71,12月21日 月曜日 16時58分 金沢北署
Update: 2020-06-17
Description
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「俺がですか?」
捜査本部の隅で携帯電話を手で覆うようにひそひそ声で話す岡田の姿があった。
「…わかりました。で、俺はどこに行けばいいんですか。」
岡田は部屋の壁に向かってボソボソと話し、電話を切った。
「誰だ?」
背後から声が聞こえた。岡田が振り返るとそこには松永がいた。
「り、理事官。」
「こそこそやってんじゃねぇよ。」
そう言って松永は岡田の腕を掴んだ。
「おい。お前らこいつみたいにこそこそやってたらただじゃ済まさんぞ。」
松永は岡田の腕を決めて彼に膝を付かせた。
「お仕置きだ。こっち来い。」
松永は岡田をしょっぴくように捜査本部から出て、別室に彼を連行した。
別室に入るなり松永は掴んでいた手をそっと離した。そして岡田に席に着くよう指示を出した。
「片倉か。」
「はい。」
「奴は今どこまで進んでいる。」
「はい。片倉課長はアサフスの張り込み、古田警部補は金沢銀行の張り込みといった具合です。」
「なぜ張り込む。」
「佐竹と赤松の身の安全を確保するためかと。」
「そうか。」
松永は突如として部屋にあるテーブルや椅子を壁に向かって投げつけた。そのため大きな物音が部屋中にこだました。
「ばかやろう〓︎クズが何やってんだ〓︎おめぇのような奴がいると全体の士気に影響が出るんだよ〓︎」
「申し訳ございません〓︎」
「何度言えば分かるんだ〓︎俺はな、隠し事をする奴が一番嫌いなんだよ〓︎」
「理事官…申し訳ございません〓︎この通りです〓︎ぐはっ…」
こっそりと二人の後をつけて部屋の外から聞き耳を立てていた関は、突然鳴り響いた怒号と物音に身をすくめた。その様子が部屋のキャビネットに潜ませた監視カメラのモニターに映し出されていた。
「あのなぁ。腕の一本や二本折らないとわかんねぇのかな。」
「やめて…下さい…。」
「オラァ〓︎」
「うぎゃあああああ〓︎」
室外にこだまする岡田の悲鳴に関は顔を背けて、その場から立ち去った。それをモニターで確認し、二人は続けた。
「おらぁ〓︎これでもか〓︎これでもか〓︎」
「すいません〓︎助けてください〓︎」
お互いが笑みを浮かべながら怒号を発する様は、誰かが見れば何かのコントをやっているようにも思える滑稽さだった。
「行ったな。」
「はい。」
二人は笑いを堪えた。
「この通りだ。関は何かと俺に探りを入れてくる。俺はあくまでも気が狂った捜査官。これを通さないと全部がぱあだ。」
「心中お察しします。」
岡田は今にも吹き出しそうな表情で松永に答えた。
「で、お前はこれから何をやる。」
「古田警部補の車を金沢銀行まで届けます。」
「そうか、しかし、片倉と古田の2人であの2人の身の安全を図るってのはちょっと無理があるな。」
松永は携帯電話を取り出してどこかに発信した。
「お疲れさまです。松永です。…ちょっとお力を貸して頂きたいんですが。…ええ、あと少しです…。ええ…はい…。腕っ節の強い素直な人員をよこしてくれませんか。もちろん秘密を守ることができるあなたのお眼鏡にかなった人員です。…警備部ですか…。警備部もあっちの息がかかった奴がいると思うんで…ちょっと…。ええ、はい…。ああ…そうですか。なるほど…。わかりました。ではそのようにさせていただきます。ええ…それじゃあ十河にはそちらからお伝えください。こちらはこちらで対応します。」
こう言って松永は電話を切った。
「岡田。頼まれてくれないか。」
「なんですか?」
「古田の代わりに佐竹の警護をしてくれ。」
「は?」
「古田と片倉には捜査を詰めてもらわないといけない。あいつらが警護をやっていると身動きが取れなくなる。だから、あいつの車を渡す時にそのことを古田に告げてくれ。」
「は、はい…。しかし、誰からの命令でと言えばいいんでしょうか。」
「本部長と言っておけ。」
「本部長って、朝倉本部長ですか?」
松永は呆れた顔で岡田を見る。
「お前らの本部長は朝倉本部長以外に誰がいるって言うんだ。」
