Discoverヒダテン!ボイスドラマボイスドラマ「梅花藻/後編(飛騨一之宮編)」
ボイスドラマ「梅花藻/後編(飛騨一之宮編)」

ボイスドラマ「梅花藻/後編(飛騨一之宮編)」

Update: 2025-10-09
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Description

1934年、高山本線が開業したばかりの飛騨。久々野から宮峠を越え、二人がたどり着いたのは聖域・飛騨一宮水無神社。前編で出会った“女スパイ”梅花藻と少年りんごは、臥龍桜/夫婦松/水無神社に散らされた暗号を手がかりに、山上の奥宮へと向かいます。待ち受けるのは、陽炎を創設した男・蛇(オロチ)。そして、国の命運すら揺るがす「ある秘匿物」の真相。

後編は、りんごのモノローグが中心。
リンゴを分け合うささやかな時間、臥龍桜のしめ縄に潜む数字、そして奥宮での決断。スパイ・アクションの緊張感と、少年のまっすぐな祈りが同時に走る、ヒダテン!屈指のエピソードです。

<『梅花藻(バイカモ)』後編「飛騨一之宮編」>

【ペルソナ】

・少年りんご(12歳/CV:坂田月菜)=岐阜から高山線に乗り込んできた尋常小学校の低学年

・梅花藻(25歳/CV:小椋美織)=コードネーム梅花藻(ばいかも)。政府の諜報機関「陽炎」所属

・春樹(ハルキ=62歳/CV:日比野正裕)=蛇の同級生。詩人であり小説家。父は水無神社宮司

・蛇(オロチ=62歳/CV:日比野正裕)=諜報機関「陽炎」を作った人物。逃げた梅花藻を追う

【プロット】

【資料:バイカモ/一之宮町まちづくり協議会】

https://miyamachikyo.jp/monogatari/pg325.html

・時代設定=高山本線が開業した1934年(10/25全線開業)

・陸軍省が国防強化を主張するパンフレットを配布し軍事色が強まる

・国際的には満州国が帝国となり溥儀が皇帝に即位

・ドイツとポーランドの間で不可侵条約が結ばれた

※一部が梅花藻のモノローグ、二部はりんごのモノローグ

<プロローグ/宮峠の鞍部にて>

◾️SE/秋の虫の声/森の中を歩く音/近くに流れる沢の細流(せせらぎ)

「はあっ、はあっ、はあっ・・」

「りんごクン、大丈夫?もうヘバっちゃった?」

梅花藻のお姉さんが意地悪そうに笑う。

「宮峠を越えたらもう宮村だから」

そう言ってボクの手を引く。

ボクたちはまだ、出会ってから24時間も経っていない。

この道行(みちゆき)が始まったのは、昨日。

母さんの葬式の真っ最中から。

(葬式の最中、見知らぬ男たちが父さんを連れ去った。

「久々野のおじいちゃんに届けるように」

そう言って父さんがボクに託したのは母さんの遺骨。

ボクは一晩中逃げたんだけど、岐阜駅で知らない男たちに捕まってしまった。

気づけば汽車に乗せられて、高山本線で富山へ。

助けてくれたのは、一人の女の人。

梅花藻という名前のお姉さんが

たった一人で悪者をやっつけちゃったんだ。

お姉さんは、故郷の宮村へ向かう途中だと言った。

久々野と宮村。

目的地が近かったからボクたちは一緒にいくことになった。

でも、どうして悪者はボクを追ってくるのか。

それに気づいたのもお姉さん。

お姉さんは、母さんの遺骨の中から、一枚の地図を見つけた。

それがなんなのかわかんないけど、悪者はそれを探してたんだと思う。

だっておじいちゃんのりんご農園へ帰ったときもやつらがいたんだもん。

お姉さんが知らないうちにやっつけてくれたけど。

用事を終えたお姉さんは、ボクを置いて一人で水無神社へ行こうとしたけれどボクはお姉さんを追いかけた。

だってボクは決めたんだ。お姉さんについていこうと)

父さんが悪者に連れ去られたり、ボクも汽車に乗せられたりと

いろいろあったけど。

いまはこうして手をつないで、宮村への山道を歩いてる。

「なに独り言つぶやいてるの?」

お姉さんは、覗き込むようにボクに顔を近づける。

「そろそろ分水嶺だから、少し休もうか」

「うん。久々野の飛騨リンゴ。食べようよ」

「そうね。こっちへ」

リンゴを投げると、お姉さんは片手で受け取る。

そのまま片手でトランクのヒンジを開けて・・

さっと取り出したのは刃渡りのおおきな果物ナイフ。

あっという間にリンゴを八等分にして僕に手渡す。

「いい香り。食べる前から美味しい、ってわかるわ」

「そりゃそうさ。おじいちゃんちの飛騨リンゴは世界一だから」

「ほんとね。間違いない」(※食べながら)

「これからどこへ向かうの?」

「まずは、飛騨一宮水無神社」

「どうして?」

「見て」

お姉さんが見せてくれたのは、父さんが残した地図。

「この3つの印がどこを表すかわかる?」

「わかんない」

「一つ目は、臥龍桜。

飛騨一ノ宮駅の西側にある大きな桜の木よ。

二つ目は、夫婦松(めおとまつ)。

臥龍桜より南。山下城址の近くにある有名な松の木。

そして、3つ目がほら。

飛騨一宮水無神社ね」

「お姉さん、すごい」

「宮峠から北へまっすぐ降りていけば水無神社よ。

りんごを食べたらいきましょう」

「うん。わかった」

「直線だけど結構急な斜面だから、また体力使うわよ」

「大丈夫。

ねえ、梅花藻お姉さん」

「なあに?」

「お姉さんってなんでそんなに飛騨のこと詳しいの?」

「え?」

「だって、久々野から宮村まで、こんな山道知ってるなんて」

「どうしてかな・・・

なんだか・・体が覚えてるみたい」

お姉さんって(ホントは)一体なにものなんだろう?

