこをくわえてマッチをすったり楽器をケースへ入れたりしました。
ホールはまだぱちぱち手が鳴っています。それどころではなくいよいよそれが高くなって何だかこわいような手がつけられないような音になりました。大きな白いリボンを胸につけた司会者がはいって来ました。
「アンコールをやっていますが、何かみじかいものでもきかせてやってくださいませんか。」
すると楽長がきっとなって答えました。「いけませんな。こういう大物のあとへ何を出したってこっちの気の済むようには行くもんでないんです。」
「では楽長さん出て一寸ちょっと挨拶あいさつしてください。」
「だめだ。おい、ゴーシュ君、何か出て弾いてやってくれ。」
「わたしがですか。」ゴーシュは呆気あっけにとられました。
「君だ、君だ。」ヴァイオリンの一番の人がいきなり顔をあげて云いました。
「さあ出て行きたまえ。」楽長が云いました。みんなもセロをむりにゴーシュに持たせて扉とをあけるといきなり舞台へゴーシュを押おし出してしまいました。ゴーシュがその孔のあいたセロをもってじつに困ってしまって舞台へ出るとみんなはそら見ろというように一そうひどく手を叩たたきました。わあと叫んだものもあるようでした。
「どこまでひとをばかにするんだ。よし見ていろ。印度インドの虎狩とらがりをひいてやるから。」ゴーシュはすっかり落ちついて舞台のまん中へ出ました。
それからあの猫ねこの来たときのようにまるで怒おこった象のような勢いきおいで虎狩りを弾きました。ところが聴衆ちょうしゅうはしいんとなって一生けん命聞いています。ゴーシュはどんどん弾きました。猫が切ながってぱちぱち火花を出したところも過ぎました。扉へからだを何べんもぶっつけた所も過ぎました。
曲が終るとゴーシュはもうみんなの方などは見もせずちょうどその猫のようにすばやくセロをもって楽屋へ遁にげ込みました。すると楽屋では楽長はじめ仲間がみんな火事にでもあったあとのように眼をじっとしてひっそりとすわり込んでいます。ゴーシュはやぶれかぶれだと思ってみんなの間をさっさとあるいて行って向うの長椅子ながいすへどっかりとからだをおろして足を組んですわりました。
するとみんなが一ぺんに顔をこっちへ向けてゴーシュを見ましたがやはりまじめでべつにわらっているようでもありませんでした。
「こんやは変な晩だなあ。」
ゴーシュは思いました。ところが楽長は立って云いました。
「ゴーシュ君、よかったぞお。あんな曲だけれどもここではみんなかなり本気になって聞いてたぞ。一週間か十日の間にずいぶん仕上げたなあ。十日前とくらべたらまるで赤ん坊と兵隊だ。やろうと思えばいつでもやれたんじゃないか、君。」
仲間もみんな立って来て「よかったぜ」とゴーシュに云いました。
「いや、からだが丈夫だからこんなこともできるよ。普通ふつうの人なら死んでしまうからな。」楽長が向うで云っていました。
その晩遅おそくゴーシュは自分のうちへ帰って来ました。
そしてまた水をがぶがぶ呑のみました。それから窓をあけていつかかっこうの飛んで行ったと思った遠くのそらをながめながら
「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。」と云いました。
次の晩もゴーシュは夜中すぎまでセロを弾いてつかれて水を一杯いっぱいのんでいますと、また扉とをこつこつ叩たたくものがあります。
今夜は何が来てもゆうべのかっこうのようにはじめからおどかして追い払はらってやろうと思ってコップをもったまま待ち構えて居おりますと、扉がすこしあいて一疋の狸たぬきの子がはいってきました。ゴーシュはそこでその扉をもう少し広くひらいて置いてどんと足をふんで、
「こら、狸、おまえは狸汁たぬきじるということを知っているかっ。」とどなりました。すると狸の子はぼんやりした顔をしてきちんと床へ座すわったままどうもわからないというように首をまげて考えていましたが、しばらくたって
「狸汁ってぼく知らない。」と云いました。ゴーシュはその顔を見て思わず吹ふき出そうとしましたが、まだ無理に恐こわい顔をして、
「では教えてやろう。狸汁というのはな。おまえのような狸をな、キャベジや塩とまぜてくたくたと煮にておれさまの食うようにしたものだ。」と云いました。すると狸の子はまたふしぎそうに
「だってぼくのお父さんがね、ゴーシュさんはとてもいい人でこわくないから行って習えと云ったよ。」と云いました。そこでゴーシュもとうとう笑い出してしまいました。
