ボイスドラマ「木綿のハンカチーフ」
Description
岐阜・荘川を舞台に、東京へ旅立つリョウとそば農家を継ぐさくらのすれ違い続ける恋を描いたボイスドラマ『木綿のハンカチーフ』
幼なじみとして育った二人。季節を重ね、夢を語り、未来を信じていた――あの春までは。
変わっていく都会の暮らし。変わらない故郷の風景。
最後にさくらが願った“たったひとつの贈りもの”とは?
【ペルソナ】
・さくら(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川へ帰り実家のそば農家を継ぐ
・リョウ(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川を離れ東京へ就職する
【資料/木綿のハンカチーフ】
https://www.uta-net.com/song/4548/
【資料/歌詞の意味を考える 〜「木綿のハンカチーフ」編〜】
https://www.mc-musicschool.com/post/lyrics-momennohandkerchief
【資料/「木綿のハンカチーフ」奈良姉妹】
https://youtu.be/QSV9lFgFFS0?list=RDQSV9lFgFFS0
【プロローグ:3月/ふるさと・荘川での別れ(蕾すら膨らんでいない荘川桜の前で)】
※FM放送のみ楽曲使用「木綿のハンカチーフ」
※配信はフリー音源
恋人よぼくは旅立つ 東へと向う列車で、
華やいだ街で君への贈りもの 探す 探すつもりだ
いいえ あなた私は 欲しいものはないのよ
ただ都会の絵の具に 染まらないで帰って
■SE/小鳥のさえずり
「おれ・・・東京に就職、決まったんだ」
「え・・・」
「さくら、ごめん」
「リョウ・・・」
「ひとりで決めて」
「そう・・・」
「デザイン会社受けて、内定もらったんだけど、東京本社勤務だって」
「おめでとう」(※寂しそうに)
「え・・・」
「よかったじゃない・・・夢がかなって」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う)
「さくら・・」
一年前の遅い春。
リョウが卒業後の進路について話したのは、
落下盛んな荘川桜(しょうかわざくら)の下。
私は必死で涙をこらえ、御母衣湖を見つめていた。
私たちはここ荘川に生まれ、荘川で育った幼馴染。
岐阜にある大学の、同じ学部に通う大学生だった。
そして、お互いに、かけがえのないパートナー。
夏休みには必ず一緒に荘川へ帰って、実家の農業を手伝った。
うちの実家はそばを栽培する農家。
夏は、裏作のトマトとキュウリを収穫する。
リョウの実家は林業だったけど家には帰らず、うちの畑へ。
「林業なんて絶対に継がない」
と、いつも言っていた。
今年は、2人で過ごす最後の夏。
夏野菜を収穫したあと、いつものように荘川をドライブ。
彼の運転で、涼しい湖畔の夜を楽しんだ。
三谷(さんだに)の自然水(しぜんすい)を水筒に注いで2人で回しr飲み。
魚帰り(うおがえり)の滝でマイナスイオンを浴びれば心まで洗われる。
荘川桜公園の駐車場に車を停めて2人で見上げた満天の星。
青葉をまとった荘川桜が夜空にざわめく。
展望台から眺める下流の御母衣ダムは、神々しくさえ見えた。
時には156号を北上して、白川郷へ。
「合掌造りに住んでみたいな」
冗談だか本気だかわからない目をして私を見つめる。
リョウと一緒の時間は、いつだって切なく、儚い。
時間よ、止まれ。
大学最後の夏休みは、まるで夢のように過ぎ去っていった。
■SE/吹雪の音
短い秋が過ぎ、冬将軍の足音が近づいてくる。
こんなに冷たい雪、心まで凍るような冬は初めてだった。
いつも楽しみにしていたのに、今年は・・・
”春よ、来ないで”
本気でそう思った。
それでも、時間は残酷だ。
決して待ってはくれなかった。
■SE/小鳥のさえずり
「がんばってね!」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う)
「うん・・・でも」
「なあに?」
「ごめん・・・
オレ だけひとりで」
「そんなこといま言わないで」
「ごめん・・・」
なごり雪がまだ山肌に残る弥生・3月。
リョウが旅立つ朝。
荘川の里前のバス停。
リョウは路線バスで高山駅へ。
名古屋から新幹線に乗り換えて東京へ旅立つ。
私は、高山駅まで一緒に行って見送りたいって言ったんだけど・・・
「さくらの顔を見てたら、特急ひだに乗れない」
そう言って、バス停での見送りになった。
大きなスーツケースを引いたリョウが、泣きそうな笑顔で私を見る。
「寒くないかい?」
「うん・・少しだけ・・」
「東京から、思いっきりおしゃれなマフラー贈ってあげるから!」
「ううん。なにもいらない。
ただ、私を・・荘川を忘れないで」
「忘れるわけないじゃないか・・・
世界中の誰よりきっと、君を愛してる」
「お願い・・リョウは・・リョウのままでいて」
「わかった・・・約束する・・
都会の色には染まらないよ」
そう言って、リョウは旅立っていった。
私はリョウのバスが見えなくなるまで見送る。
そのあとは今までの楽しかった日を思い出しながら
ゆっくり、1時間歩いて、荘川桜公園へ。
荘川桜はまだ蕾も固く、口を閉ざしていた。
[シーン1:4〜9月/東京・赤坂ビジネス街〜荘川】
恋人よ 半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ
都会で流行りの指輪を送るよ 君に君に似合うはずだ
いいえ星のダイヤも 海に眠る真珠も
きっとあなたのキスほど きらめくはずないもの
■SE/都会の雑踏と荘川のざわめき
「さくら、荘川桜はもう満開かい?
