Ep.765 GigaTime、誕生──病理画像から「未来の時間」を予測するMicrosoftの医療AI(2025年12月11日配信)
Description
「AIは、患者さんの『残された時間』や『治療の未来』をどこまで正確に見通せるようになるのか」──そんな医療の核心に迫る技術が、Microsoftから発表されました。その名は「GigaTime」。以前、この番組でも取り上げた病理学向けAI「GigaPath」の進化系とも言えるモデルです。
Microsoftは、米国のワシントン大学、そして大手医療機関であるProvidenceとタッグを組み、がん患者の病理組織スライドから、その後の経過を予測する画期的なAIツール「GigaTime」を開発しました。
これまでの医療AIの多くは、「これはがん細胞か、否か」あるいは「どのタイプのがんか」といった、現在の状態を診断することに主眼が置かれていました。しかし、今回登場したGigaTimeが目指したのは、その一歩先、「時間」の予測です。専門的には「Time-to-Event(イベントまでの時間)」分析と呼ばれますが、簡単に言えば、その患者さんが標準治療に対してどれくらいの期間で耐性を持ってしまうのか、あるいは遺伝子変異がどのように進行していくのかといった、将来のタイムラインを予測するのです。
この開発を可能にしたのは、Providenceが提供した大規模な実世界のデータです。実際の診療現場で得られた数万件にも及ぶ病理スライドと、それに紐づく長期的な臨床記録をAIに学習させることで、GigaTimeは従来のモデルを大きく上回る予測精度を達成しました。
技術的な基盤には、スライド全体をくまなく解析できる「GigaPath」の能力が使われています。人間の医師が顕微鏡の一部を注視するように見るのに対し、AIはスライド全体にある何十億というピクセルから、微細な細胞のパターンや周辺組織との関係性を読み解き、そこから「予後」に関するヒントを見つけ出すのです。
この技術が実用化されれば、医師は患者さん一人ひとりに合わせて、「この薬はあなたには効きにくいかもしれないから、早めに別の治療法を検討しましょう」といった、より精度の高い個別化医療(プレシジョン・メディシン)を提供できるようになります。
AIが単なる「画像の分類係」から、医師と共に患者さんの未来を考える「パートナー」へと進化を遂げつつある。GigaTimeは、そんな医療AIの新しいフェーズを感じさせる技術だと言えるでしょう。




