ボイスドラマ「川底の龍宮〜飛騨高山を舞台にしたもうひとつの平家物語」
Description
かつて壇ノ浦で海に沈んだ幼帝・安徳天皇――。
その魂が、千年の時を超え、飛騨の山奥で再び目を覚ます。
少年「龍(りゅう)」と、謎の少女「沙羅(さら)」。
八百比丘尼・時子とともに暮らす静かな隠れ里に、
源氏の怨霊、義経が三種の神器を求めて現れたとき、
飛騨川の底に眠っていた“竜宮城”の扉が開く――。
これは、忘れられた命をつなぎ、記憶を継ぐ者たちの物語。
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」――。
【ペルソナ】
・龍(リュウ=5歳)=一之宮町に母とともに住む少年(CV=小椋美織)
・沙羅(サラ=8歳)=ある日突然龍と沙羅のもとに現れた少女/実は安徳天皇の生まれ変わりで飛騨川の底にあるという竜宮城の主(CV=小椋美織)
・時子(トキコ=乳母)=位山で龍を拾い、育てる乳母/実は平家の菩提を弔い続けるため八百年以上生きている比丘尼で平家の落人(CV=中島ゆかり)
・義経(怨霊)=平家を滅ぼした源氏の大将。冷酷非道な性格(CV=日比野正裕)
【プロット】
主人公は、5歳の少年・龍。龍は位山の山中に捨てられていた男の子です。彼を拾って、育てているのは時子。彼女は実は「壇ノ浦の戦い」で安徳天皇を抱いて入水した二位尼でした。時子は海中で誤って人魚の肉を食べて死ねなくなり、源氏の追っ手から逃れて飛騨の隠れ里へ住み着いたのです。時子は八百比丘尼となり、平家の霊たちを弔いながら聖地位山の麓にある神社に密かに参拝を続けました。人知れず隠れ里で何百年も暮らしていた時子は、龍をみた時に安徳天皇の生まれ変わりのように感じてしまいます。時子は二度と消えぬよう拾った赤子に「龍」という名前をつけて「呪」をかけます。そのまま人里離れて暮らす隠れ人でありながら龍を育てることにしたのです。そんな時子と龍のもとの隠れ里に、道に迷った少女、沙羅がやってきます。2人は沙羅を里へ送り届けます。隠れ里は人間にはわからぬよう結界を張っていたのですが、沙羅は簡単にその中へ入ってきました。龍と時子の幸せな日々も長くは続きません。壇ノ浦で平家を滅ぼした義経を首領とする源氏の亡霊たちが、平家がその身とともに海中に沈めた三種の神器を求めて隠れ里へやってきたのです。義経は壇ノ浦の戦いで、平家の水夫や舵取りを狙って射殺すという非道な戦術をとった源氏の総大将。義経の亡霊たちにおわれ、飛騨川の崖まで追い詰められる龍と時子。そのとき、亡霊たちの前に立ちはだかったのは、沙羅。沙羅はなんと安徳天皇の生まれ変わりで飛騨川の底にあるという竜宮城の主だったのです。
【資料/飛騨川の人魚伝説(八百比丘尼・かいだん淵)】
https://school.gifu-net.ed.jp/mseifu-hs/school_life/gakusyukatudou/img/h27tiiki/h27.12report10.pdf
【資料/平家物語/壇ノ浦の戦い】
https://shikinobi.com/heikemonogatari-2
【資料/安徳天皇女性説の背景】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonbungaku/51/7/51_KJ00009752636/_article/-char/ja/
[シーン1:時子の朗読〜平家物語/巻第十一】
◾️SE:琵琶の音色
祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり〜
「尼ぜ、我をばいづちへ具して行かむとするぞ」
「波の下にも都の候ふぞ」
かくして、建礼門院の生母・二位尼は幼い安徳天皇を抱いて入水。
三種の神器(草薙剣と八尺瓊勾玉)とともに壇ノ浦へと身を投じたのです。
「いやだ!帝はどうなっちゃったの?」
「そうねえ。
ひょっとしたら、海の底に本当に都があったかもしれないわ」
「竜宮城?」
「それは違う話でしょ(笑)」
今日もかあさまの話を聞く。
いつも同じ話だけど、これは弔いの話だそうだ。
なに?それ?とむらい?よくわかんない・・・
[シーン2:位山の山中〜隠れ里の近くの分水界】
◾️SE:森の中を歩く音
「ちょっとすみません」
「え?」
「ここ、どこですか?」
森の中、いきなり声をかけられて驚いた。
かあさまと暮らしている位山の隠れ里。
いつもの場所で山菜摘をしていたときだった。
「道に迷っちゃって」
小さな女の子。
小さな、といってもボクよりは大きい。
小学生だよなあ、きっと。
「帰り道、教えて」
「ここは位山だよ。どこから来たの?」
「海の方」
「海?
