1ヶ月間北海道で車中泊してきた話 ─ 道の終わりで考えたこと
Description
プレイエリアの外へ—道東車中泊で見た「道の終わり」/伊豆の人工リゾート/台風の孤島体験/軽で二週間・半時計回り/車中泊の自由/セコマとサウナが命綱/鹿と野犬とリス/釧路・根室のさびれた町/明治公園で道が終わる/納沙布岬と北方領土の距離感/野付半島の沈みゆく大地/デスストとブレワイ的風景/知床と摩周湖/紋別のアザラシ/直線40キロの道/1500kmの走行とレンタカー故障/エスコンフィールドのテーマパーク感/豚丼とホットシェフの幸福/セコマはセーブポイント/一次産業のリアル/熊と人間の境界/旅で脳が組み替わる時間感覚/自然は厳しいが最高だった
「1か月ぐらいだっけ?」「そうだね、1か月ぐらい」。最初は、わけわかんないと思うけど、伊豆の—なんかリゾートみたいなところに行ってて。人工のリゾートみたいなとこ、多分そう。家族でね。人工のリゾート。リゾートというか、海沿いにある東急の……そう東急なんだ。部屋から、ベランダに寝るところがあって、そのままプール行けるみたいな。つながってるんだよ。部屋からプール行って、海も行ける。
夜、台風みたいな突風が吹いてきて、昼間は別に天気悪くなかったんだけど、夜だけ台風中継みたいになった。翌日には電車とかバスとか全部止まって、交通も麻痺して陸の孤島みたいになって、もう1泊追加。それからすぐ晴れた。別に特に話すことはない。何かしたわけでもない。ボケっとダラっとしてた。9月上旬で暑かった。音楽聴いて、ビーチで何もしない—あれはいいよね。リゾートは何もしないのが一番正解。何もしないために行く、みたいな。
——本題、札幌。レンタカーを2週間借りて、ステップワゴンみたいな……いやワゴンRみたいな軽自動車。寝袋も持ってって、基本は車中泊。札幌から帯広へ。道東を半時計回りで回った感じ。何も決めないで行けるのがいい。ホテルに着かなきゃいけない“イズ”がない。道の駅も結構ある。北海道はみんな車中泊してる。キャンピングカーが多いけど、俺は営業車みたいなのに寝てた。だんだん面倒くさくなって、最終的には運転席をガタッとやって3秒で寝る。セコマで弁当買って、缶ビール飲んで、そのまま横になる。アウトドアチェアも持ってって、海を見たりもしたけど、基本そんな感じ。身軽で良い。東京で車中泊は人がいて気になるけど、北海道は人がいないから気にならない。カーテンもなくて大丈夫。鹿が夜、近づいてきてうるさいとかはあるけど。百均でブルーシート買って前面だけ囲ったり、日よけしたり。
札幌から帯広へ行くとき、大雪山を通った。森の出来方、風景が本州と全く違う。ちょっとヨーロッパの大陸の山みたい。フィンランドの森みたいな感じ。針葉樹の景色。自然自体が違いすぎる。インフラや国境は日本だけど、自然は違う国みたい。町から少し離れるともう大自然。ポケモンみたいに、森の中からいきなり街が出てくる感じ。道路→街の転換が急。
帯広から太平洋側へ。海沿いは本当にやばい。海と草原しかない、誇張抜きでそれしかない。鹿が道路を占拠してる。帯広の森で野犬に囲まれた。飲酒検問みたいにバーっと囲まれて、リーダー格の犬が「もういいよ」みたいに仕切って、みんな退いてくれた。縦社会がある。朝、帯広の公園—公園って規模じゃない—を散歩したら、リスが100匹ぐらい。カンカン木の実を齧ってて、リスまみれ。白樺の木が基本で綺麗。ゴールデンカムイでリス食ってたのも、まあ分かるぐらいにいる。
そこから東へ。釧路、根室へ。さびれ具合がレベル超えてる。更新されてない感じ。昔は石炭や漁業で発展したらしいけど、ロシアの影響で獲れなくなって……。根室の真ん中を通る道路の先に明治公園があって、道が終わる。「ここで終点」。本当に道路の終点。作るのやめました、みたいな終わり方。明治公園からは2つ道があって、納沙布岬までは行ける。明治公園から左へ行くとオホーツク海ルート、太平洋側に戻るルート、みたいに1ルートだけ。
納沙布岬。国後、歯舞諸島が目と鼻の先。肉眼で見える。ロシアの警備隊の施設も見える。碑がいっぱい。「北方領土を返せ」系の鎮魂の詩や標語。地元の人は、もともと住んでた土地だから切実。超・日本の端っこ。太平洋は何もない。太平洋とオホーツクの境目、半無限。岬へ向かう道の風景がすごい。デスストとブレワイを足したみたいな新鮮風景。自然を形作った人工物が点在する。
走って寝て、寝て起きてまた走るので、エピソードは少ないけど、それが良い。物語とかいらない。最小限の荷物でも意外と余裕。道の駅にサウナがあって、それがめっちゃ良かった。釧路の近く、海沿いの道の駅。サウナから海が見えて、外気浴はビーチ。脳がやられたみたいに最高。貸切、新しいサウナ。
