ボイスドラマ「セカンドチャンス〜もうひとつのNBA」

ボイスドラマ「セカンドチャンス〜もうひとつのNBA」

Update: 2025-07-25
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Description

忘れ物を届けた先にあったのは、過去の自分だった——。セントレア空港で働くルイ(28歳)は、ロスト&ファウンドでNBA選手のボールを預かる。持ち主は、プロ入り4年目・未だ無得点の控え選手エバン・ヒーロー。夢を諦めかけたふたりに訪れた、「セカンドチャンス」とは?

・高浜市×セントレア×NBA・感動のクライマックスはまさかのゴール下!

バスケ経験者にも、そうでない人にも届けたい、再出発の物語。

(CV:山崎るい)

【ストーリー】

<『セカンドチャンス』>

主人公・ルイ(28):セントレア空港のロスト&ファウンド係。几帳面で冷静、でも実は学生時代バスケ部でNBAの大ファンだったがインターハイ予選の決勝でセカンドチャンスを外して敗退。それがきっかけでトラウマに。

エバン・ヒーロー(24):NBAのベンチメンバー(補欠)。来日試合のためにセントレア経由で入国。誰よりも努力家だが入団以来公式戦で得点がない。日本が嫌い

[シーン1:インターハイ決勝のトラウマ/2015年8月高浜市体育館(碧海)】

◾️SE:会場の大歓声

「ルイ、スクリーン!」「OK!」

2015年5月30日。

その日、碧海町の高浜市体育館は、熱狂的な歓声に包まれ、

シューズの摩擦音が響いていた。

インターハイ予選決勝、残り時間はあと10秒。

1点ビハインドで迎えた、九死に一生の場面。

ポイントガードが

インサイドに切れ込むセンターのミサキにパスを送る。

だが、相手チームの厳しいディフェンスがミサキのシュートを阻んだ。

ボールはリングに嫌われ、無情にもリムを叩いて転がっていく。

その瞬間、私は無意識に動き、ルーズボールに飛び込む。

「ルイ!今よ!セカンドチャンス!」

視界の端に、赤く点滅するショットクロックが見えた。

もう時間がない。

拾い上げたボールを抱え、私は迷わずドライブを仕掛ける。

マークについていた相手フォワードをクロスオーバーで抜き去り、ゴール下へ。

ノーマークだ。

誰もが私のシュートが決まることを確信した。

しかし、放たれたボールは・・・

◾️SE:会場のためいきと大歓声

実況アナウンサーの絶叫が、耳に突き刺さる。

ボールはリングに弾かれ、無情にもアウトオブバウンズ。

その瞬間、試合終了を告げるブザーが、私の心を打ち砕いた。

鼓膜から歓声は消え去り、

凍り付いた時間の中でコートは静まり返る。

チームメイトの慰める声も私の耳には入らない。

ベンチから歩いてくる監督は、作り笑顔の中に落胆した表情が隠せない。

この日を境に、私の心からバスケットボールという言葉は消えた。

あんなに好きだったNBAの試合ですら怖くて見れない。

高校最後の初夏が、私の一番好きなものを奪っていった。

[シーン2:中部国際空港セントレア】

◾️SE:空港のガヤ

「え?忘れ物?

もう〜。帰ろうと思ったのに」

あれから10年後の2025年。

私は高浜から毎日車でセントレアへ通う。

中部国際空港・第1ターミナル1階 総合案内所裏「遺失物取扱所」

通称“ロスト&ファウンド”。

それが私の職場だ。

ガラス越しに見える滑走路と、遠ざかっていく白い機体。

カウンターの奥、仕切られた一角で私は丁寧にグローブをはめた。

目の前の“拾得物預かり票”にボールペンで書き込んでいく。

国内線112便・到着ロビーC付近で拾得。品目・・・

・・・ボール?

え?

ロスト&ファウンドに普段届くのは、財布やスマホ、書類がほとんど。

スポーツ用品が届くのは珍しい。しかも・・・

このサイズ、この形状、このカラーは・・・バスケットボール。

一目見ただけでわかる。

プロ仕様のバスケットボールだ。

深いオレンジ色の革には、使い込まれた証拠の擦れ。

かすかに汗の匂いが染み込んでいる。

「・・・まじか」

ためらいながら、手を伸ばす。

手のひらで感じる感触。

顔を近づけたとき、微かに漂う皮の匂い。

記憶の奥底に封じ込めたはずの感情が、ふいに呼び覚まされる。

ボールのパネルには、筆記体で「E. HERO(イー・ヒーロー)」と刺繍されていた。

その下には、見慣れない猛禽類のマークが縫い付けられている。

どこかのチームロゴだろうか。

高校のとき、あんなに夢中だったNBA。

10年という歳月は、私をここまでバスケから遠ざけちゃったんだな。

名前まで入れて・・

よっぽど大切にしていたボールなんだろう。

なんとか返してあげなくちゃ。

全然気にもとめなかったけど、

何チームかエキシビジョンマッチで来日していたらしい。

「イー・ヒーロー・・・?どっかで聞いたような・・」

その名前が、私の頭の中をかすめた。

ベンチメンバーにそんな名前の選手がいたような・・・

でも、NBAの選手がこんな大事なボールを忘れるか・・・?

[シーン3:ルイの自宅】

◾️SE:自宅の雑踏/ノンアルコールビールを注ぐ音

その夜、私はノンアルコールビールを飲みながら自宅のパソコンで名前を検索した。

(だって私、お酒飲めないんだもん)

検索窓に「E・ヒーロー ・・」と打ち込むと、

「エバン・ヒーロー?」続けて「0(ゼロ)」と表示される。

なにこれ?

ヒットした記事はどれも、彼の短いNBAキャリアと、

ベンチウォーマーとしての不遇な日々を報じていた。

出場機会はほとんどなく、コートに立っても数分で交代。

シュートを放つチャンスすら滅多にない。「garbage time」に少しだけコートに出させてもらっても

パスを回すだけでシュートを打たせてもらえない。

シュートを打ってもプレッシャーから外してしまう。

エバンの公式プロフィールには「キャリア通算得点:0」という数字が、

冷たく刻まれていた。

なんか、私みたい。

胸の奥が締め付けられるような共感を覚える。

高校最後の試合。

1点のビハインドをひっくり返せるはずだったセカンドチャンス。

得点は、2ではなく、0。

あの日から私はずっと「0」という数字に追いかけられていた。

彼もきっと誰にも理解されない孤独な戦いを続けてきたのだろう。

エバンのボールは、ただの遺失物ではない。

それは、私自身のトラウマを映し出す鏡のようだった。

[シーン4:エバンの泊まる衣浦グランドホテル】

◾️SE:空港の雑踏/朝のイメージ

遺失物取扱所に並べられた、拾得物預かり票。

ロスト&ファウンドの係員として、遺失物の処理には厳格な手順があった。

遺失物法に基づいて、拾得物は警察に届け出る。

公示された後、一定期間、通常は3ヶ月、持ち主が現れなければ、

拾得者のものとなるか、国庫に帰属。

国際空港で拾得された場合は、税関や出入国在留管理局との連携も必要になる。

通常の手続きを踏んでいたら、間に合わない。

エバンが日本に滞在している間に、ボールが彼の元へ戻る可能性は限りなく低い。

彼のチームが日本にいるのは数日間。

その間に手続きが完了するのは極めて難しい。

どうしよう・・・

気がつくと、私はエバンたちが宿泊するホテルの前に立っていた・・・


※続きは音声でお楽しみください。

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