「まさか、今の電話は…。」
「そうだよ。朝倉本部長だよ。」
「本部長もご存知なんですか。理事官のこと。」
松永は頷いた。
「いいか岡田。今が踏ん張りどころなんだ。明日の朝にはガサを入れる。それまで耐えてくれ。」
松永はこう言うとモニターに目をやった。関が再び様子を伺いに来たようだ。松永は岡田を見ると彼は頷いてその場に横たわった。
「失礼します。」
関がドアを開くと息を切らして髪を振り乱した松永が目の前にあった。視線を落とすと彼の足元にうずくまって唸っている岡田がいた。関は岡田のそばに駆け寄って彼の身を起こした。
「せ、関さ…ん…。」
岡田は酷くえづいた。
「おい、しっかりしろ〓︎」
「ああ、関…。こいつはダメだ…。こいつは今後、出入り禁止だ…。」
「り、理事官…ちょっと…やりすぎでは…。」
「ああぁん〓︎」
松永の凄まじい形相に関はたじろいでしまった。
「お前、いまビビったろ。あ?ビビったろ〓︎」
詰め寄る松永に関は腰を抜かしてしまった。
「そんなだから熊崎からロクな情報も引っ張れないんだよ〓︎」
この松永の叱責に関の動きが止まった。
「何だ関。」
「お前のせいだ…。」
「あ?」
「お前のせいだ松永〓︎」
岡田をそっと横にした関は立ち上がって松永に詰め寄った。
「あんたのせいで俺は捜査から外された。」
「は?」
「仁熊会に聴取に行ったせいでお呼びだしですよ〓︎」
松永は首を傾げた。
「お前なに言ってんの?」
「俺の人生ももう終わりだ…。」
「おいおい、どうしたんだよ関。」
「さっき察庁から連絡がありました。」
「何て?」
「捜査は県警に任せて我々に撤収せよと。」
関のこの言葉を受けて松永は密かに口元を緩めた。
「本日18時をもって察庁スタッフは撤収。以降、朝倉本部長が指揮を取ります。」
「…俺もか?」
関は歯を噛み締めて拳を握りしめた。
「いえ…松永理事官は朝倉本部長の指揮の下、引き続き帳場で捜査されたしとのことです…。」
「そうか…。」
松永はそう言うと関の肩を軽く叩いた。
「お疲れさん。」
「何でですか…理事官…。何で、俺が外されるんですか…。」
関の肩越しに松永を見ていた岡田は唖然とした表情で2人を見ていた。
「お前が宇都宮の間者だからだよ。」
「な…。」
「心配すんな。お前に直接的なお咎めはない。お前みたいなエリート官僚はエリートらしく本庁で背広着て仕事してろ。」
「あ…。」
「でもな、派閥抗争に肩入れすんのはよろしくねぇぞ。警察ってのは常に公正中立の立場にたって行動せねばならん。まぁお前も運が悪かったんだ。何かとちょっかいを出す宇都宮なんかに気に入られちまったからな。」
「り、理事官…。」
「でもな、そこで断る勇気が必要だった。会津神明館にもあるだろう。ならぬものはならんって。法も大事だが、その立脚するところの個人の良心ってもんに従う従順さをお前は見失った。そうなったら警察はお終いだよ。」
関は言葉を失った。
「人間誰しも強いものには弱い。それは何故か分かるか。」
「…い、いえ…。」
「相手が強いから自分が弱いんじゃない。自分が弱いから相手が強く見えるんだ。」
「自分が弱い…。」
「だから自分を強くもたなければならない。その強さの源泉はすべて意思からくる。」
「意思…。」
「お前には意思が足りなかった。だから宇都宮の圧力に屈せざるを得なかった。」
松永は自分に携帯を取り出してその中にある一枚の写真を表示し、関に見せた。
「こ、これは…。」
「大きな荒波が打ちつけてもびくともしない意思を持つのは並大抵の人間にはできない。しかしそれを実現させる重要な要素がある。」
関は松永から手渡された携帯電話を持って、その写真を食い入るように見た。岡田も横からそれを見た。彼も関同様、衝撃を受けた様子だった。
「仲間だ。」
表示される写真には松永と方を組んでいる複数の男たちがあった。松永の隣には一色の姿があった。
「年齢こそ違うがあいつは友だ。あいつが連続殺人を行うなんてあり得ない。俺はそう確信している。」
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