野付半島にも行った。ブレワイの渦巻き半島みたい。先へ進むほど両側の海が迫ってくる。数年で消えるんじゃないか、沈むんじゃないかって言われるほど低い。海が侵食して、枯れ木だらけ—だったけど、その枯れ木すらもう消えつつある。先端まで歩道があって、でも「ここで終わりです」。デスストの世界の空。国後が近くに見える。天気は晴れ。日本の“果て”をAIに描かせたら出てきそうな風景。ゲームみたいに「これ以上先はプレイエリア外」。
紋別にはアザラシの保護施設(とっかりセンター)。流氷の来る場所で、はぐれたアザラシを保護してる。名前の付いた個体がいて、ずっとテレビ見てるおじさんみたいなのもいる。頭が良いらしい。1日走ってサウナに着いて、一体化して寝る。結局、何してたのかよく分からないけど、平均200〜300キロ、5〜6時間、もっと走ってたかも。
家族を旭川空港に送ったあと、「自然はもういいや」と札幌に戻り、エスコンフィールドへ。テーマパーク的。野球を見に行くというより、ご飯を食べに行って、風呂もあって、応援でエンゲージして楽しい。飯は“北海道飯”、ちょっと高いけど旨い。日本ハム関連の店もうまい。野菜も肉も盛んで、飯は間違いない。豚丼は4杯ぐらい食べた。最初の3日間は毎日豚丼。焼き鳥丼(実際は豚)もコンビニで焼いてくれて、めっちゃ旨い。セイコーマートはセーブポイント。ここを逃すと次は100キロ先。ガソリンも半分になったら入れる。ほんとに何もないところがある。
本州では人のいない平地なんてあまりないけど、道東は「誰も助けを呼べないエリア」がある。住めないのかなと思うほど。寒さが厳しくて育てられるものが限られる。帯広あたりは野菜や畜産が見えた。まとめると、何をしてたか? とにかく走ってた。でも楽しかった。時間の流れは長く感じて、2週間が2〜3か月に感じた。東京のことは—忘れてはないけど、日常が遠のく。
新しい場所に行く面白さ、刺激。自由感もあるし、恐怖感もある。みんな車中泊のプロ。キャンピングカー、ハイエース、四駆のルーフテント、いろんなスタイル。アメリカのロードムービーみたいな世界観。ラジオ流して、洗濯して、わがくす……みたいな。金持ってそうな旅人も多い。
岬の草原と崖はめっちゃ綺麗。人がいないから、一人称視点ゲームみたい。世界が終わって走ってる感覚。セコマと郵便局があると「まあまあの街」。郵便局は町の最小単位。誰かが働いていることのありがたさ。ホットシェフは店ごとに裁量があって、ポテトの盛りや味が違って面白い。工場生産的な都心コンビニと違って、その場で作ってる。かつ丼もうまくて涙出た。
走ってばかりでめっちゃ疲れる。札幌に戻って「ニコーリフレ」に入り浸って寝てた。運転中はずっと気が張る。突風や倒木、動物の死骸、穴ぼこ、南米みたいな路面、頭文字Dよりやばいヘアピン……。でも楽しかった。転職前の旅はこれで終わり。10月1日から仕事。
旅中、時間が長く感じるのは、脳の回路が新しい刺激で繋ぎ直されるからだと思う。社会人1〜3年目は長く、4〜6年目は加速する、みたいな。新しい会社・書類・人間関係で回路が変わると時間が濃くなる。感受性を張り続けるのはストレスでもあり、幸福でもある。ずっと感受性MAXだと壊れる。たまの旅がちょうどいい。長すぎる旅は逆効果で幸福度が落ちるかも。後半「札幌行かせてくれ」ってなったし。羽田に戻って東京の景色を見たら涙が出た。けど2〜3か月いたら慣れてしまう。人間は慣れる。脳は効率化する。
ネットとの距離感も変わる。旅先でネットを見ると「どうでもいい」感じになる。自分の影響範囲に集中した方がいい。田舎の人のほうがネットに張り付いてる説もあるけど(暇な時間があるから)、根室の銭湯で漁師たちがクラゲの出方とか病気の話をしてるのはリアルだった。フリーランスに近い働き方。量の時期の総額は決まってるかもしれないけど、裁量はある。
一次産業の人たちは嫉妬とか少なそう。目の前のことに全集中。承認欲求も満たされていそう。海=“もの”の世界。情報産業じゃないフィジカル。人間のからくり的にはベタだけど合ってるのかも。幸福そうだった。羅臼は金持ってそうな雰囲気。昆布や加工でうまくやってるのかも。知床の観光船は波が高くて引き返した。あの半島は船じゃないと行けない先端もあって、海から見ると威圧的な自然。人間が住める場所じゃない。熊も多い。
公園の掲示にも「熊出没」。人間のための公園じゃなく、熊のための公園。北海道全域は熊の生息地。森に一人で入るのはやばい。猟友会の人たちは犬を連れてプロの装備。モンハンみたい。出会ったら神に祈るレベル。頭を抱えてワンチャン生き延びる、みたいな世界。銃でもすぐは止まらない。
——自然は厳しい。北海道は厳しい。だけど、最高だった。