ものすごく強いし、なんでも知ってて、超人みたいだ。

「思い出せないけど・・なんかそんな気がするの」

「そういえばお姉さんの名前、梅花藻。

水無神社の近くに咲いてる花の名前だって言ってた」

「そうね。今でも咲いてると思うわ」

「ふうん・・・」

「さあ、もう行くわよ。

向こうの沢でお口ゆすいできなさい」

なんか、たまに、お姉さんが母さんのように思えてくる。

昨日お葬式だったのに。ボクって親不孝者だな。

<シーン1/飛騨一宮水無神社>

◾️SE/秋の虫の声

「夜分にすみません。

旅の母子(おやこ)ですが、

一夜の宿をお願いできませんでしょうか?」

水無神社に着くと梅花藻のお姉さんは社務所へ。

こんな夜でも人がいる。

入母屋造り(いりもやづくり)の厳かな建物。

なんでも来年から、社殿を作り直すんだそうだ。

だからみんないるのかな。

宮司さんは最初、

”寺の宿坊(しゅくぼう)じゃないのだからお泊めするのは難しい”

と言ってたけど、

「いいじゃないですか。お隣の宮村薬師堂で」

と言って声をかけてきたのは、還暦くらいのおじさん。

「まだ、年端(としは)も行かないような少年もいるようだし」

お姉さんは、すごく警戒して、

「やっぱり、ほかをあたってみます」

って言う。

「いやご心配なく。まあ、私と相部屋にはなりますが。

ちょっと狭いのさえ我慢していただければ」

「いいえ。子どももいるのでご迷惑をおかけできません」

「こんな時間、このあたりに寝られる場所はありませんよ」

「でも・・」

ボクはお姉さんの袖をひっぱった。

お姉さんはボクを睨んだけど、

「さあさあ、時間も遅いので、私が案内しましょう。

私も東京から戻ったばかりなんです」

「東京」という言葉を聞いて、お姉さんの顔が強張った。

右手を胸に。

確か内ポケットにナイフが入ってるんだよなあ。

ぶっそうな。

おじさんはニコニコしながらボクたちを案内してくれる。

水無神社の宮司さんも笑顔で見送ってくれた。

<シーン1/宮村薬師堂>

◾️SE/秋の虫(鈴虫)の声

「なんだか無理やりだったかな。申し訳ない。

そうそう。自己紹介しておかないとですね」

「いえ。必要ありません」

「私は、島崎直樹と申します。

東京で物書きをやっております」

「直樹・・・」

梅花藻お姉さんの眉間の皺が一瞬緩んだ。

「私の父が昔、水無神社の宮司をしていましてね。

まだ私が幼い頃ですけど。

ここ、薬師堂は、神仏習合の時代には別当寺(べっとうじ)だったんですよ。

そんな歴史もあったので、私も父とよく掃除にきていました」

へえ〜。

だから神社の人と仲良さそうだったんだ。

「お二人はこれからどちらへ?」

「富山です」

あ。しまった。つい本当のことを。

お姉さんの眉間にまた皺が寄る。

「八尾(やつお)に親族がいるので」

ボクが次の言葉を発する前に、お姉さんが口を挟んだ。

直樹というおじさんは、じいっとお姉さんの顔を見る。

「どうかしましたか?」

「いやあ、どうしようかな・・」

「おっしゃってください。遠慮なく」

「あの・・お恥ずかしいのですが、

貴女、私の知っている女性にとてもよく似ていらっしゃる・・」

「まあ。なんだか、常套句っぽい言の葉ですわね」

「まさか、とは思いますが・・貴女、名前はウメ、と言いませんか?」

「え?」

お姉さんの顔が少しだけ赤らんだ。

「20年前・・私ここで一人の少女と出会ったんです」

「はっ・・」

「彼女の名前はウメ。5歳くらいの孤児でした。

暮らしていたのはこの薬師堂。

ウメはよく久々野まで行って、畑からリンゴを盗んできました」

盗んで・・。なんてこと。

「薬師堂でウメと初めて出会ったとき。

小さな腕に抱えたリンゴの中からひとつ、私に差し出しました」

盗んだリンゴなのに。

「私はお返しに、赤かぶ漬けや朴葉味噌のおにぎりをあげました。

ウメは美味しそうに食べてくれたなあ。

それから私が東京へ戻るまで、いろんなとこへ行って、いろんな話をした。

当時私は40代でしたが、自分の幼い頃を思い出しちゃいましてね。

臥龍桜の下で、まだ小さなウメに向かって、自分の初恋の話をしたんです」

「初恋・・」

「はい」

「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき」

「前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり」

え?どういうこと?

わかんないってば。

「やっぱり、ウメさん・・ですよね?・・・

※続きは音声でお楽しみください。

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Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会