「何を習えと云ったんだ。おれはいそがしいんじゃないか。それに睡いんだよ。」
狸の子は俄にわかに勢いきおいがついたように一足前へ出ました。
「ぼくは小太鼓こだいこの係りでねえ。セロへ合わせてもらって来いと云われたんだ。」
「どこにも小太鼓がないじゃないか。」
「そら、これ」狸の子はせなかから棒きれを二本出しました。
「それでどうするんだ。」
「ではね、『愉快ゆかいな馬車屋』を弾いてください。」
「なんだ愉快な馬車屋ってジャズか。」
「ああこの譜ふだよ。」狸の子はせなかからまた一枚の譜をとり出しました。ゴーシュは手にとってわらい出しました。
「ふう、変な曲だなあ。よし、さあ弾くぞ。おまえは小太鼓を叩くのか。」ゴーシュは狸の子がどうするのかと思ってちらちらそっちを見ながら弾きはじめました。
すると狸の子は棒をもってセロの駒こまの下のところを拍子ひょうしをとってぽんぽん叩きはじめました。それがなかなかうまいので弾いているうちにゴーシュはこれは面白おもしろいぞと思いました。
おしまいまでひいてしまうと狸の子はしばらく首をまげて考えました。
それからやっと考えついたというように云いました。
「ゴーシュさんはこの二番目の糸をひくときはきたいに遅おくれるねえ。なんだかぼくがつまずくようになるよ。」
ゴーシュははっとしました。たしかにその糸はどんなに手早く弾いてもすこしたってからでないと音が出ないような気がゆうべからしていたのでした。
「いや、そうかもしれない。このセロは悪いんだよ。」とゴーシュはかなしそうに云いました。すると狸は気の毒そうにしてまたしばらく考えていましたが
「どこが悪いんだろうなあ。ではもう一ぺん弾いてくれますか。」
「いいとも弾くよ。」ゴーシュははじめました。狸の子はさっきのようにとんとん叩きながら時々頭をまげてセロに耳をつけるようにしました。そしておしまいまで来たときは今夜もまた東がぼうと明るくなっていました。
「ああ夜が明けたぞ。どうもありがとう。」狸の子は大へんあわてて譜や棒きれをせなかへしょってゴムテープでぱちんととめておじぎを二つ三つすると急いで外へ出て行ってしまいました。
ゴーシュはぼんやりしてしばらくゆうべのこわれたガラスからはいってくる風を吸っていましたが、町へ出て行くまで睡って元気をとり戻もどそうと急いでねどこへもぐり込こみました。
次の晩もゴーシュは夜通しセロを弾いて明方近く思わずつかれて楽譜をもったままうとうとしていますとまた誰たれか扉とをこつこつと叩くものがあります。それもまるで聞えるか聞えないかの位でしたが毎晩のことなのでゴーシュはすぐ聞きつけて「おはいり。」と云いました。すると戸のすきまからはいって来たのは一ぴきの野ねずみでした。そして大へんちいさなこどもをつれてちょろちょろとゴーシュの前へ歩いてきました。そのまた野ねずみのこどもときたらまるでけしごむのくらいしかないのでゴーシュはおもわずわらいました。すると野ねずみは何をわらわれたろうというようにきょろきょろしながらゴーシュの前に来て、青い栗くりの実を一つぶ前においてちゃんとおじぎをして云いました。
「先生、この児こがあんばいがわるくて死にそうでございますが先生お慈悲じひになおしてやってくださいまし。」
「おれが医者などやれるもんか。」ゴーシュはすこしむっとして云いました。すると野ねずみのお母さんは下を向いてしばらくだまっていましたがまた思い切ったように云いました。
「先生、それはうそでございます、先生は毎日あんなに上手にみんなの病気をなおしておいでになるではありませんか。」
「何のことだかわからんね。」
「だって先生先生のおかげで、兎うさぎさんのおばあさんもなおりましたし狸さんのお父さんもなおりましたしあんな意地悪のみみずくまでなおしていただいたのにこの子ばかりお助けをいただけないとはあんまり情ないことでございます。」
「おいおい、それは何かの間ちがいだよ。おれはみみずくの病気なんどなおしてやったことはないからな。もっとも狸の子はゆうべ来て楽隊のまねをして行ったがね。ははん。」ゴーシュは呆あきれてその子ねずみを見おろしてわらいました。
すると野鼠のねずみのお母さんは泣きだしてしまいました。
