気候ポッド 第43回 ~ 【後編】グリーンランドで解けた氷は結局7日で東京が26メートル沈む量に
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今回は、前回(『気候ポッド 第42回 ~ 【前編】グリーンランドで東京が8.2メートル沈む量の氷が3日で解ける』)の続きです。
なんでかっちゅうと、前回分を収録したあとにまたグリーンランドでさらに氷が解けたから。しかもちょっと追加なんてもんじゃなくてですね、小ライスのあとで特盛りライスをおかわりするような感じだったんです。
前回のエピソードで、7月15日~17日の3日間に、1日あたり60億トンの合計180億トンの氷が解けた話をしましたが、その後7月20日から23日までの4日間で、最大400億トンがさらに解け、合計で580億トンの氷が解けちゃったと。追加で解けた分の水がすべて東京に注ぎ込んだと仮定すると、東京がさらに18メートル沈むことに。その前の3日分と合わせると26メートル超になりますね…。
今回のエピソードでは、グリーンランドの氷床が解ける影響についても話しています。
北極の温暖化は、他の地域の3倍で進んでいます。気温が上がって、表面の色が白くて太陽光を反射する氷床(海氷)が解けると、暗い表面(陸か海)が増えます。暗い表面は太陽エネルギーを吸収するため、海表面や地表の温度も上昇。それに伴って気温が上昇し、さらに氷が解けるという正のフィードバック(負のループ)が起こります。
また、北極の温暖化によって、ジェット気流は湾曲して南に伸び、スピードが落ちるため、高気圧と低気圧が同じ地域に長期間とどまりやすくなって、長引く熱波や集中豪雨による洪水や鉄砲水の原因となって、大きな被害を引き起こしています。ヨーロッパや、テキサスを中心とする米南西部の熱波、ミズーリ州やケンタッキー州、イリノイ州などの米中西部などで起こっている集中豪雨による鉄砲水や洪水など、最近だけでも例がいくつも思い浮かびます。
さらに、北極の温暖化によって米西部で山火事が起こりやすくなっていて、山火事で排出されたすすやブラウンカーボンが北極圏にたどり着いて(降って)氷や雪の表面に付着することによって、太陽エネルギーを吸収しやすくなってさらに氷や雪が解け温暖化が加速、それが原因で米西部で山火事が増える…という地獄のような負のループが起こっています。
もうひとつおまけに、グリーンランドの氷が短期間で大量に解けて淡水が周辺の海に流入すると、大西洋南北熱塩循環(AMOC: Atlantic Meridional Overturning Circulation)と呼ばれる、緯度が高いヨーロッパに熱を運んで温暖な気候を保っている暖流をスローダウンさせてしまいます。もしも万が一AMOCが止まってしまうようなことになれば、熱帯太平洋の気温は低下し、貿易風は強くなって南下するそうです。その結果、ラニーニャ発生時のような気候になって、南太平洋では壊滅的なモンスーンと洪水を引き起こし、北米の一部では干ばつと暑さが激しくなる可能性があります。今夏の気候みたいな感じですね。
ほんのわずかの海面上昇でも、影響は深刻です。台風やハリケーンの際には、高潮による洪水被害が海面上昇によってどんどん大きくなっていきます。もしも満月の満潮時に台風が接近、上陸するようなことになれば、洪水による被害は甚大になるでしょう。
また、海面上昇による海岸の浸食が進む地域では、人が住めなくなる可能性があります。アメリカでは、すでに先住民が移住をはじめています。南太平洋やインド洋の島しょ国は、将来的に沈む運命にあります。南太平洋の島しょ国の中には、近隣の海抜が高い島国に移住する土地を購入しているケースも見られます。
沿岸地域の農地では、海水が浸食ことによる塩害で食物がとれなくなる恐れがあります。
既存の原発や火力発電所、汚染施設への影響も考えられます。フランスでは、熱波による水温の上昇が原因で十分な冷却ができないため、原発の発電量を調整しています。
世界の都市の多くが沿岸に位置しており、ホームレスを含め多くの貧しい人が暮らしています。なかなか注目を浴びることはありませんが、沿岸地域で洪水が起こると、発生時だけでなく、避難後にも社会的弱者がもっとも大きな影響を受けることになります。
2050年までに海面が30センチ上昇すると言われている地域もあります。今は洪水が起こっても被害が出ない地域でも、数十年後には住居や人々が深刻な影響を受けやすくなっていきます。被害を少しでも小さく抑えるためには、温室効果ガスの排出量を最速で最大限削減していくしかありません。
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