Discover気候変動の向こう側気候ポッド 第52回 ~ 毎年数百万人の命を奪って利益を得る化石燃料産業とゴッホにトマトスープぶっかけ、過激なのはどっち?
気候ポッド 第52回 ~ 毎年数百万人の命を奪って利益を得る化石燃料産業とゴッホにトマトスープぶっかけ、過激なのはどっち?

気候ポッド 第52回 ~ 毎年数百万人の命を奪って利益を得る化石燃料産業とゴッホにトマトスープぶっかけ、過激なのはどっち?

Update: 2022-11-18
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今回のエピソードは、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープをぶっかけて注目を集めた市民的不服従運動について話しています。


まずはWikipediaから市民的不服従ってなんなのかを。


『市民的不服従(しみんてきふふくじゅう、英語: civil disobedience)は、良心にもとづき従うことができないと考えた特定の法律や命令に非暴力的手段で公然と違反する行為である。


市民的不服従は、よくある犯罪と異なり、法を破ることが正しいと確信して行われる。不正な法律(悪法)に従うよりも、良心に従って違反するほうを選ぶ。……誰もがわかるように公然と行い、追及する官憲から逃げず、逮捕を妨げようともしない


市民的不服従の特徴の一つは、逃げも隠れもせず逮捕され、処罰されることにある。違反から利益を得ようとはせず、むしろ進んで不利益を受ける。このため、本当は利己的な動機からしたことで、主張は後から付けた言い訳だろうというような勘ぐり・非難は封じられる』


例としては、非暴力の抵抗を続けたガンジーや、公民権運動のマーティン・ルーサー・キング Jr.などが挙げられます。


活動家たちは、いきなり名画に体を接着させたり、スープや食べ物をかけたりしたわけじゃありません。他の方法を全部試しても政府はパリ協定を満たす気候変動対策を講じてくれない。気候変動や食料危機の影響で失われていく命や、苦しい生活を強いられている貧しい人々気候変動で深刻化していく未来を憂えるあまり、いても立ってもいられなくなって市民にできる最後の手段ともいえる市民的不服従に出ているんです。やりたくてやっている人はいません。


そんな事情をどこまで理解しているのかわかりませんが、「名画を狙うなんて間違っている」「そんなやり方は逆効果だ」と、活動家を非難する声がほとんどだったような気がします。表面だけを見ると、たしかにそう感じるんですよね。


でも、何十億円もするような絵画は、資本主義や貧富の差を象徴しています。また、ゴッホの「ひまわり」を所蔵している英ナショナルギャラリーは、化石企業との関係を批判されてきた過去があります。


ポッドキャスト収録後に、活動家によってクリムトの「死と生」にオイルをかけられたオーストリアのレオポルド美術館ガス石油企業がスポンサーです。年間に数百万人もの命を奪って利益を得る産業がスポンサーをしている美術館の「死と生」に真っ黒なオイルをかける。メッセージはこれ以上ないくらいハッキリしていますよね。


本当に逆効果なのか?活動家の目的は、メディアの注目を集めること。人々をイラッとさせて関心を引くこと。多くの人たちが気候変動を深刻な問題として捉え、世界中で会話が始まることを願っています。めっちゃ効果的じゃないですか?世界が思うツボちゃんになっちゃってるじゃないですか。怒れば怒るほど、メディアが取りあげれば取りあげるほど、この活動は続くと思います。


ゴッホにトマトスープ後にイギリスで行われた世論調査では、66%の人が非暴力の直接行動を支持しました。専門家は、たとえ的外れに見えるようなものをターゲットにした直接行動でも、時間がたてば人々は根っこにある問題を見るようになると指摘します。また、非暴力の直接行動は人間が対象なので、「ゴッホにトマトスープは暴力」という批判はあたりません。もちろんエコテロリズムでもありません。


イギリスの約3分の2の人たちは、見えている部分に感情的に反応しつつも、活動家の「1.5℃のラインを守るために英政府は新規のガス・石油の調査・開発・生産を中止せよ」という主張は正当だと捉えているといえるでしょう。


言い換えると、Just Stop OilやExtinction Rebellion、Sunriseがやっている市民的不服従運動が、弱者のため、より良い社会、未来のための利他的な行動だという本質を見ているのだと思います。


気候変動が差別や格差の問題、貧しい人々にとっては命の問題、資本主義による搾取の問題、環境正義/気候正義問題だということを理解している人が多い社会には、市民的不服従運動を受け入れる土壌があるんでしょうね。


翻って日本はというと、差別や格差、貧困を自己責任と捉える人も多く、当事者も声をあげるのをためらう傾向にあります(弱者が声をあげるとおっさん病患者たちが全力でたたきまくるのでしょうがない)。なので、市民的不服従運動がなかなか受け入れてもらえないのもわかります。お上に逆らうのは御法度的な臣民気質がいまだに残っているのでしょう。


さらに、気候変動では、そもそも環境正義/気候正義のルーツに関心がない活動家が気候正義を振り回して、無批判に支持するサポーターが彼女ら/彼らを甘やかし、環境正義/気候正義を理解していないメディアが気候正義や活動家をコンテンツとして消費するという未成熟さがアクセル全開で暴走中。欧米の市民的不服従運動のような、利他的なムーブメントを生み育てる社会環境が整っていないと言わざるを得ません。


欧米から数十年遅れている日本の社会正義や環境正義/気候正義運動。焦るとろくなことにならないので、時間がかかっても「公正の視点」を身につけていくしかないんでしょう。


私からみなさんへの質問はこれ。


毎年大気汚染や気象災害によって数百万人の命を奪うことで利益をあげ、さらに温暖化を悪化させても責任をとらない化石燃料産業と、絵画にスープや食べ物をかけ、ガス石油タンカーの通過を妨げるために橋を封鎖し、その責任をとる活動家。どっちが過激なんでしょうね。

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Kenji Miyajima