Ep.752 さよならCrucial、Micronが消費者向け事業から完全撤退──AI特需の影で消える「自作PCの友」(2025年12月11日配信)
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本日は2025年12月7日、日曜日です。自作PCを愛するすべてのリスナーにとって、今週は少し寂しい、そして時代の大きな変化を痛感させられるニュースが飛び込んできました。
米半導体大手のMicron Technologyが、12月3日にプレスリリースを発表し、同社の消費者向けブランドである「Crucial」事業から撤退することを明らかにしました。検索エンジンやテック系メディアの情報を統合すると、Micronは2026年2月(同社の会計年度第2四半期末)までに、小売店やオンラインショップへのCrucialブランド製品の出荷を完全に終了します。つまり、あの馴染み深い青や銀のパッケージに入ったメモリやSSDが、市場から姿を消すことになるのです。
なぜ、これほど人気のあるブランドを終了させるのでしょうか。その理由は、あまりにも強大すぎる「AI需要」です。
現在、世界のデータセンターでは生成AIの学習や推論に使われるAIサーバーの増設競争が続いています。そこで最も不足し、最も高く売れるのが、NVIDIAなどのAIチップとセットで使われる「HBM(広帯域メモリ)」です。
Web上の詳細な分析によると、Micronの2025年度のデータセンター向け収益は前年比50%増と急成長しており、特にHBM3Eなどの最先端メモリは2026年分まで完売状態です。一方で、消費者向けのDRAM市場はコモディティ化が進み、薄利多売の激しい競争に晒されています。Micronは、限られた工場の生産能力(ウェハの割り当て)を、利益率の低いCrucial製品から、爆発的な利益を生むHBMや企業向けSSDへと「全振り」する決断を下したのです。
競合であるSamsungやSK Hynixも同様にエンタープライズ向けを優先していますが、消費者向けブランドを完全に消滅させるというMicronの決断は、業界内でも際立ってラディカルです。これにより、コンシューマー市場における選択肢が減り、メモリ価格の上昇や、残ったメーカーによる寡占化が進むことが懸念されます。
かつて「Lexar」ブランドを手放した時と同様、Micronの経営判断は非常に冷徹で合理的です。しかし、初めて自作したPCにCrucialのメモリを挿した思い出を持つ多くのユーザーにとっては、一つの時代の終わりを感じさせる出来事となりました。AIという巨人が、PCパーツショップの棚の風景までも変えてしまったのです。




