Discoverメタ認知の智層第91回「令和6年重要事件!労働判例5つを解説!」
第91回「令和6年重要事件!労働判例5つを解説!」

第91回「令和6年重要事件!労働判例5つを解説!」

Update: 2025-12-11
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今回は令和6年度に出された判例、命令より重要なものをピックアップしてお届けします。

令和6年には122件が労働判例としてあげられています。

「事業場外労働」や「転勤」、「労災」など、働く人なら知っておきたいトピックばかりです。少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、わかりやすく噛み砕いて話していこうと思います。

1.協同組合グローブ事件

要旨:外国人技能実習生の指導員に対する事業場外労働のみなし制度の適用。

事業場外労働のみなしとは、事業者が働いた時間を把握することが難しい場合に、必要な時間は働いていたことにできる制度。

この判例では、労働者が提出した労働日報を根拠に、実際に働いている時間が法定労働時間を超えているとして、未払いの残業代を請求した。1審では業務日報をもとに労働時間の算定が可能であると判断されため、不服として再審を求めた。

詳細:

・実習担当者として、技能実習生の渡航の相談対応、実習状況の確認、生活指導、来日時の送迎、トラブルへの対応、通帳の作成補助、病気、ケガなどへの対応など業務が多岐にわたっていた。

・業務日報には行先や業務内容だけでなく、面談内容などを詳細に記載していた。

労働者は、訪問の予約などのスケジュールは自分で管理していた。

・休憩時間や現場からの直帰も認められ、会社から逐一の報告指示を受けていなかった。

・会社では日報をもとに労働時間の把握ができた場合には残業手当を支払っていた。

判決:会社が労働時間を算定し難いと判断するかを、きちんと審理するために原審に差し戻した。

2.滋賀県社会福祉協議会事件

要旨:福祉用具の修繕、製作を業務とする労働者が同意なく総務課に移動となった。労働者は業務内容を限定して採用されていたため、配置転換に関して権限がなかった。移動に関する辞令が権利の乱用であるとして損害賠償を請求した。

詳細

・福祉用具のセミオーダー化に伴い、10年間で100件から5件以下に受注件数が減っていた。

・法人は年間数件しかない受注に35万円の月給が見合わないと判断した。

・法人は福祉用具の制作を中止し、県から承認を得た。

・1審、2審では経営状態を鑑みて、客観的合理性があるとして、権利の乱用に当たらないと判断した。

判決:労働者と使用者との間で、職種や業務内容を特定のものに限定する合意がある場合は、個別的同意がなければ移動や配置転換を行う権利を有しないと判断し、違法であるとした。

3.あんしん財団事件

要旨:メリット制適用の事業者の労災支給の取り消しを求めた事案。

労災保険料は、労働災害は少ない事業者の保険料率を下げて、労働災害が多い事業者の保険料率を引き上げるメリット制が適用される。

事業者はメリット制の適用により、労災保険料率が引き下げられていた。

労働者が精神疾患を発症し、労基署が療養補償給付、休業補償給付の支給決定をした。

事業者は、労働保険料の引き上げをされると負担が大きくなるとして、労災給付の支給決定取り消しを求める請求をした。

詳細:

・1審では、労災給付の支給決定により労働保険料額が増大し、事業者に直接的な不利益が生じるおそれもあることから、事業者の支給決定取り消しを求める権利を認めた。

・精神疾患に関する労災の支給処分は申請から支給決定が確定するのに、長い時間を要し、業務起因性に関しても証拠が固まるまで何度も審理が必要。

・労災補償の目的は労働者の迅速かつ公正な保護であり、労働保険料確定の要素と判断するまで待てない。

判決:労災の支給決定が、すぐに労災保険料に反映されるものではないため、取り消しの請求は認めないとした。

4.山本サービス事件

要旨:住み込み家政婦兼介護ヘルパーの労基法違反

訪問介護及び家政婦紹介の会社から訪問介護員として派遣されていた労働者が7日にわたり住み込みで家事、介護に従事した。

退勤後、急性心筋梗塞にて死亡したため、遺族が労災請求を行ったが、不支給となったため審査請求をした。1審では家事使用人に該当すると判断されて棄却されたが、2審で処分が違法であるとした。

詳細:

・介護家事業務に雇用契約書が締結されていなかったが、求人票兼労働条件通知書には介護、家事業務で合わせて日給16000円とされていた。

・労働条件は家事、介護を含めて4時間の家事業務と2時間おきの介護業務とされていたが、実際は午前4時半には起床し、おむつ交換や家族の食事の準備、掃除洗濯を行っており実労働時間は15時間ほどであった。

・深夜にもおむつ交換の必要があるため、連続して休息をとることが難しい状態であった。

労働者には専用の休憩室などは与えられず、手待ち時間は台所の椅子に座り、介護の合間にベッドの横に布団を敷いて休んで過ごしていた。

判決:労働条件が違法なものとして、遺族の労災請求を認めた。

5.AGCグリーンテック事件

要旨:社宅制度の適用における差別

女性従業員が、総合職だけに社宅の利用を認めていることを男女雇用機会均等法に違反するとして、社宅の賃料に相応する損害賠償の支払い、男女差別に関する不法行為、慰謝料の支払いを求めた。

詳細:

・社宅制度の適用を受ける営業職への応募が女性からの応募が少なかった。待遇の格差が性別ではなく業務に起因するとして直接差別には当たらないとした。

・会社は女性が入社した際は、一般職。男性は総合職と振り分け、一般職と総合職の職種転換制度はなかった。

・社宅制度の適用が経済的格差につながり、業種ではなく、職種として総合職と一般職を分けていることに合理性は認められない。

判決:福利厚生を職種で区別すべきでない旨の指摘があったが、是正されなかったことによる精神的苦痛の訴えの正当性を認め、慰謝料50万円と弁護士費用の支払いが命じられた。

フリートーク

特に今回の「転勤」や「社宅」の話なんかは、人事制度を作る側としても、働く側としても、しっかり知っておかないといけないポイントだったと思います。

今回の参考書籍は最近の判例を凝縮したものなので、トレンドを抑えるという意味では有用ではあるのですが、さすがに全部を把握するのは厳しいです。

去年の対策模試や予備校の予想問題集では滋賀県社協の事件をピックアップしていることが多かったので、メジャーなものや、ポイントを意識して把握しておくといいかもしれませんね。

参考資料 労務行政研究所

2025年年間労働判例命令要旨集


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