「ああこの児こはどうせ病気になるならもっと早くなればよかった。さっきまであれ位ごうごうと鳴らしておいでになったのに、病気になるといっしょにぴたっと音がとまってもうあとはいくらおねがいしても鳴らしてくださらないなんて。何てふしあわせな子どもだろう。」
ゴーシュはびっくりして叫さけびました。
「何だと、ぼくがセロを弾けばみみずくや兎の病気がなおると。どういうわけだ。それは。」
野ねずみは眼めを片手でこすりこすり云いました。
「はい、ここらのものは病気になるとみんな先生のおうちの床下にはいって療なおすのでございます。」
「すると療るのか。」
「はい。からだ中とても血のまわりがよくなって大へんいい気持ちですぐ療る方もあればうちへ帰ってから療る方もあります。」
「ああそうか。おれのセロの音がごうごうひびくと、それがあんまの代りになっておまえたちの病気がなおるというのか。よし。わかったよ。やってやろう。」ゴーシュはちょっとギウギウと糸を合せてそれからいきなりのねずみのこどもをつまんでセロの孔あなから中へ入れてしまいました。
「わたしもいっしょについて行きます。どこの病院でもそうですから。」おっかさんの野ねずみはきちがいのようになってセロに飛びつきました。
「おまえさんもはいるかね。」セロ弾きはおっかさんの野ねずみをセロの孔からくぐしてやろうとしましたが顔が半分しかはいりませんでした。
野ねずみはばたばたしながら中のこどもに叫びました。
「おまえそこはいいかい。落ちるときいつも教えるように足をそろえてうまく落ちたかい。」
「いい。うまく落ちた。」こどものねずみはまるで蚊かのような小さな声でセロの底で返事しました。
「大丈夫だいじょうぶさ。だから泣き声出すなというんだ。」ゴーシュはおっかさんのねずみを下におろしてそれから弓をとって何とかラプソディとかいうものをごうごうがあがあ弾きました。するとおっかさんのねずみはいかにも心配そうにその音の工合ぐあいをきいていましたがとうとうこらえ切れなくなったふうで
「もう沢山たくさんです。どうか出してやってください。」と云いました。
「なあんだ、これでいいのか。」ゴーシュはセロをまげて孔のところに手をあてて待っていましたら間もなくこどものねずみが出てきました。ゴーシュは、だまってそれをおろしてやりました。見るとすっかり目をつぶってぶるぶるぶるぶるふるえていました。
「どうだったの。いいかい。気分は。」
こどものねずみはすこしもへんじもしないでまだしばらく眼をつぶったままぶるぶるぶるぶるふるえていましたがにわかに起きあがって走りだした。
「ああよくなったんだ。ありがとうございます。ありがとうございます。」おっかさんのねずみもいっしょに走っていましたが、まもなくゴーシュの前に来てしきりにおじぎをしながら
「ありがとうございますありがとうございます」と十ばかり云いました。
ゴーシュは何がなかあいそうになって
「おい、おまえたちはパンはたべるのか。」とききました。
すると野鼠はびっくりしたようにきょろきょろあたりを見まわしてから
「いえ、もうおパンというものは小麦の粉をこねたりむしたりしてこしらえたものでふくふく膨ふくらんでいておいしいものなそうでございますが、そうでなくても私どもはおうちの戸棚とだなへなど参ったこともございませんし、ましてこれ位お世話になりながらどうしてそれを運びになんど参れましょう。」と云いました。
「いや、そのことではないんだ。ただたべるのかときいたんだ。ではたべるんだな。ちょっと待てよ。その腹の悪いこどもへやるからな。」
ゴーシュはセロを床へ置いて戸棚からパンを一つまみむしって野ねずみの前へ置きました。
野ねずみはもうまるでばかのようになって泣いたり笑ったりおじぎをしたりしてから大じそうにそれをくわえてこどもをさきに立てて外へ出て行きました。
「あああ。鼠と話するのもなかなかつかれるぞ。」ゴーシュはねどこへどっかり倒たおれてすぐぐうぐうねむってしまいました。
「ははあ、少し荒あれたね。」セロ弾きは云いながらいきなりマッチを舌でシュッとすってじぶんのたばこへつけました。さあ猫は愕おどろいたの何の舌を風車のようにふりまわしながら入り口の扉とへ行って頭でどんとぶっつかってはよろよろとしてまた戻もどって来てどんとぶっつかってはよろよろまた戻って来てまたぶっつかってはよろよろにげみちをこさえようとしました。
ゴーシュはしばらく面白そうに見ていましたが
「出してやるよ。もう来るなよ。ばか。」