ここらに海なんてないよ。湖?」
「ううん。西の方にある海」
なんか、へんな子だなあ。
着ている服はキレイだけど。
ボクはかあさまから言われていたことを思い出した。
ここは隠れ里だから人には出会わない。
万が一、人に出くわしても話をしてはいけない。
出会ってるじゃん。
話もしちゃった。ちょこっとだけど。
「道のあるとこまで連れってってよ」
「わかった」
「あんた、名前は?」
「龍」
「リュウ。いい名前ね。アタシはサラ」
「サラ?」
「沙羅双樹のサラ。娑羅双樹の花、って知らない?」
「知らない」
「夏ツバキのこと」
「へえ〜」
「白くて綺麗な花よ」
「そうなんだ」
「あんた、いくつ?」
「5歳」
「・・・から数えていない」
「どういうこと?」
「かあさまが、それ以上歳をとらなくていいって」
「ふうん。
じゃあ5歳からどのくらい経ってるの?」
「わかんない」
「そうなんだ。まいいわ。アタシは8歳よ。
お姉さんね」
「8歳・・」
「どこに住んでるの?」
「ここだよ」
「ここ?」
「位山」
「位山って・・・御神体じゃない」
「そうだよ。
だから隠れ里に・・」
「隠れ里?」
「な、なんでもない。
そ、それより沙羅は、ここでなにしてたの?」
「人を探してたの」
「人?だれ?」
「おばあさまよ」
「おばあさま?
ここらにいる女の人は、かあさまくらいしかいない」
「そう。まあいいわ。
生まれたときからここで暮らしているの?」
「違うよ。
ボク、生まれてすぐ、山の中に捨てられていたんだって」
「えっ」
「それをかあさまが見つけて育ててくれたんだ」
「そうなの・・」
「だれだかの生まれ変わりだって言って」
「生まれ変わり?」
「ボクには姉さまか兄さまがいたんだよ、きっと」
「そうかあ」
◾️SE:森の中を歩く音
「さ、ここまで来ればわかるでしょ。
すぐそこが奥宮の鳥居だから。
沢伝いに降りていけば大きな道に出るよ」
「ありがとう。
またどこかで会いましょ」
そう言って沙羅はスタスタと森の中を降りていった。
でも、不思議だなあ。
こんな山の中でおばあさまを探してたなんて。
おばあさまってなにものなんだろう。
[シーン3:龍の家〜隠れ里の中の古民家】
◾️SE:虫の声とフクロウの鳴き声
「迷いびとだって?」
「うん。不思議な女の子だった」
「どうやって、この結界に入り込んだのだろう」
その晩、かあさまに沙羅のことを話した。
かあさまはすごく気にして、ずうっと考え込んでた。
隠れ里には結界が張ってあるから、人間には絶対に見つからない。
ずうっとそう言ってたからだ。
言わなきゃよかった。
お腹減って死にそうだよ。
ボクのお腹がぐうと鳴るのを聞くと
かあさまはすぐに晩御飯を作ってくれた。
摘んできたワラビやゼンマイを茹でて塩をふる。
美味しいんだなあ、これ。
あとは干した魚と玄米ご飯。
かあさまが作る御飯は、びっくりするほど美味しいんだ。
「明日、その子に会ったところへ案内しておくれ」
「うん。いいよ」
やった。
明日はかあさまと一緒に山菜摘だ。
かあさまはいろんなことを知っているから、いっぱい教えてもらおう。
ずっと黙り込んでたけど、ボクが笑いかけるとかあさまもニッコリ微笑んだ。
[シーン4:位山の山中/分水界】
◾️SE:遠くに小鳥のさえずり
「今日はやけに静かだこと」
位山の隠れ里は、飛騨川と宮川を分ける分水界。
かあさまは、ここから宮川へ流れる水の道に沿って結界があると言った。
ボクたちの気の流れも北へ、日本海へ向かっているのだと。
いつものように、かあさまに手をひかれて歩き出す。
そのとき、森の中の木々がざわめいた。
イチイの木の間を、突き抜けるようにそびえる大木・・・
「ビワ・・?」
位山にビワなんて、あったっけか?
かあさまは、ボクの手をぎゅっと握る。
「離れてはなりませぬ」
10mを越えようかというビワの根元。
その声は地中深くから響いてきた。
「ようやく見つけたぞ」
「尼御前。時子」
「き、きさま!」
かあさまの声に煽られるように、
ビワの木のむくろから見るもおぞましい怨霊が姿を表した。
「壇ノ浦から遠く飛騨の里までか。よくぞ逃げ延びたものじゃ」
白旗を持った武士の怨霊たち。
その先頭に立つのは・・
「義経!」
「いまは八百比丘尼だと」
冷酷な表情でかあさまの頭の中から何かを探っている。
「とうに八百年は過ぎているじゃろうに」
「なにを血迷うて、ここまで来た!?」
「神器」
「なんだと」
「神器を返してもらおうぞ」
「われらとともに壇ノ浦の水底に沈んでおるわ」
「では・・」
そう言って、義経の怨霊は僕の方を見る。
かあさまはあわてて僕を後ろに隠す。
「それは帝の代わりか」
片方の口の端をゆがめて醜く笑う。
「そやつをもらっておこうぞ」
「おのれ!義経!」
※続きは音声でお楽しみください。