Ep.736 アリババ1強の終焉か?──ByteDanceが仕掛ける「AIクラウド」の仁義なき戦い(2025年12月4日配信)
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中国のテクノロジー業界で、長年続いた「序列」が崩れようとしています。TikTokの親会社であるByteDanceが、中国クラウド市場の絶対王者であるAlibabaに対して、AIインフラ領域で猛烈な攻勢を仕掛けているのです。The Informationの報道によれば、ByteDanceはその豊富な資金力と技術力を武器に、AI開発を行うスタートアップや企業の取り込みを加速させています。
これまで中国のクラウドといえば、Alibaba Cloudが圧倒的なシェアを持っていました。しかし、生成AIのブームが到来し、ゲームのルールが変わりました。企業が求めているのは、単なるデータの保管場所ではなく、AIモデルを動かすための「安くて速いGPUパワー」だからです。ここでByteDanceが強みを発揮します。彼らはTikTokや中国版のDouyinを運営するために、世界でもトップクラスの規模でNVIDIA製のGPUを買い集め、極限まで効率化された運用ノウハウを持っています。
ByteDanceの戦略は、彼らのクラウドブランド「Volcengine(火山引擎)」を通じて、この巨大な計算資源を競合他社よりも圧倒的に安い価格で提供することです。実際、彼らの主力AIモデル「Doubao」は、競合を戦慄させるほどの低価格設定で市場に投入され、瞬く間に多くの開発者を引き寄せました。「Doubaoを使うなら、最適化されたVolcengineで動かすのが一番」という導線を作ることで、Alibabaの顧客基盤を切り崩しているのです。
Alibabaも黙ってはいません。価格を引き下げ、自社のAIモデル「Qwen」とクラウドの統合を強化して対抗しています。しかし、ByteDanceは「アルゴリズムの会社」として、AIの扱いにかけては一日の長があります。アプリで培った「AIを実用化して収益を生むノウハウ」ごと企業に提供するByteDanceのアプローチは、AI活用に悩む企業にとって非常に魅力的に映ります。
かつてEコマースのインフラとして成長したAlibabaと、動画アルゴリズムのインフラとして成長したByteDance。AIという新しい時代のOSを巡るこの覇権争いは、中国市場だけでなく、世界のAIクラウドの勢力図にも影響を与える可能性があります。