セロ弾きは扉をあけて猫が風のように萱かやのなかを走って行くのを見てちょっとわらいました。それから、やっとせいせいしたというようにぐっすりねむりました。
次の晩もゴーシュがまた黒いセロの包みをかついで帰ってきました。そして水をごくごくのむとそっくりゆうべのとおりぐんぐんセロを弾きはじめました。十二時は間もなく過ぎ一時もすぎ二時もすぎてもゴーシュはまだやめませんでした。それからもう何時だかもわからず弾いているかもわからずごうごうやっていますと誰たれか屋根裏をこっこっと叩くものがあります。
「猫、まだこりないのか。」
ゴーシュが叫びますといきなり天井てんじょうの穴からぽろんと音がして一疋ぴきの灰いろの鳥が降りて来ました。床へとまったのを見るとそれはかっこうでした。
「鳥まで来るなんて。何の用だ。」ゴーシュが云いました。
「音楽を教わりたいのです。」
かっこう鳥はすまして云いました。
ゴーシュは笑って
「音楽だと。おまえの歌は、かっこう、かっこうというだけじゃあないか。」
するとかっこうが大へんまじめに
「ええ、それなんです。けれどもむずかしいですからねえ。」と云いました。
「むずかしいもんか。おまえたちのはたくさん啼なくのがひどいだけで、なきようは何でもないじゃないか。」
「ところがそれがひどいんです。たとえばかっこうとこうなくのとかっこうとこうなくのとでは聞いていてもよほどちがうでしょう。」
「ちがわないね。」
「ではあなたにはわからないんです。わたしらのなかまならかっこうと一万云えば一万みんなちがうんです。」
「勝手だよ。そんなにわかってるなら何もおれの処ところへ来なくてもいいではないか。」
「ところが私はドレミファを正確にやりたいんです。」
「ドレミファもくそもあるか。」
「ええ、外国へ行く前にぜひ一度いるんです。」
「外国もくそもあるか。」
「先生どうかドレミファを教えてください。わたしはついてうたいますから。」
「うるさいなあ。そら三べんだけ弾ひいてやるからすんだらさっさと帰るんだぞ。」
ゴーシュはセロを取り上げてボロンボロンと糸を合わせてドレミファソラシドとひきました。するとかっこうはあわてて羽をばたばたしました。
「ちがいます、ちがいます。そんなんでないんです。」
「うるさいなあ。ではおまえやってごらん。」
「こうですよ。」かっこうはからだをまえに曲げてしばらく構えてから
「かっこう」と一つなきました。
「何だい。それがドレミファかい。おまえたちには、それではドレミファも第六交響楽こうきょうがくも同じなんだな。」
「それはちがいます。」
「どうちがうんだ。」
「むずかしいのはこれをたくさん続けたのがあるんです。」
「つまりこうだろう。」セロ弾きはまたセロをとって、かっこうかっこうかっこうかっこうかっこうとつづけてひきました。
するとかっこうはたいへんよろこんで途中とちゅうからかっこうかっこうかっこうかっこうとついて叫さけびました。それももう一生けん命からだをまげていつまでも叫ぶのです。
ゴーシュはとうとう手が痛くなって
「こら、いいかげんにしないか。」と云いながらやめました。するとかっこうは残念そうに眼めをつりあげてまだしばらくないていましたがやっと
「……かっこうかくうかっかっかっかっか」と云ってやめました。
ゴーシュがすっかりおこってしまって、
「こらとり、もう用が済んだらかえれ」と云いました。
「どうかもういっぺん弾いてください。あなたのはいいようだけれどもすこしちがうんです。」
「何だと、おれがきさまに教わってるんではないんだぞ。帰らんか。」
「どうかたったもう一ぺんおねがいです。どうか。」かっこうは頭を何べんもこんこん下げました。
「ではこれっきりだよ。」
ゴーシュは弓をかまえました。かっこうは「くっ」とひとつ息をして
「ではなるべく永くおねがいいたします。」といってまた一つおじぎをしました。
「いやになっちまうなあ。」ゴーシュはにが笑いしながら弾きはじめました。するとかっこうはまたまるで本気になって「かっこうかっこうかっこう」とからだをまげてじつに一生けん命叫びました。ゴーシュははじめはむしゃくしゃしていましたがいつまでもつづけて弾いているうちにふっと何だかこれは鳥の方がほんとうのドレミファにはまっているかなという気がしてきました。どうも弾けば弾くほどかっこうの方がいいような気がするのでした。
「えいこんなばかなことしていたらおれは鳥になってしまうんじゃないか。」とゴーシュはいきなりぴたりとセロをやめました。
