ボイスドラマ「ホリデー/後編」
Description
前編で荘川を訪れたよもぎに続き、今回はさくらが朝日町を体験します。薬膳や薬草、そして美女高原に広がる空の下で、彼女は新しいインスピレーションを得ていきます。
そして――村芝居の舞台で訪れる運命の再会。
偶然の出会いから始まった休日交換は、やがて必然の再会へ。
荘川と朝日、二つの里の魅力を舞台に、物語は感動の結末を迎えました。この物語が、あなた自身の旅のきっかけになれば幸いです。
【ペルソナ】
・さくら(28歳)=荘川の村芝居に出演、伝統芸能に興味ある静かな女性(CV=岩波あこ)
・よもぎ(28歳)=薬膳カフェのオーナー、芯の強い漢方薬剤師(CV=蓬坂えりか)
・朝市のおばちゃん(40歳くらい)=宮川朝市で花の苗を売る女性(CV=小椋美織)
<シーン1:高山濃飛バスセンター>
◾️朝のバスセンターの雑踏/ステップを降りて深呼吸するさくら
「ふう〜っ!気持ちいい〜!」
荘川の支所前から高山の濃飛バスセンターまで1時間20分。
路線バスの旅って楽しい〜!
おのぼりさんみたいに、大きなスーツケースを抱えてバスを降りる。
しかも、今日は私、浴衣姿!
って、見ればわかるよね。
白地に桜の花が満開の浴衣柄。
ヒノキのエッセンシャルオイルをさっと振って。
エアコンが効いてるバスの中は、
浴衣だけだとちょっと寒い。
だから薄い羽織を重ねてる。
ほら、これも素敵でしょ。
透け感のある、淡い桜色の夏羽織。
ステップを降りて時計を見ると・・
8時前か・・・
◾️朝の町を歩く足音
まだ陣屋前の朝市は開いてないから、国分寺通りを宮川へ。
朝市なんて何年ぶりだろう。
なんだかドキドキする。
今日の目的は、村芝居のあしらい探し。
ここだけの話だけど、今年のテーマはファンタジー。
お花の精たちが集まって、夏の終わりを告げる人情時代劇よ。
設定はいつものように江戸の元禄時代。
え?よくわかんない?
じゃあ、見に来てよ。荘川まで。
スケジュールは観光協会のサイトに載ってるから。
私の役は、桜の精。
クライマックスには季節はずれの桜吹雪が舞うんだよ。
相手役は、江戸からやってきた役人。
ロミジュリの江戸時代版って感じかな。
舞台の小道具、あしらいはやっぱり、お花がいいよね。
艶やかな花魁たちには、ハイビスカスやアサガオ。
恋人役の男の子は・・ひまわり!
いろんなお花売ってるといいな。
◾️朝市の雑踏
「すみません」
「はい、いらっしゃい」
「ヒマワリってありますか?」
鍛治橋(かじばし)に近いお店。
お花の苗を売っているおばちゃんに、腰をかがめて話しかける。
そのときおばちゃんの前に座っていたのは・・・
ミズバショウの柄のグリーンの浴衣を着た女性。
手にはラベンダー?の苗。
大きなトートバッグを背負って(しょって)・・観光客かしら。
おばちゃんは私に向かって、人の良さそうな笑顔で、
「切り花かい?うちには切り花は置いてないわなあ。
もう少し待てば、陣屋の市が開(あ)くで。
あっちに確か切り花の店があったわ」
「そうですか・・ありがとうございます。
行ってみます」
私は浴衣が汚れないよう、裾をひるがえして歩いていく。
◾️足音
「まって」
「はい?」
声をかけてきたのは先ほどの女性。
浴衣の裾にミズバショウが咲いている。
「お花を探してるんですか?」
「ああ、はい。
今度・・お花を題材にしたお芝居をやるんです」
村芝居だけど・・・
「お芝居?劇団の方ですか?」
「あ、そんなたいしたものじゃないです。
ただの趣味で・・」
だから村芝居なんだけど・・・
「それで高山まで?」
「ええまあ・・・そんな感じ」
私のこと、自分と同じ観光客だと思ってる?
ま、荘川からきた観光客、と言えなくもない。
荘川も高山市なんだけど。ふふ。
「貴女(あなた)は?