きっと公園から御母衣湖まで花びらが桜色に染めているんだろう。
また見たいなあ。
僕は毎日がデザインの修行って感じ。
学校で習った作業だけでは実践には使えないみたい。
いろいろ自信がなくなっていきそうで怖いよ。
明日も先輩のアシスタント作業で朝から忙しいから
今日はもう寝るね。
おやすみ。
さくらに会いたい。
さくらの夢が見られますように」
「リョウ、連絡してくれてありがとう。
無理だけはしないでね。
食事にも気をつけて。
鶏ちゃんと荘川そばの乾麺送るから。
ジャンクフードじゃなくてちゃんと食べて。
厳しい先輩にも負けないで。
長文を送って夜更かしさせちゃ悪いから、短い文章にしとくね。
ちゃんと睡眠とって、明日もがんばって」
「さくら、秋そばの種まきはもう終わった?
実は、謝らなくちゃいけないことがあるんだ。
約束してたお盆休み。
プレゼンが続いてて、帰れそうにないんだ。
秋には休みをとって会いにいくから。
お父さんやお母さんにもよろしく伝えておいて。
東京は暑い。
涼しい荘川に帰りたいなあ。
ああ、さくらの顔が見たい。
さくらの手に触れたい・・・」
「リョウ、私は大丈夫。
気にせずに仕事がんばって。
でも体には気をつけて。
食事にも気をつけて。
ちゃんと水分とるのよ。
あなたの好きな三谷自然水、ペットボトルに入れて送るわ。
煮沸してから飲んでね」
「さくら、なかなか連絡できなくなっちゃってごめんね。
荘川は秋そばの収穫で忙しい頃だね。
東京へ来てもうすぐ半年。
ごめん。秋の連休も、やっぱり荘川へは帰れない。
その代わり、星の形をしたネックレスを贈るよ。
いま、渋谷とかで流行ってるみたい。
きっとさくらに似合うはず。
実は昨日初めて渋谷へ行ってきたんだ。
すごいところだよ、この町は。
なんだって揃ってる。
さくら、なんでもいいからほしいものを言ってくれ。
僕の給料で買えるものだったら、どんなものでもプレゼントするよ。
もう遅い時間だけど、このあと電話できる?」
「リョウ、ひさしぶりに声が聴けて嬉しかった。
やっぱりちょっと疲れた声だね。
電話でも言ったけど、そんな高価なネックレス、いらないわ。
どんなに素敵なネックレスも宝石だってほしくない。
本当はただ・・・ぎゅっとリョウに抱きしめてほしい」
9月も終わり、10月の声が聞こえて来る頃。
毎日のように届いていたメールも
3日に1度になり、週に1度になり、月に1度になっていった。
私はリョウの顔が見たくて、写真を送って、とねだったけど、
恥ずかしがり屋のリョウはなかなか送ってくれない。
代わりに添付して送ってくれていたのは
リョウが描いた私の似顔絵。
それも今はもうなくなっちゃった。
だけどいいの。
連絡がほしいなんて、私のわがまま。
リョウが元気なら・・・
病気になったり、落ち込んだりしてなければいい。
とにかく、元気でがんばって、リョウ。
[シーン2:12月/東京・渋谷の居酒屋で合コン〜荘川・雪の集落】
恋人よいまも素顔で 口紅もつけないままか
見間違うようなスーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ
いいえ 草にねころぶ あなたが好きだったの
でも木枯しのビル街 からだに気をつけてね
■SE/都会の雑踏と荘川のざわめき
「さくら、僕のデザインがコンペで賞をとったんだ。
喜んでほしい。
1年目の新人にしては快挙だ、って先輩に初めて褒められたよ。
みんなが居酒屋でお祝いしてくれて。
東京へ来てよかった、って初めて思えた。
さくらも、仕事がんばってるかい?
たまには、きっちりメイクして、
飲みにいったり、遊びに行ったりしていいんだよ。
農作業ばかりしてたら、ストレスたまっちゃうかも。
さくらも人生、楽しんで」
メールに添付されていたのは
すごくお洒落なお店で、すごく素敵な女の人に囲まれたリョウの写真。
そうか。
リョウの先輩たちって、女の人だったのね。
それもこんな綺麗な人ばかり。
リョウは、私の知らない笑顔で輝いてる・・・
※続きは音声でお楽しみください