するとかっこうはどしんと頭を叩たたかれたようにふらふらっとしてそれからまたさっきのように
「かっこうかっこうかっこうかっかっかっかっかっ」と云いってやめました。それから恨うらめしそうにゴーシュを見て
「なぜやめたんですか。ぼくらならどんな意気地ないやつでものどから血が出るまでは叫ぶんですよ。」と云いました。
「何を生意気な。こんなばかなまねをいつまでしていられるか。もう出て行け。見ろ。夜があけるんじゃないか。」ゴーシュは窓を指さしました。
東のそらがぼうっと銀いろになってそこをまっ黒な雲が北の方へどんどん走っています。
「ではお日さまの出るまでどうぞ。もう一ぺん。ちょっとですから。」
かっこうはまた頭を下げました。
「黙だまれっ。いい気になって。このばか鳥め。出て行かんとむしって朝飯に食ってしまうぞ。」ゴーシュはどんと床をふみました。
するとかっこうはにわかにびっくりしたようにいきなり窓をめがけて飛び立ちました。そして硝子ガラスにはげしく頭をぶっつけてばたっと下へ落ちました。
「何だ、硝子へばかだなあ。」ゴーシュはあわてて立って窓をあけようとしましたが元来この窓はそんなにいつでもするする開く窓ではありませんでした。ゴーシュが窓のわくをしきりにがたがたしているうちにまたかっこうがばっとぶっつかって下へ落ちました。見ると嘴くちばしのつけねからすこし血が出ています。
「いまあけてやるから待っていろったら。」ゴーシュがやっと二寸ばかり窓をあけたとき、かっこうは起きあがって何が何でもこんどこそというようにじっと窓の向うの東のそらをみつめて、あらん限りの力をこめた風でぱっと飛びたちました。もちろんこんどは前よりひどく硝子につきあたってかっこうは下へ落ちたまましばらく身動きもしませんでした。つかまえてドアから飛ばしてやろうとゴーシュが手を出しましたらいきなりかっこうは眼をひらいて飛びのきました。そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。ゴーシュは思わず足を上げて窓をばっとけりました。ガラスは二三枚物すごい音して砕くだけ窓はわくのまま外へ落ちました。そのがらんとなった窓のあとをかっこうが矢のように外へ飛びだしました。そしてもうどこまでもどこまでもまっすぐに飛んで行ってとうとう見えなくなってしまいました。ゴーシュはしばらく呆あきれたように外を見ていましたが、そのまま倒たおれるように室へやのすみへころがって睡ねむってしまいました。
みんなはおじぎをして、それからたばこをくわえてマッチをすったりどこかへ出て行ったりしました。ゴーシュはその粗末そまつな箱はこみたいなセロをかかえて壁かべの方へ向いて口をまげてぼろぼろ泪なみだをこぼしましたが、気をとり直してじぶんだけたったひとりいまやったところをはじめからしずかにもいちど弾きはじめました。
その晩遅おそくゴーシュは何か巨おおきな黒いものをしょってじぶんの家へ帰ってきました。家といってもそれは町はずれの川ばたにあるこわれた水車小屋で、ゴーシュはそこにたった一人ですんでいて午前は小屋のまわりの小さな畑でトマトの枝えだをきったり甘藍キャベジの虫をひろったりしてひるすぎになるといつも出て行っていたのです。ゴーシュがうちへ入ってあかりをつけるとさっきの黒い包みをあけました。それは何でもない。あの夕方のごつごつしたセロでした。ゴーシュはそれを床ゆかの上にそっと置くと、いきなり棚たなからコップをとってバケツの水をごくごくのみました。
それから頭を一つふって椅子いすへかけるとまるで虎とらみたいな勢いきおいでひるの譜を弾きはじめました。譜をめくりながら弾いては考え考えては弾き一生けん命しまいまで行くとまたはじめからなんべんもなんべんもごうごうごうごう弾きつづけました。
夜中もとうにすぎてしまいはもうじぶんが弾いているのかもわからないようになって顔もまっ赤になり眼もまるで血走ってとても物凄ものすごい顔つきになりいまにも倒たおれるかと思うように見えました。
そのとき誰たれかうしろの扉とをとんとんと叩たたくものがありました。
「ホーシュ君か。」ゴーシュはねぼけたように叫さけびました。ところがすうと扉を押おしてはいって来たのはいままで五六ぺん見たことのある大きな三毛猫みけねこでした。
ゴーシュの畑からとった半分熟したトマトをさも重そうに持って来てゴーシュの前におろして云いました。
