見えてきた「自由の揺らぎ」――日本学術会議の組織変更をめぐって読み解く、政治と学問の危うい関係
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🔶静かに成立した“重大法案”
通常国会の終盤、日本学術会議を特殊法人に移行する法律が2025年6月11日に成立した。自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数によって可決されたこの法案は、2026年10月の施行をもって、戦後75年近く「国の機関」として存在してきた学術会議の在り方を大きく変える。
一方でこの法改正に関するメディアの扱いは限定的であり、多くの国民がその本質に触れる機会を持たないまま、重要な節目が通過していった。
🔶 端緒は“6人任命拒否”問題
この問題の発端は2020年、当時の菅義偉首相が日本学術会議の会員候補105人のうち、6人の任命を拒否したことに遡る。従来の政府見解では、学術会議から提出された候補者は"形式的に"首相が任命するのが慣例とされてきた。
菅首相は「総合的・俯瞰的観点から」とのみ説明し、それ以上の理由は明かさなかった。この曖昧さが「学問の自由の侵害」として多くの学者・市民の批判を呼んだ。
「理由を言わないことが最大の問題。説明責任を放棄することで、学者に“忖度”を促すような空気が生まれてしまう」――と、宮脇利充さんは警鐘を鳴らす。
🔶恐怖による支配構造と“政治忖度”の懸念
理由なき拒否は、政府にとって都合の悪い学者を排除する“サイン”にもなり得る。中国での事例(企業関係者がスパイ罪で拘束され、その根拠が不透明なまま重罰を受けるケース)を引き合いに、宮脇さんは「恐怖による自己規制が広がる構図は、民主主義にとって非常に危険だ」と指摘する。
「このままでは、学問の独立性が損なわれ、政権の顔色を伺う研究者が増えてしまう可能性すらある」
🔶日本学術会議の本来の役割とは
学術会議は1949年、第二次世界大戦で科学が軍事に利用された反省から誕生した。「軍事研究は行わない」という立場を堅持しつつ、政府に対して科学的知見から勧告や提言を行う、独立性の高い組織として存在してきた。
「学者の役目は政府の下請けではない。人類全体の幸福のために、真理を追求し続けること」――宮脇さんの言葉は、学術会議が果たしてきた歴史的背景を物語る。
🔶法改正の“実質的な中身”とは?
今回の法改正では、以下の変更点が含まれている:
会員数の拡大(210人 → 250人)
任命主体の移行(首相から会議へ)
勧告権の維持
財政支援の継続
一見、自由度が増したかのように見えるが、実態は異なる。新たに加わる“外部識者”による選考介入、首相による監事と評価委員の任命など、政府による影響力の強化が進む。
「外から見ると良い改革のように見えるが、中身を見れば“支配構造の強化”ともとれる内容。これが将来的に学問の自由を脅かさないかどうか、慎重な監視が必要だ」
🔶アカデミズムと政治の距離感
学術・科学・メディアへの圧力は、海外でも見られる。宮脇さんは「アメリカのトランプ政権を例にとっても、まず最初に攻撃されるのはメディアと学問だった」と話す。
「科学的知見が権力にとって“不都合な真実”であるとき、それを封じ込めようとする力が働く。それは民主主義社会の健全性を蝕む第一歩になる」
“自由”の本質は、異なる意見が共存できることにある。
日本学術会議の制度改正が、学問の自由と政治の距離にどのような影響をもたらすのか。いま改めて、私たち一人ひとりがこの問題に目を向けるべき時期に来ている。
聞き手:江上浩子(RKKアナウンサー)
話し手:宮脇利充(元RKKアナウンサー)