さっきラベンダーを持ってらっしゃったみたいだけど」
「ええ、白花ラベンダー。
ハーブティーにしたり、入浴剤にするとリラックスできますよ」
「そうなんですか・・」
「はい。私、薬膳カフェをやっているので」
「まあ素敵。お似合いよ」
「ありがとう。このあと陣屋前の朝市へ行かれるんでしょ。
よければご一緒にいかがですか?」
「本当ですか?」
「私も見たいものがあったので」
「よろこんで」
浴衣姿の美女2人(笑)・・
私たちは肩を並べて宮川沿いを歩く。
白地に桜吹雪。翡翠色に真っ白なミズバショウ。
なのに手にはスーツケース。背中にトートバッグ。
はたから見たら、2人とも絶対観光客だよねえ。
ほら、また外国人観光客が振り返る。
ああ、せせらぎの音が気持ちいい。
<シーン2:荘川の自宅でアプリインストール>
◾️虫の声
荘川へ帰ったら、すぐに公民館へ。
村芝居の練習はたいていここだ。
開いたスーツケースの中身。
陣屋前朝市で購入してきた小物を皆に配る。
ひまわりの花と桔梗の花。ひまわりは相手役の男性が手に持つ。太陽と再生のイメージ。
桔梗はラストシーンで私が持つ。美しい星の形の白い桔梗。
春の桜から秋の桔梗へと引き継ぐ。
彼に別れを告げる悲しいアイテム。
和紙でできた提灯や、匠が作った竹細工は、小道具ね。
着物の端切れは、お裁縫が得意な私には必須。
柄や色を組み合わせて、個性的な衣装を作ろうかな。
そして・・・
薬草のよもぎ。
そう。これは一緒に歩いた彼女が選んだ。
”高山にあるもので一番好きなものは?”って聞いたら
迷わず「よもぎ」って言うんだもの。観光客にしては、渋すぎない?
私が「高山で一番美味しいのは荘川そば」って伝えたときは
「朝日のよもぎうどんも美味しい」って、なんか反論してたけど。
よもぎの葉は、ハーブとして、またアロマとしても最高、なんだって。
そうだ、彼女、薬膳カフェをやってるって言ってたなあ。
どこでやってるんだろう?名古屋?東京?
考えてみたら私たち結構一緒にいたのに、名前さえ名乗ってないわ。
なんとなく波長が合っただけ。
朝市で売ってるもの見ながらあーでもないこーでもないって。
結局別れるときもあっさりと『それじゃ、よい旅を』なんて。
ま、観光客だから、こんな距離感でいっか。
そうそう。
よもぎの葉は草木染めに適している、とも言ってた。
確かに芝居の衣装を自然な色合いに染めるにはいいかも。
いろいろ考えながら、演者(えんじゃ)に説明していく。
今年の物語はオリジナルだから、つい熱が入っちゃう。
ストーリーはね、こんな感じよ。
ときは江戸時代。宝暦(ほうれき)年間。
幕府の直轄地だった飛騨の国。
荘川村も例外ではありません。
大規模な治水工事のために、江戸から1人の役人が荘川へやってきます。
名前は翔介(しょうすけ)。
彼は成果を第一とする冷徹な男でした。
ある日、桜の精と出会い、
そのはかなくも美しい姿に心を惹かれていきます。
桜の精は、翔介に、治水が完成したら、自分は水の底へ沈むと予言しました。
治水か恋か、心が揺れる翔介。
それでも、陣屋の郡代から執拗な催促もあり、悩みながら治水を完成させます。
桜の精は翔介に”生まれ変わるなら秋の花へ”と告げて消えていくのでした。
とっても切ないお話でしょ。
「さあみんな、少し休憩にしましょ」
もうみんなセリフは入っていて、あとは動きの確認だけ。
だから休憩してお茶タイム。
そのとき、壁に貼ってあるポスターに目がいった。
観光協会から新しいアプリのお知らせ?
ふうん。
なんだろう?
高山市内10エリア在住の方限定アプリ「ホリデーシェア」?
”お金をかけずに高山市内をプチ旅して再発見しよう!”?
なあに、それ?
でもなんだか面白そう。
キャプションをじっくりと読む。
住んでいるエリア以外のエリアの人と、お部屋を交換してホリデーを楽しむ。
荘川以外の人とってことね。
自分の部屋をゲストに最大1週間ショートステイしてもらう。
代わりにその間、自分はゲストの部屋でショートステイ。
女性は女性同士でお部屋を交換。
帰るときはお掃除をして帰る。
お互いのレビューは必須。
なるほどねえ。お部屋に泊まってもらうのかあ。
お掃除しておかないと。
お金をかけずにプチ旅行できる、ってのは楽しそう。
じい〜っとアプリのお知らせを見ていたら
共演者が『行っといでよ、プチ旅』だって。
村芝居の奉納までまだ日にちがあるし、準備は終わってるから?
芝居の準備、ほぼひとりで頑張ったご褒美に?
頑張った、って・・
そんなそんなぁ・・
村芝居は私のライフワークなんだもの。
でもまあ、2泊3日くらいならいいかなあ・・
奥飛騨の温泉でまったりとか〜。うふふ・・・
※続きは音声でお楽しみください。