「ああくたびれた。なかなか運搬うんぱんはひどいやな。」
「何だと」ゴーシュがききました。
「これおみやです。たべてください。」三毛猫が云いました。
ゴーシュはひるからのむしゃくしゃを一ぺんにどなりつけました。
「誰がきさまにトマトなど持ってこいと云った。第一おれがきさまらのもってきたものなど食うか。それからそのトマトだっておれの畑のやつだ。何だ。赤くもならないやつをむしって。いままでもトマトの茎くきをかじったりけちらしたりしたのはおまえだろう。行ってしまえ。ねこめ。」
すると猫は肩かたをまるくして眼をすぼめてはいましたが口のあたりでにやにやわらって云いました。
「先生、そうお怒りになっちゃ、おからだにさわります。それよりシューマンのトロメライをひいてごらんなさい。きいてあげますから。」
「生意気なことを云うな。ねこのくせに。」
セロ弾きはしゃくにさわってこのねこのやつどうしてくれようとしばらく考えました。
「いやご遠慮えんりょはありません。どうぞ。わたしはどうも先生の音楽をきかないとねむられないんです。」
「生意気だ。生意気だ。生意気だ。」
ゴーシュはすっかりまっ赤になってひるま楽長のしたように足ぶみしてどなりましたがにわかに気を変えて云いました。
「では弾くよ。」
ゴーシュは何と思ったか扉とにかぎをかって窓もみんなしめてしまい、それからセロをとりだしてあかしを消しました。すると外から二十日過ぎの月のひかりが室へやのなかへ半分ほどはいってきました。
「何をひけと。」
「トロメライ、ロマチックシューマン作曲。」猫は口を拭ふいて済まして云いました。
「そうか。トロメライというのはこういうのか。」
セロ弾きは何と思ったかまずはんけちを引きさいてじぶんの耳の穴へぎっしりつめました。それからまるで嵐あらしのような勢いきおいで「印度インドの虎狩とらがり」という譜を弾きはじめました。
すると猫はしばらく首をまげて聞いていましたがいきなりパチパチパチッと眼をしたかと思うとぱっと扉の方へ飛びのきました。そしていきなりどんと扉へからだをぶっつけましたが扉はあきませんでした。猫はさあこれはもう一生一代の失敗をしたという風にあわてだして眼や額からぱちぱち火花を出しました。するとこんどは口のひげからも鼻からも出ましたから猫はくすぐったがってしばらくくしゃみをするような顔をしてそれからまたさあこうしてはいられないぞというようにはせあるきだしました。ゴーシュはすっかり面白おもしろくなってますます勢よくやり出しました。
「先生もうたくさんです。たくさんですよ。ご生ですからやめてください。これからもう先生のタクトなんかとりませんから。」
「だまれ。これから虎をつかまえる所だ。」
猫はくるしがってはねあがってまわったり壁にからだをくっつけたりしましたが壁についたあとはしばらく青くひかるのでした。しまいは猫はまるで風車のようにぐるぐるぐるぐるゴーシュをまわりました。
ゴーシュもすこしぐるぐるして来ましたので、
「さあこれで許してやるぞ」と云いながらようようやめました。
すると猫もけろりとして
「先生、こんやの演奏はどうかしてますね。」と云いました。
セロ弾きはまたぐっとしゃくにさわりましたが何気ない風で巻たばこを一本だして口にくわえそれからマッチを一本とって
「どうだい。工合ぐあいをわるくしないかい。舌を出してごらん。」
猫はばかにしたように尖とがった長い舌をベロリと出しました。
僕はマンホールです。
僕は電柱です。
僕は田んぼや畑、稲の藁に住んでいる納豆菌です。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ※(「「蔭」の「陰のつくり」に代えて「人がしら/髟のへん」、第4水準2-86-78)ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ[#「朿ヲ」はママ]負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
僕はカリブ海のユカタン海峡に住むイワシです。
僕は、アフリカのサバンナやインド北西部にプライドという群れの、中で生活している二歳のオスのライオンです。
僕は、リンと引き締まった寒い季節の空に浮かんでいる飛行機雲です。
僕はアフリカはサバンナの草原で群れをなしているヌーです。